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GRANJA  作者: 秋山さくら
第一章 始まりはいつもの日常
3/15

第2話 友

― ゆずねの家 ―


「ふぅ~着替え終了」

ゆずねは着替えを終え、ドアを開けようとドアノブに手をかけた。

「おっ、その前に…」

窓の方へ歩いて行き、シャッと景気よくカーテンを開けた。光がいっきに差し込んできて目が痛くなる。外はとても明るい。いきなり開いたカーテンに驚いて、近くにいた小鳥たちは飛んでいってしまった。

(なんかごめん)

そう思いながらも、ゆずねはまぁいいかと気を取り直して部屋を出た。まずはお父さんを起こそう。父の部屋の前に着き、深呼吸をする。そして、遠慮なくドアを開けた。

バタンッ!

「父さん!朝だよっ。起きて!…ってか起きなさい!」

大声で言っているのに起きる気配がない父。

「ほんと…起きないな~」

ゆずねの父は、いつもなかなか起きない。父を起す担当のゆずねは毎朝手を焼いている。

― そのとき一階では ―

バタンッ

「父さん………!!」

二階から凄い音が聞こえてくる。

「あら~。今日は一段と凄いわねー。近所迷惑にならないかしら」

のんきにテレビを見ていた母親は天井を見て言った。


― 二階 ―


「ん~まだ6時すぎじゃないか」

もぞもぞと布団が動く。

(気持ちは分かるんだけど…)

それを見たゆずねは肩を落としながら、布団に向かって言う。

「早く起きないと朝食抜き!」

「そ…それは困る!」

そう言って、やっと布団の中から父親が出てきた。父親はベットの上で胡座をかき、眠そうに目を細めながらゆずねを見た。

「おはよう、ゆずね」

「はい、おはよう。じゃ、友起こしに行くわ」

ゆずねは言い終わると同時にドアの方に振り向き、部屋を出ていこうとする。

「ちょっ…父さんを一人にする気か!?」

ゆずねは父親の方に顔を向け、何も言わずにスタスタと友の部屋へ向かった。部屋には父親の声が寂しく響いていた。

(父さんは今、なんでも寂しがるお年頃だから仕方ない。放っておこう)

そう思いながら、友の部屋のドアを開けた。

「あ…」

ノックをするのを忘れていた。

「…」

友は無言で開いたドアの方を見た。そこにはドアノブを持ったまま止まったゆずねがいた。

「ご…はんだよ」

「あぁ」

ゆずねはゆっくり後ずさりして、

キッーーーーパタン

ドアを閉めた。

「…ビックリしたー!」

ゆずねは閉められたドアの前でそう言って、一階に向かった。一方、友は何事もなかったように着替えを続けていた。部屋の中からは、ドアの向こう側のゆずねの声がよく聞こえた。


― 1階 ―


「そろそろ作り始めようかしら」

ゆずね母はよっこらしょっと言って立ち上がり、キッチンへ入った。キッチンはリビングの中にあり、キッチンからリビング全部を見渡すことができる。

ちょうどその時。

トン トン トンッ

リズム良くゆずねが2階から降りてきた。母はゆずねを見つけると、早かったわねと言った。

「そうかな?今日の朝ご飯は何を作るの?」

ゆずねは椅子にかけてあったエプロンを取ってつけながらキッチンに入った。

「ん~そうね…」

2人は朝食を作り始めた。


******


「め~し~できたか~?」

突然黒い影が現れた。

「わっ!」

ゆずねは驚いて声がする方に振り向いた。

「なんだ…父さんか」

娘は軽く父をかわして、テーブルに朝食を運んでいった。

「なんだ、って…」

父はそんな娘を見て軽く傷つきながら、テーブルについた。

「はいはい、ごはんできたわよ、座って座って」

母がキッチンから顔を出して言った。ゆずねは、席に着いた父の前にどんどん料理や食器を並べていった。

「おぉー!うまそうだな」

「でしょ?」

ニコッ

ゆずねは珍しく父に笑顔を振りまいた。

ゆずねが笑ってくれた…

そのことに父感動。



「ゆずね最近学校は…」

「ゆず~友くん呼んできてくれない?」

「あ、は~い」

「…」

父の決死の話しかけにも気づきもせずにゆずねは友を呼びに行ってしまった。父再び傷つく。ゆずねは1階の階段から2階に向かって叫んだ。

「友~ごはんだよ~」

「…」

「友~?」

2階にいるはずの友から返事がない。

寝てるのかな?

