2話
恐らく、ダラダラとしたものになっております。ご勘弁くださいm(_ _)m
二〇二一年。
「隊長! 約一km先から、奴らが迫ってきています! 指示を! 」
ビルの屋上? だろうか。スナイパーライフルのレンズを覗く男が、隊長と呼ばれる女に指示を仰ぐ。
――このままでは、ここが制圧されるのも時間の問題・・・・・・
少しの時間考え、決意を固めた彼女は命令を下した。
「撤退よ! 撤退に際し、地雷を一定間隔で配置! 」
男は、無線を取り、
「撤退だ! 各部隊持ち合わせてる地雷を配置し、撤退! 」
剣幕の表情で、無線向こうの部隊に訴えかける。
光など差し込まない世界で唱える。
――もう少しだけ
彼女は何かを押さえ込むよう、自分に言い聞かせた。
☆ ☆ ☆
「へぇ! そうなんですか! それでそれで・・・・・・・!? 」
乗り物に弱かった筈の彼が、珍しく活き活きと輝いていた。
肥前ホール会館、会場へと向かうバスの後部座席には知った顔ぶれ四人が、見知らぬ男一人を挟む形で席を有していた。
爽やかな笑顔を浮かばす、彼の名は楠サトル。どうやら、討論会の視察、というよりは記事を書くために、同じく肥前ホール会館を目指しているらしい。
「それがねぇ・・・・・・・」
左人差し指を立て、語尾を強調するクスノキ。スバルは呆れたといわんばかりに、肩肘をついて、窓の外に流れる景色を眺めている。
一方、マモルとカケルは苦々しく笑みをこぼし、どこか冗談めいた。そんなものを聞かされているような顔をしている。
「実際あの村で行方不明になった。って人もいるみたいでね。噂なんだけど、以前息子さんが行方不明になってるていう方がいてね、ある一人の男が、その行方不明になった息子さんの母親を訪ねたんだ。話を聞くに、警察には、息子なんていない。戸籍上にない。精神的病でしょう。と勝手に決め付けられたらしいんだ。そんな彼女から、男は一枚の写真を受け取ったんだ。」
気付くとクスノキの顔から笑顔は消えていた。両腿に両肘をつき、絡み合った五本の指と指の間から、ため息を。鼻から抜けるように吐いた。
「出会ったときは、気力なさげにやせこけていてね、男には想像もできなかった。――幸せで溢れかえるような笑顔を晴らした、母と子が写っていたんだ。」
期待した話とはそれた話が返ってきて、戸惑いを隠せないカケル。
それを察したクスノキが
ゴホンッ
っと咳払いを一つ置いて再び口を開いた。
「月明かりが差す日・・・・・・よなよなアンデットが出歩いて、人の肉を喰らうんだ・・・・・・」
「コンナフウニネェエ! 」
「ウギォォォオオオオオオ! 」
両手両指をガッツリ開いて、大きな口を肩によせるクスノキに驚きを隠せなかった。
その時、スバルの方がヒクリと上がったことは誰も知らない――
――まとめると、こうだ。
アンデット伝説いうのが、この付近ではあるらしく、代々語り継がれた童話みたいなものらしい。
『もぬけん殻の幼き子。こいつぁの魂、反対し、過去の自分へ輪廻する……』
アンデット伝説に語られる特徴はこうだ。
一、アンデットは死んだ時点で、魂の抜けたアンデットになる。
二、アンデットは己の因果を循環する
三、己の因果を循環したアンデットが、歴史上の科学を発展させたといわれている。
また、アンデットは人のハラワタを喰らう習性にあるという。
「ケンジくんどうかしたの? 」
「いや、何でもないです」
体調を伺う先輩に、返事をする。
「いよいよだね……」
目的地となる肥前会館についた、記者含めて五人。
予想以上に人が集まっていた。興味本位で集まる人々や、観客、制服姿、すなわち敵と思しき人々が、ホールへと向かっている姿が多々見えた。
今日はみんな制服だ。男女共に紺色のブレザー。男子はチェック柄にねずみ色のズボン、女子は紺のスカートだ。マモルの首下には赤のネクタイ。カケル、ケンジは緑。スバルは赤の蝶ネクタイ。色は学年を表している。
「いやぁ~~。感心感心。こうしてみるとマモルくんと、スバルちゃんはモデルさんみたいだな~~。ねぇ~~、マモルくん? 」
どうやら、クスノキはマモルの方がタイプだったらしい。
(ひくわ……)
などと、心の中でツッコミを抑え、ガボガボのズボンをずり上げは、ずり上げを繰り返すケンジ。
「だっさ」
いとも簡単に制服を着こなす彼女、スバルは哀れみの顔を浮かべていた。
