表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GRANJA  作者: 秋山さくら
第一章 始まりはいつもの日常
10/15

第8話 別れ

「友ー!今日ね、数学と古典の宿題が出てね」

「…で?」

友の部屋に突然入ってきたゆずねを友は冷めた目で見返した。ゆずねはその目に圧倒されながらも負けじと話を続けた。

「でね。古典はいけるんだけどね」

「で?」

「ごめん!数学教えて!」

「…フン。ゆずねはいっつもそれだ!数学ちゃんと授業受けてんのか?」

「…受けてます。精一杯聞いてます。でも分かりません」

「分かってなかったら意味ないだろ」

「しょーがないじゃん!分からないんだから!!」

ゆずねが分からないものは分からないんです!とキッパリ言い放つと、友は視線を逸らしてため息をついた。机の上に広げたノートに視線を戻しながら言った。

「…分かったよ。俺も自分の宿題しないといけないから、古典の宿題やったら、数学の宿題持って俺の部屋に来い」

「やったー!ありがとー!友大好き!」

「…お前なぁ」

友もそう言われて満更でもないようだった。

「じゃっ。部屋に戻りまーす!」

「…はいはい。じゃあ後でな」

部屋の扉が閉まると、友はため息を吐いた。

(いい気なものだ。これからが大変だっていうのに…)



ゆずねの部屋――

「やったー!友に教えてもらえば数学なんて余裕だ」

ボフッ

ゆずねは別途に倒れこんで喜んだ。

時計を見ると、今は7時30分。

(今からだったら1時間あれば終わるかな)

目標を1時間として、ゆずねは机に座り宿題を始めた。


数時間後――

「…ゆずね」

「ぅ~ん」

「ゆ・ず・ね!」

「う~ん…」

「起きろ!」

バシッ

容赦ない攻撃をゆずねは額に受けた。

「う゛~」

しかし、ゆずねは起きない。

友はまったく起きようとしないゆずねを見て顔を歪ませた。

(まったく…)