珍しく2度寝でもしたのかなと思って、階段を上ろうとした時…

「わ!」

急に目の前が真っ暗になった。理由はすぐに分かった。これは友の手だ。

「もう来てる」

後ろから友の声がした。

「もう~」

「ククッ」

友は軽く笑って言った。

「もうご飯できてるからキッチンに行こう」

「あ、それ、私のセリフなんですけど!」

「はいはい」

「ゆ…友の馬鹿~!」

私はそれぐらいしか言う言葉が浮ばなかった。

(私ってほんと馬鹿…)

「ごちそうさまでした!」

朝ご飯を食べ終えた後、ゆずねは一番に食器を片付けて、自分の部屋に戻っていった。友も後を追うように席を立ち、自分の部屋に戻ろうとした時、

「友くん、そろそろだよ。大丈夫?」

友はイスから立ち上がった体勢で止まり、しばらく黙ったあと、うなづいた。ゆずねの母はそんな友を見て、そう…ならいいのよと言い、微笑んだ。友は、すみませんと言って、部屋に戻っていった。

「あの2人大丈夫かしら?」

「大丈夫、…大丈夫だよ」

ゆずねの父はまるで自分に言い聞かせるかのようにその問いに答えた。その言葉を聞いてもどこか不安げな母を父はそっと抱き寄せた。父は大丈夫ともう一度言い、2人は目を見あわし、2人が出て行ったドアの方を見つめた。

「信じよう」

「…そうね」

母は目をつぶり、再び開いて父の顔を見るときには不安のない笑顔を見せた。


******


コンコンッ


「友、入ってもいい?」

「…」

しばらく沈黙があって、ドアが開いた。

ガチャッ

「どうした?」

「暇だから来たの」

ゆずねはニコニコと笑いながらそう言った。それを見て、どこか不安げだった友の顔がすこし和らいだ。

「はいはい、どうぞ」

ゆずねは友の部屋に遠慮なく入り、嘗め回すように部屋の中を見回した。

「そんなに見るなよ」

「友の部屋に来るの久しぶり」

「そういえば…最近きてなかったな」

「来てなかったけど…」

ゆずねは友のベットに腰掛けた。

ボフッ

「来てなかった…けど?」

友はそんなゆずねの様子を目で追いながら話の続きをせかした。

「な~んも変わってない!」

「…まぁな」

友は、なんだそんなことかよと思いながら、自分の勉強机の前に移動して、今日の授業の準備を始めた。ゆずねはもう一度部屋を見回してボソッと言った。

「ほんと何もない部屋。つまんないの~」

「はい?別に、ゆずねの好奇心を満たすための部屋じゃないし」

「ねぇ…」

「あの…無視ですか?」

ゆずねは友に答えることもなく、立ち上がり、友の部屋の隅に歩いていく。

そして、何かを手に取った。

「これ…覚えてる?」

「ん?…あぁ、覚えているよ」

ゆずねの持つものを見た友の顔がまた和らいだ。ゆずねが持っているのは古い手帳だった。手帳があった小さなテーブルの上にはくっきりとあとが残っている。

(すごいほこり)

「なつかしー」

ゆずねが開けようと手帳のふちに手をかけた時、部屋の時計が鳴った。

ボーン

時計の音に聞き入りボーッとしていると、友に軽く頭を叩かれた。振り返ると友がカバンを持って立っていた。

「遅刻するぞ」

「え?」

「ち・こ・く!」

「え!?」

目線を急いで時計に戻すと、時計の針は7時30分を指していた。校門が閉まるまであと20分。

「やば!」

ゆずねは我に返り急いで自分の部屋に戻り、学校に行く準備を始めた。部屋から大慌てで出て行くゆずねを見て、友はあきれたように肩を上げ、自分の部屋を出た。友が1階に降りると、母がキッチンであと片付けをしていた。

