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GRANJA  作者: 秋山さくら
第一章 始まりはいつもの日常
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第4話 家族

― ゆずね家 ―


「ただいまー!」

ガチャッ

「おかえりなさい」

母の声がキッチンから聞こえてくる。ゆずねは玄関で靴を脱いでスリッパに履きかえ、キッチンに向かった。

「ただいま」

そこには楽しそうに料理をするゆずねのお母さんが居て、おかえりなさいともう一度言ってくれた。

「友、もう帰ってる?」

「まだよー、部活で遅くなるって言ってたから、今日は遅いわよ」

「あ、そうなんだ。父さんは?」

ゆずねが帰ったときはほとんど友と父が先に帰って来ている。父は考古学者で近くの研究所で働いている。友は剣道部の副将で、たまに帰りが遅くなっていた。もちろん、ゆずねも部活に所属している。ゆずねは美術部だった。

「父さんは、ん~そろそろ帰ってくるはずよ」

母はちらっと時計を見て、時間を確認した。

「今が7時だから・・・半には帰ってくると思うわ」

「じゃあ、半になったらご飯食べよう?お腹ペコペコだよ」

「はいはい」

ゆずねは母はクスクス笑い、止まっていた手を動かし、料理を再開した。ゆずねは嬉しそうに段階を昇り、自分の部屋へ向かった。

しばらくすると、ただいまと下の階から声が聞こえてきた。

「お父さんかな?」

机に向かっていたゆずねはその声に反応した。

数秒経って、下から、ゆずね、ご飯よ!と母の声が聞こえてきた。

「はーい」

返事をして下へ降りていく。キッチンに入るとそこにはすでにイスに座って待っている父がいた。

「お帰りなさい、父さん」

「ただいま」

一言父に挨拶するとキッチンの方へ向かい、母が作った料理を机へと運ぶ。今日の夕食は母の手作りハンバーグ。デミグラスソースの美味しい香りがキッチンを満たしている。料理が運び終わると、2人も席につき、3人は食べ始めた。ゆずねが一言、美味しいと言うと、父はうん、そうだな、と言い、黙々と食べていた。そんな2人をゆずねのお母さんはほほ笑みながら見ていた。


しばらくすると、

ガチャッ――

「ただいま」

玄関のドアが開いた音がして、友の声が聞こえてきた。

「あら、友くん帰ってきたわ」

「あ、うちが行くよ」

そう言うと、ゆずねは立ち上がり玄関へ向かった。友は部活の荷物が多いため、いつも誰かが玄関で出迎えて、荷物を受け取っていた。

「おかえり」

「ただいま」

ゆずねがニッコリ笑いながら言うと、友は少しはにかみながら答えた。こんな友の笑顔をクラスの女子が見たら卒倒するだろう。友は人との付き合いが苦手なのか、あまり多くの人と関わらない。しかし・・・この外見では、世の女の子たちが放っておくわけがない。


スラッと伸びた長い脚、細身の体なのにしっかりと筋肉がついている。肌の色は白過ぎず、黒過ぎず、髪は綺麗な黒色、最近散髪に行っていないようで長さは長め。眉毛は男らしくしっかりしていて、目は綺麗な焦げ茶色。制服姿もいいが、女子の中では、剣道の胴着を着たときが一番かっこいいらしい。


私が友と一緒の家に住んでいると知った、友の親衛隊は私に睨みをきかせていたが、全くもってその気がないことを表現すると、分かってくれた。漫画でよくある、いびりとかいじめとかにならなくて本当によかったと思う。その悩みの種だった張本人は背負っていた剣道の防具入れを床に置いた。


ドスンッ

「ちょっと、もっとゆっくり置きなよ」

「もう無理・・・疲れた・・・」

友はフラフラと歩いて、玄関の段の上に座った。

「友ー!」

見かねたゆずねが耳元で叫ぶと、

「・・・何?」

めんどくさそうに答えた。

「お・ふ・ろ!入ってきなよ」

「あー、うん。そうだな」

心ここにあらずといった様子で返事をした友は靴を脱いでフラフラとお風呂場へ歩いて行った。

(あの様子じゃお湯に浸かってぐっすりだろう。1時間は見ておくことにしよう)

