極楽の中で記憶の整理
さとりさんが僕の記憶を見た数時間後。
僕は、温泉に浸かっていた。
(…あの記憶、そしてさとりさんが読んだその先…それが正しいものならば。僕のいた元の世界は…すでに瘴気の獣でいっぱいで…滅びてしまっているのだろう)
「主よ、お困りか?」
「うわっ!?」
いつの間にかヴェルメリオが分体を作って目の前に居た。
「驚いたじゃないか…」
「…主が悩んでいるのは体内に居る我輩達にも伝わるのでな」
「…そうだ、なんでヴェルメリオを取り込んだ時に記憶が戻ったんだろう」
「…それは我輩にも分からぬ。我輩も、その他の精霊もあの時に思い出したのだ。それと…我輩を呼ぶ時はヴェルで良いぞ。我輩を作った者もそう呼んでおった」
「そっか。てっきり…ヴェルが覚えていた事を僕の頭に流し込んだものだと思ったからさ」
突然そんな記憶を流し込まれたせいで頭痛がしたのかと思ったが、違うようだ。
「…あの研究者っぽい人はさ…恐らく君たちの事を『鍵』と呼んでた。心当たりはあるかな…?」
「…それは、分からぬ。彼らはある計画に沿って、我々を作ったようだが…」
「…世界樹計画か。…成功していたら、僕はどうなっていたんだか…」
「…すまんな、我輩の記憶では…」
「いや、ヴェルのせいではないよ。…というか、どうやら記憶の共有というか…恐らく現在僕たちが持っているあの世界での記憶は、皆同じラインでしかなさそうだし。…一応聞いてみようか」
フラーウムとジリョーヌイを浮かべた桶の上に呼び出す。
「話は聞いてたね?」
「うんうん。確かに…僕もそこまでの記憶しか…」
「…僕も、同じ」
「そうであったか。…ふむ、では…残りの精霊のどちらかをまた取り込むことが出来れば、また思い出すかもしれんな」
「結局は、やることは一緒みたいだね。…さてと、とりあえず今日はヴェルが仲間になったことだし…ゆっくりしよう」
「うむ、それが良いな」
疲れがお湯に溶けていくように、僕は体の力を抜いてお湯の暖かさを感じていた。