「あれ、ゆずは?」

友に気づいたゆずねの母が友に話しかける。

「今、慌てて支度しています。」

「あらら」

しょーがない子ねぇと母は自分の娘を笑った。

「では、いってきます」

「いってらっしゃい、気をつけてね」

友はゆずねの母に挨拶し、先に家を出た。

-バタバタバタ-

友が家を出た後、バタバタと音を立てながらゆずねが二階から降りてきた。

「もう、ゆず!走らないの」

「だって遅刻しちゃうし…あれ?友は?」

「先に行ったわよ」

「え~!!」

「え~!!じゃない、早く行きなさい」

ゆずねはキッチンに並べられている弁当箱から自分の分を取り、小走りに玄関へ向かった。

「ん~靴が履けない…」

「かっこつけてローファーなんかにするからよ」

「だってこの方がかわいいじゃん!」

「ん~~~~よし、履けた!」


トンットントン

トンットントン


ゆずねは靴を履いた後、靴を軽く鳴らした。新品の靴はきれいな艶を出しており、ゆずねはそれを見て嬉しそうに笑った。

それを見た母が大事に履きなさいよ?と言うと、うん!大切にするよとゆずねは言い、玄関のノブに手をかけ振り向いた。

「母さん行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

そして、大急ぎで学校へと走りだした。


- 校  門 -


「っはぁ、はぁ、ま…間に合ったー」

校門が閉まるまであと1分。その場に座りこんだゆずねの近くに少女が寄ってきた。

「あっゆず、おはよう」

「…紗夜?おはよう」

座り込んだままゆずねは顔を上げ、その少女を見た。少女は髪が邪魔にならないように耳の下で二つに結んでいて見るからにまじめそうな子だった。

「だ、大丈夫?」

「あはは~大丈夫だよ」

「はい」

少女は優しく微笑み、ゆずねに手を差し伸べた。

「ありがとう~」

ゆずねは少女の手を取って立ち上がった。そして、スカートに付いた泥をはらう。

ガラガラガラ

その時校門が閉まった。その様子を横目で見つつ、ゆずねはため息をついた。

「ふぅ~疲れた」

「ゆずが遅いのめずらしいね」

「そうかな?」

ザッザッザッ

校門の方から先生が歩いてきた。

「おはよう、桜坂がこんなに遅いなんてめずらしいな」

『先生、おはようございます』

「ちょっと色々ありまして、あはは」

「そうか、早く教室に行けよ。HRに遅れるぞ」

『はい!』

そう言うと、その先生は校舎の方へ歩いて行った。二人はその先生の後ろ姿をなんとなく見ていた。

すると、後ろから…

「お~い!…お~い!」

「え?」

「な、何?」

2人が振り向くと、門の向こうで手を振る女の人がいた。その人は黒いキレイな髪を後ろで結んでおり、こっちに向かって叫んでいた。

『あ…綾さん!!』

「おはよ~!!先生もう行った!?」

「はい、もう行きましたよ~!」

ゆずねがそう言うと、その女の人は一瞬姿を消し、校門の横にある垣根の中を通って学校に入ってきた。その様子を二人は呆然と見ていた。そうしている間に女の人は二人の近くまで歩いてきた。

「二人ともぼ~っとしてどうしたの?」

何事もなかったかのようにその女の人は二人に話しかけた。

「えっあ…さすがだな~って思って…あはは」

「3年生になったらこのぐらい当たり前よ!」

ニコッとその女の人はきれいに笑った。

(…嫌、たぶん三年生でもこんなことするの綾さんだけだと思うけど…)

ゆずねはそう思いつつも苦笑いをした。

今、やってきた人は一つ上の先輩の 「森崎 綾」さん。性格は大雑把で、私以上の変わり者。この人は、ほんとうに卒業できるのだろうか?と心配にさせられる。綾さんが合流して、私たちは校舎に向かって歩き出した。