「仕方ないだろ! これは――」
「ママが買ってきたから? でしょ」
その言葉に顔の葛藤を抑えずにはいられなかった。
「アハッハッッっ……! ワリィ、ケンジ。っっふ」
「っんん。っぷ」
腹を抱えて笑うカケルと、握りこぶしを作り小さな口を押さえて咳払いをしてごまかすミドウさん。
それにケンジは顔を真っ赤にして
「……ウルサイっ! もういくぞ! 」
頭をかきむしり、ホールを目指した。
☆ ☆ ☆
小さな音声が集まり、雑音が一定のリズムを刻む。もはや音楽のように心地いいとすら感じられる。
「はい。一橋高校ですね。かしこまりました。ご存知かも知れませんが、8時15分より開会式がございますので、それまでに中央ホールへご集まりください。」
受付のレディにマモルが軽く会釈をすますと、各々に首かけの名札を配り始めた。
「わが部のIQ花城君! 」
「わが部のムードメーカー最上君! 」
「そしてわが部の助っ人、ヘリクツマシーンことケンジくん! 」
「誰がヘリクツマシーンだ! 」
駄弁る四人一同のそばで、知り合いと思しき者と話していたクスノキが一同に振り向く。
「それじゃぁ、僕はこちとら都合上、準備とか忙しいからね。君達の活躍、しっかり見てるからね! 」
頑張っておくれと、片手を上げ見知らぬ男と人ごみに消えていくクスノキ。
――と、視界に二人の女生徒を捕らえた。
彼女らの歩く先には自然と道ができている。みなの視線は二人の美女に釘付けであった。桃色のショートカットに、高めに編んだツインテール。大きな瞳には自信が満ち溢れている。クリーム色のベストの下に白い清楚なYシャツに、黒のスカート。
一歩分、靴底の音をずらして彼女の後ろをついていく彼女も、劣らずして、光沢をえた長いストレートの桃色の髪を、ユラユラさせて歩く。
――一言でいうなら、気品溢れる少女。
姉妹? なのだろうか。
「イテッ! 」
「何ジロジロ見てるのよ? 失礼じゃない。バカなの、死ぬの? 」
遠い視線を保ったまま、スバルの左足カカトが、ケンジの右足の甲をグリグリとすりつぶす。
「どこかで見たことあるような気がするんだよな……」
腕を組み健気に考えるカケルにミドウが語る。
「彼女達はね、赤松姉妹。見て分かるとおり、彼女達の美貌もそうだけど、何よりすごいのが……全国高校模試、姉妹揃ってワンツーフィニッシュなんだよ。ちなみに、おしとやかそうな方が、妹さんだよ。 」
ここだけの話……。と声を最小ボリュームまで落として続ける。
「スバルちゃん、なんぜか対抗意識もってるんだよね。。」
「聞こえてるわよ」
「エヘヘヘヘ」と憎めない笑顔を浮かべ謝るマモルに、スバルさえも妥協してしまう。
――赤松姉妹。別に討論部の間だけで有名という訳ではない。人目を惹きつけるルックスに、生まれし時より持ち合わせたその頭脳。今までの試合も、見事なまでに適確な意見で勝利をおさめている。
姉――リン
妹――ミヤビ
若輩者ながら、滲み出る風格を、誰もが直感を通して垣間見る。
――と、絶賛注目中の二人がケンジの嫌らしい? 目線に気付いたのか、こちらに歩みを進めてくる。
「ふ~ん、君達も討論会にでるんだ」
「は、はっい! 俺達が優勝するんで、よろしく、です! 」
原始の本能がそうさせたのか、恐れを知らぬ何かのように、持ち前の無邪気を発揮する。そんな彼をみて、赤松の妹――ミヤビが気品ある笑いをこぼす。
「ケンジ……さんですね。面白いひとでございます」
一瞬、名札に目を通して確認する。
「申し遅れました。私、隣にいます姉の後に生まれました、赤松ミヤビと申します。同じく姉の、リンでございます。」
「りんですっ、ということで決勝で会いましょう。……会えたらだけど。」
捨て台詞を残し、赤松の姉ことリンは、妹の分の名札をもってその場を去る。
「これも、何かの縁。また何かございましたら、そのたびはよろしくお願い致します。」
姉と比べ嫌味一つない、純真可憐な少女は甘い声を残し、姉の姿を追った。
「ゲッホッ」
スバルのか細い腕が、ケンジのみねをとられた。
「これだから、あの女は……。何様よっ」
どうも、態度がでかい人が気に食わないらしい。
「イヤ、あんたが言えることじゃ」
「フンッ」と漏れた鼻息と同時に彼女の右足が、ケンジのスネを捉える。
(((自覚ないのかな…………)))
三人の意見が一致したことはいうまでもなかった。