「あ~ぁ。俺、今日はもう寝よ~。宿題終わったし」

チラッとゆずねの方に目を向ける。

「…宿題」

「…」

「宿題!?」

スイッチが入ったようにゆずねはガバッと起きた。もう一度友がゆずねの顔をこずくと友は自分の部屋に戻っていった。

体を起こしたゆずねは眠たい目をこすりながら時計を見ると8時45分を過ぎたところだった。

「…あ」

ゆずねは数学の宿題を手に取ると急いで友の部屋に向かった。


コンコン――

「はい」

ガチャッ

「友、ごめん!」

ゆずねが部屋に入ると先ほどと同じように友が冷めた目でゆずねを見た。

ゆずねは両手を合わせて頭を下げた。

「ほんとごめん!」

「はぁー。はいはい、じゃあ宿題さっさと済ませるぞ。そこ座れ」

「…うん」

友がそう言うと、ゆずねは友の隣の椅子に腰掛けた。

「とりあえず1問目解いてみ」

友はゆずねの頭にポンッと手を置くと、コーヒー入れてくるといって部屋を出て行った。


バタン――

部屋の扉を閉める。

目の前には重い顔をした両親が立っていた。友の顔が引き締まる。

「ゆずはどんな感じ?」

「いつもと変わらず元気です」

「そう…」

母はそれを聞いて安堵していた。一息ついて、隣に立つ父の方に目を向ける。父と母は目を合わせると、互いに頷いた。

友に父が言った。

「今日だ」

「…」

友はゆっくりと目を閉じ、頷いた。母は友の手を掴み言った。

「大丈夫よ」

コクンと頷く。

「…着替えてきます。ゆずねをお願いします」

「あぁ」

友は2人にお辞儀するとその場を離れた。


コンコンッ

「はーい」

父がノックして友の部屋の扉を開けた。

「ゆずね、入るぞ」

ガチャッ――

「あれ?父さん?どうしたの」

ゆずねはキョトンとした顔で父を見た。

「ゆずね、大切な話がある」

「え、今…?」

あぁと父が言うと、中に入り扉を閉めた。扉の外では母が目を閉じて祈っていた。


父は部屋の隅にある埃を被ったアルバムの前に立った。アルバムを手に取り、埃を手ではらう。

「ゆずね、お前に隠していたことがある」

「隠していたこと?」

「落ち着いて聞いてくれ。実はお前は私たちの実の子供ではないんだ」

「…は?」

ゆずねは父は何を言っているんだろうという、少し引いた感じで見返した。

「信じられないか?」

「普通無理でしょ?」

冗談としか思えないゆずねはハハハと笑った。

しかし、父の目は真剣にゆずねを見据えていた。

「今はまだ理解できなくてもいい。いずれ誰かから聞くと思う。その時にきっと分かるようになるよ」

父は優しく笑った。

ゆずねにはその笑顔が泣いているように見えた。

「父さん?」

「俺はね。父さんではなく…」

父が言い切る前に地面が揺れだした。


ガタガタガタッ

「え…地震!?」

2人は激しい揺れに耐えるために近くにある家具にしがみついた。

「…もう来たのか」

父の姿はいつものような間の抜けた様子ではなかった。

「まるで別人みたい」

(この人は本当に私の父さんじゃないの…?)

ゆずねの心境はとても複雑なものになっていた。

「父さん!もう時間だわ」

扉を勢いよく開けながら母が入ってくる。一瞬揺れが弱くなった。

「母さん、時間が足りない。支度するまでなんとか時間を稼いでくれ」

轟音がするため、声が聞き取りづらい。父は母に向かって叫んだ。

「分かったわ!」

母も大声で答える。扉の前に立った母が目を瞑り、両手を合わせると揺れが収まった。ようやく支えなしに自分の足で立つことができる。呆然としていると父がゆずねの両腕を掴み言った。

「時間がない!説明は省く。とにかく急がないといけない。もうすぐ友も来るから2人であっちへ行くんだ。分かったな?」

「あっち?あっちって何?」

ゆずねの質問に答える暇もなかった。

「いいか。これを持っていけ」

そう言って、父は先ほど手に取った古いアルバムをゆずねに渡した。

「え、アルバム?」

「あぁ、お守りだ。大切にしてくれ」

「大切に?え?何それ、最後の別れみたいなこと言わないでよ」

ゆずねがそういうと同時にまた揺れが激しくなってきた。

「最後じゃないさ。きっとまた会える」

「きっとって?またって?」


「くっ…」

再び2人は近くの家具に捕まる。

「もう無理よ」

母がこれ以上は抑え続けられないと叫んだ。

「友は!?」

父が叫ぶと、ちょうど友が部屋の前に現れた。

「準備できてます」

「友気をつけろ。部屋の空間が歪んできている。かなり揺れるぞ」

「…はい」

(どういうこと?友は普通に立っているのに。まさかこの部屋の中だけ揺れているっていうことなの?なんで??)

「ゆずね!」

青ざめるゆずねに友がゆっくりと近づく。

「友?その服どうしたの?」

友は見たこともないような不思議な服を着ていた。

「説明はあとだ」


「友、後は任せるぞ」

父はそういうと部屋の外にいる母の方へ向かった。

「父さん!」

「ゆずね、大丈夫だ」

友は混乱しているゆずねの頬に片手を添えると、優しく笑いかけた。

「…うん」

ポケットから取り出したものをゆずねに渡す。

「これは?」

「腕輪だ。それをはめて」

「なんで?」

「いいから言うとおりにして」

「…うん」

しぶしぶゆずねがはめると腕輪が光りだした。

「えっ?」

驚いたゆずねがすぐに腕輪を外そうとするが外れない。

腕輪を包んだ光は光を発した後パッと消えた。すぐにポンッと変なものが出てきた。

「何、これ」

「説明は後」

友はさらりと流すと、現れた黄色いものにすぐに移動してくれと話しかけた。

「はいはい」

(しゃべった!?)

その変なものはめんどくさそうに答えた。すぐに黒い球体が部屋の中に現れてゆずねと友は吸い込まれそうになる。

「何これーー!!」

「絶対に俺から離れるなよ」

そう言うと友はゆずねの手をしっかりと掴み、扉の傍に立つ、父と母の2人を見て軽くお辞儀をした。そして、2人は黒い球体へと飛び込んでいった。あとに続くように先ほど現れた黄色いものも姿を消した。

2人が去った後、部屋の揺れはおさまった。ちょうどその時、

カチッ ボーン ボーン ボーン …

12回の時計の音がなった。

「ハッピーバースデイ、ゆずねちゃん」

さっきまで2人の母だった人は小さく言った。

「大丈夫。彼らなら…」

男は女の頭にポンッと手を置き、女を下に下りるように促した。

パタン ガチャンー―

男は友の部屋に鍵をかけ、女の跡に続いて階段を下りていった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