「そういえば、ゆずねも紗夜も来るの遅いのめずらしいね」

「私は、準備に手間取っちゃって…紗夜は?」

「今日は家を遅く出た方がいいんだって」

「…へ?」

「あ、綾さんは知らないんでしたっけ?紗夜は占いが趣味なんですよ。占いのことなら紗夜先生にまかせなさい!ってね」

「あ~ごめん、うち占い信じて…グフッ」

ゆずねは綾の口から次の言葉が出る前に綾の口をふさいだ。そして、綾を引き寄せて、紗夜に聞こえないようにこそこそと言った。

「綾さん、その言葉だけは言っちゃ駄目!」

小言ながらゆずねは必死に言う。

「?」

困惑する綾さんを横目にゆずねは話を続けた。

「紗夜は占いを信じない人が大嫌いなんです。信じていないなんていっちゃったら…」

「言っちゃったら…?」

「呪われます」

「………」

一瞬で綾の顔から血の気が引いた。そうなんです。私たちの後ろにいる見た目まじめな子が同じクラスの 「宮前 紗夜」性格は温厚で見た目どおりまじめ。実は、趣味は占いで、占いのことになると性格が変わってしまう子なんです。

「二人とも…?そこで何しているの?」

こそこそと話す二人を不審に思って紗夜が二人に話しかけた。

『…ヒッ!!』

「な…何でもないよ、ね?」

「はい!」

「そう?じゃあ早く行きましょう。遅刻しますよ」

「そうだね。ほら、ゆず行くよ」

「は、はい!」

こうして、三人はようやく教室へ向かって走りだした。



― 教 室 ―


「起立、きょつけ、礼、着席」

「おはようございます。皆さん」

久しぶりのこの感覚。なんだかわくわくして、心が落ち着かない気持ちになる。クラスのみんなはそわそわ、コソコソと話して、久しぶりに会った友人と楽しそうに笑っている。私も心にここにあらずというように考えにふけっていた。

「では、皆さん。体育館へ行きます。身だしなみを整えて08:40に遅れないように来て下さいね」

そう言うと、優しく微笑み、先生は教室を出て行った。

「・・・ってか、あの先生誰?」

ボソッとゆずねは呟いた。

「ゆーずーねー!」

「ん?あ、おはよう、光」

「ゆずね、ボーッとしてどうしたの?」

周りの皆は、体育館に向かったり、トイレに行くために席を立っているのにゆずねはまだ席に座っていた。

「光ーあの先生・・・誰?」

「・・・さぁ?」

「さぁって・・・」

・・・というのも、本当なら新学期が始まってクラスが替わってすぐは、旧担任がHRをするはずなのである。しかし、前の担任だった「谷」という中年の男の先生ではなく、なんだか若い女の先生がやって来たのだった。

「2人とも・・・話聞いてなかったでしょ?」

2人が首を捻っていると、スッと横から紗夜が入ってきた。

「あ、紗夜!おはよう」

「おはよう光、またクラス一緒だねー」

「うん、3人一緒でよかった!」

「確かにそれはよかったんだけど、あの先生が谷先生は産休を取ったので、代わりに来たって言ってたじゃない!」

『えーーーーーーーーーー!!!』

あまりに大きな声を2人が出すので、教室にまだいた人達が3人のことを見た。ごめん、ごめん、何でもないよ、とゆずねが言うと、何事もなかったように再び教室はガヤガヤしだした。

「それであんなにみんな話していたのか・・・」

「そうだよー!2人とも何考えていたの?」

「「これで紗夜にノート見せて貰える!」」

ゆずねは握り拳を作り、目を開き、力強く言った。

「あ~私もー!!」

光も手をあげて言った。

「・・・」

すると、紗夜は下を向いて黙った。紗夜の後ろがだんだん黒くなって、もやもや黒いオーラが出た・・・気がした。

「・・・あ・・・あんたらは!!」

『ヒッ!!』

「あ・・・ごめん。今期はより努力致します!ね?光!!」

「はい!もちろんです」

「・・・ならいいのよ」

ニコッと紗夜は笑った。黒いオーラはいつの間にかなくなっていた。フー・・・、怒らさずに貸りる方法はないのか考えよう。ゆずねと光はそれぞれ心の中で呟いた。

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