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GRANJA  作者: 秋山さくら
第一章 始まりはいつもの日常
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第7話 出会い

放課後のせいか生徒はあまり残っていなかった。2-3に入っても誰もいなかった。とはいえ、自分のクラス教室じゃないので一応失礼しますと言って、ゆずねは足を踏み入れた。

(他のクラスに入るなんて友のクラス以外はじめてかも)

なんとなく窓際に近づくと、窓から運動場が見えた。

「うわぁー!」

運動場は真っ赤な夕陽に照らされてとても綺麗だった。

(いいな。私のクラスからはこんな綺麗な夕陽見られないのに)

夕陽の下、野球部やサッカー部が部活をしていた。ゆずねはしばらく様子を見ていたが、野球とかルールよく知らないから分からないと言って、ボーッと夕陽を眺めて男を待った。

それから5分ほど経って、バタバタと廊下から足音がしてきた。

「ごめん。遅くなった!」

息を切らしながら男が教室に入ってきた。

「呼んでおいて来ないかと思ったよ」

ゆずねはドアの方に振り向くと笑いながら言った。

「ほんとごめん!保健室から抜け出せなくて」

「保健室?」

「うん。俺、本当に熱があって」

「え…。で、でしょ?言ったじゃん!!」

(あれ、私すごーい)

「何度だったの?」

「37.5度」

「…すっごい、微熱だね」

「うん。でも、熱は熱だって言って先生が煩くて」

「あはは。そうなんだー」

(あと5分したら帰ろうと思っていたのに…先生…もう少しがんばってもよかったよ)

「…はぁはぁ。それで…、あの…、さっそくだけど…」

息がまだ上がっている男は声を詰まらせながら言った。

「どうしたの?」

「う、うん。返事なんだけど」

「返事…。その、気持ちは分かったんだけど…その、付き合いたいってことなの…?」

ゆずねが頬を染め、気まずそうに目線をそらしながら言うと、男はしまったという顔をした。

「ごめん!最後まで言い切ってなくて!俺、桜坂さんが好きです。俺と付き合ってくれませんか!」

躊躇なく、すごい大きな声でそんなことをはっきりと言うものだから、周りに人がいないと分かっていてもあたふたしてしまう。

「ちょっ!そんな大きな声で…」

ゆずねは顔を真っ赤にしてやめてやめてと言った。

(は、恥ずかしすぎる)


その様子を見た男は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

「ごめん…。俺、余裕なくって…」

「ううん。大丈夫」

「それで、その…」

男が言い切る前にゆずねは答える。

「あなたのことは嫌いじゃない。むしろこんな短時間しか話していないけど、とても楽しかった…。でも…ごめんなさい」

「…」


男はなんで?とは言わなかったが顔がとても理由を聞きたそうにしていた。それを分かっていながら、ゆずねは理由を言わずに立ち去ろうと、教室のドアに手をかけた。

「やっぱり、森山って奴と付き合っているのか?」

「え?」

(なぜにそこに友が出てくる…?)

「同じ家に住んでいるんだろう」

「そうだけど…。友は兄弟だよ?」

ゆずねはそんなの当たり前じゃんといった様子で苦笑した。

「確かに、私と友は血が繋がっていないし、年同じだし。なんか間違いがあるんじゃないかっていう人もいるけど。友とは小さな頃から同じ親に一緒に育てられた大切な兄弟だよ」

ゆずねがはっきりと言い切ると、男はますます分からないといった顔をした。

「じゃあなんで?」

「ん~。私ね。恋愛ってまだよく分からないんだ。まだ好きな人できたことないし。この年になって変だよね?」

自嘲気味にゆずねは笑った。

「…」

それを聞いて男は黙り込み、動かなくなってしまったので、ゆずねは男を残して教室を後にした。すっかり暗くなった廊下を歩いて玄関を出ようとした時、バタバタと騒がしい音が廊下に響いた。

「桜坂さん!」

「…あなたってほんと騒がしい人だね」

けらけらとゆずねは笑った。

(ほんとよく走る人だな)

「そ、それって、俺にもチャンスはあるってことだよね?」

「チャンス?」

「桜坂さんの恋人になるチャンス!」

「う、う~ん…」

しばらく考えたあとゆずねは言った。

「あるかもね」

「よっしゃっ!」

男は小さなガッツポーズをした。その様子をゆずねが微笑ましく見守る。

「よし、じゃあ一緒に帰ろうか?」

「え、いいの?」

「うん。帰ろう~」

下駄箱から靴を取り出し、靴を履いたゆずねが思い出したように言った。

「あ、そうだ!君の名前は…?」

「ん?俺の名前は結城綾人(ゆうきあやと)

「ん~と、綾人って読んだらいい?」

「そうだね、綾人で」

「よし、じゃあ帰るぞ。綾人」

うん。帰るぞー!と叫んだ綾人を見て、ゆずねは笑った。


(そのときのゆずねはまだ幼い少女だった)





その日の夜――


玄関に入り、いつもあるゆずねの靴を探す。

珍しく友はゆずねよりも早く家に着いたようだった。

「おかえりなさい」

キッチンから母が顔を出す。

「ただいま。ゆずねは?」

「まだよ。友くんの方が早いなんて珍しいわね。友達と遊んでいるのかしら」

そういうと、母はキッチンへ戻っていった。

「…」

友は靴をスリッパに履き替えると2階にある自分の部屋に向かった。


(あれは何だった…)

今日の昼のことを思い返す。

昼休みに自分で席で座ってボーッとしていた時だった。友の教室の前をゆずねが見たこともない男に手を引かれて何処かへ行ったのが目に入った。しばらくして、今度はゆずねが男の手を引いて走り去っていった。

(アイツ何やってんだ)

そのときは呆れながら見ていたが、今は気になって仕方ない。

「…あの男は誰だ?」

友はボソッと呟くと、自分の部屋の扉を閉めた。


その後、友より30分ほど遅れてゆずねが帰ってきた。いつも通りの明るい姿に友は安堵する。

(元気ならいいか…)

何となく違和感を覚えたが、考えすぎていたんだと自分に言い聞かせていると、顔色が良くないとゆずねに心配され、考えるのが馬鹿らしくなった。

(きっと気のせいだ…)


夕食後――

友とゆずねが部屋に戻った後、1階のリビングで父と母は悲しそうにカレンダーを眺めていた。カレンダーの今日の日付には二重丸が付いていた。

「ついに今日がきたのね」

「あぁ」

「どうしようも…ないのね…」

「…運命には逆らえないよ」

父は泣き崩れる母を後ろからそっと抱きしめた。

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