そう思いながら友の荷物をいつもの場所へと運び、リビングへ戻っていった。

リビングへ戻ると、友くんどうだった?と母がゆずねに聞いた。ゆずねは首を横に振って、お風呂に入ったよ、と答えた。

「そう。タオルはもうお風呂場に置いてあるから大丈夫よ。ご飯食べなさい」

「うん」

ゆずねは言われたとおりに椅子に座って、食べかけだったハンバーグを食べ始めた。

(まだ暖かくて美味しいや)

料理が冷める前に3人は晩食を終えた。


それから1時間ぐらい経って、友が目を擦りながらリビングへ入ってきた。いつもご飯を食べる椅子に座る。真っ白なTシャツに黒のズボン、濡れた髪に肩にはタオル。恐ろしく友に似合っていた。

(友って部活一筋って感じだよね)

リビングでテレビを見ていたゆずねは友の方に振り返り、その様子を見ながら思う。隣で一緒にテレビを見ていた母はいつものように立ち上がりキッチンへ向かう。

「友くん、ご飯食べる?」

「あ、お願いします」

「はいはい、ゆずね手伝ってー」

「うん!」

ゆずねはテレビの電源を切り、脱ぎ捨ててあったスリッパを履いて慌ただしくキッチンへ向かう。ゆずねが友の前にデミグラスソースのかかったハンバーグを出すと、友は目を輝かせた。

「うまそー!」

「美味しかったよ!」

「ふふふ、これには名前があるのよ」

「な・・・名前・・・?」

友は訝しげに母に聞き返した。母とゆずねはアイコンタクトを取ると、お互いに頷きあった。

「題して!友くん今日もお疲れ様でした!めざせ打倒主将!!」

タッタラー!! パチパチパチーー

どこからともなく音楽が流れてきた。

「・・・」

友は時が止まったように止まり、次の瞬間苦虫を噛んだように顔を歪ませた。

「ゆずね!その音楽最高よ!」

母がゆずねに向かって親指を立てるとゆずねも親指を立てて、満足そうな笑みを浮かべた。2人とも友の反応なんて気にもしていなかった。そのうち友は、壊れたように方を震わせて笑いだした。その様子を見たゆずねが面白かった?と聞くと、バカか?、と笑いながら言った。どうやら友の笑いのツボに入ったようだ。

「一体どこから音楽ながしてんだよ」

「あ、それはね・・・これ!」

ゆずねの手にはスピーカー付きの音楽プレーヤーが握られていた。

「最近のは凄いんだよ」

ねー?とゆずねと母は共感しあう。

「そろそろ2人についていけない」

「「えー!!」」

「ってか、もう食べてもいいですか?」

「もちろん!」

「どうぞー」

2人から了解を得て、ようやく友は食事にありつけたのだった。

ちょっと冷めてるし・・・友は心の中で呟いた。


友が食事を食べ終えると、ゆずねと友はそれぞれ自分の部屋にもどるため2階へ上がっていった。母はそれを見届けてからキッチンの片づけを始めた。2階の階段を上がりきり、部屋へ入ろうとするゆずねを友は呼び止めた。

「ゆずね、今日学校で何かあったのか?」

「へ?ど・・・どうしたのいきなり」

「なんか・・・今日のお前態度が変だ」

「そんなことないよ?いつも通り元気元気!だから、そんな心配そうな顔しないで?ね?」

「本当に?」

「本当に!いいから!はいっ自分の部屋に入る入る!」

ゆずねは友を部屋に押し込んだ。友の体が部屋に入ったところで、大丈夫だからね!と言ってドアを閉めた。

「ほんと・・・分かりやすい奴」

友を閉められたドアの前であきれながら呟いた。

バタンッ

自分の部屋に戻ったゆずねは、フーッっと息を吐いて、ドアに寄りかかった。そのままズルズルと下に移動して床に座り込んだ。

「やっぱり友にはかなわないな・・・」

ゆずねは自分の膝の中に顔をうずねて体を丸くした。額にはさっきできた冷や汗がまだ残っていた。

「一体なんだったんだろう・・・」

カフェであった出来事を思い出しても、あれが何だったのか全く分からなかった。その夜、ゆずねの部屋には、いつまでも明かりが付いていた。

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