中腹、白狼と烏
だいぶ登ってきたところで、一旦休憩を取る。
隣には文さんも一緒だった。
「うん、景色がとてもいいね。木の間から見下ろす風景っていうのも…空を飛んで見下ろすのとは違って」
「そんなもんですかねぇ。ま、私たちが見慣れているからかもしれませんけど…」
「あ、飲みます?」
「あやや、ありがとうございます」
縮小版の空間魔法は鞄の代わりになる。かなり早い時期に覚えられたのはとても重宝している。
「空間魔法、便利ですねぇ」
「ええ。便利なんですけど…移動のために使うにはその場所の正確な位置を知っておく必要があるんですよ」
「…それ、私に言っちゃっても良かったんですか?山に属する私からするといろいろと笑えない状態なんですけど」
「妖怪の賢者の従者として、なるべく幻想郷に関わる異変を鎮めるべく動くには各地にすぐ飛べた方がいいので、と言っておきます」
「…まぁ、その立場であればこそですね。…もし黄さんが自力でその能力だったりを開花させてどこにも属していない存在ならば真っ先に貴方はあのスキマ妖怪の標的になるでしょうから」
…確かにそうだが、一番最初に見つけてくれて、手を差し伸べてくれたのは紫様だった。やはり幸運だったんだろう。
「貴方が来た日…ですかね。そりゃもう天狗達は大騒ぎでしたよ。いきなり得体の知れない貴方が出てきたと思って、動向を観察してたら掠め取られてしまって結局動けずじまいだったんですから」
「それは…悪いことをしました」
「いえ、黄さんが悪いとは言っていませんよ。もしあのままとどまる素振りを見せたなら私だったり哨戒の白狼天狗が警告をして…幻想入りしたばかりだと知ったらとりあえず麓までは送ったでしょうから」
「あれ、意外と対応が穏便。いきなり殺しにかかるのかと」
「そこまで殺伐とはしていませんよ…」
「あ、すいません…」
僕と文さんが気まずい空気になってしまったタイミングで同時にお茶を飲み干す。
と、横の草むらから誰かが出てきた。
「…いつまでそれと同行するつもりですか」
「あら、哨戒の任務はいいんですか椛?」
…この子が哨戒の白狼天狗か。…あ、クーと同じくらい尻尾がもふもふしてる。
「彼は私が監視しておきますから。神社の方々のお誘いだそうですので」
「信用がなりません。そもそも、最初に訪れた時に捕らえるべきだったのです」
「…文さーん、話が違うんですけどー」
「あややや…椛はちょっとばかり頭が固いので…」
「聞こえてますよ二人とも!」
あ、尻尾の毛が逆立ってる。
「どこを見ているんですか!」
「ん、尻尾を。僕の式神と似たような反応をするもんだから」
「なっ…!?」
指摘すると慌てて尻尾を隠すところまでそっくりなのかよ。
「椛、とりあえず任務に戻りなさいな。貴女なら遠くからでも監視できるでしょうに。それとも…私が彼に遅れを取るとでも?空間魔法を使われる前に捕らえてしまえばいいんですから」
「くっ…分かりました。くれぐれも気をつけるように」
「わかってますよ。お仕事がんばってくださいねー」
…うーん、やっぱり少し動き辛いなぁ。
「…文さん、僕が空間魔法を使う前に捕らえる自信があるんですか?」
「…いえ、無理でしょうね。でもああ言わないと椛は納得してくれませんし。…どうせ捕まえたところで、私ごと移動して私からしたら目の前にラスボスが居るみたいな状況も作れるんですから貴方は」
全くその通りだったりする。




