記憶の海の断片
…これは、なんだろう。
薄い緑色の液体の中に僕は居た。
腕や足、顔にはケーブルのようなものが繋がれ…そして液体の外側では白衣を着た人間が、手元の板と僕を見比べるようにして何か頷いている。
と、液体が少しずつ減っていく。
身体の自由も効くようになってきた。
「…君だけが、この世界を救う因子を持つ唯一の人間だ、おめでとう」
白衣の人物たちのリーダーだろうか、白髪に長い白髭を蓄えた老人が手を差し伸べてくる。
僕は、その手をとった。
「さぁ、仕上げに入るとしよう。…準備はできているか?」
「はい。部屋に『鍵』は準備できています」
「…さぁ、行こうか。君はこの世界を救う…礎となるのだ」
部屋を出て、ついていく。
廊下の窓の外に広がる世界は…黒く歪んでいた。
「…『世界樹計画』、この世界を破滅から救うための…最後の手段。君はその計画の最大の鍵だ」
老人は、こちらを見ずに話を始める。
「…この世界は壊れきってしまった。既に人類は殆どが死に、この建物に残っている者が最後であろうな。…外側は穢れきって、生命がそのままの姿で出ればすぐさま死が訪れる」
…この人は、一体何を言っているんだ…?
「だが、君の中の『種』が芽吹く時、この世界は救われるんだ。…さぁ、この扉の先に、君の芽吹きに必要な鍵がある。一緒に入ろうではないか…」
老人は扉を開き、光が溢れ……
「……っ!?」
「…!主様!」
「ここ、は…?」
「地霊殿ですよ。…体調はどうですか?」
…そうだ、僕はヴェルメリオを取り込んだ後に…
「いきなり頭を抱えて倒れるんだもん、びっくりしたよ」
「あ、あぁ…すまない…」
「…まだ顔色が悪いですね、どうかしたんですか?」
「…妙な夢を、見ていた。…いや、そもそもあれは夢なのか…?」
夢にしては、妙にリアルだったし…おそらく、僕はあの体験を実際にしているように思えた。あれは僕が失っていた記憶の断片なのか…?
「とりあえず、もう少し休んでいた方がいいでしょう」
「…そうします」




