魔導杯 二日目 ①
「さぁ~て皆さまお待たせしました! 魔導杯二日目、召喚士と召喚獣のタッグバトル――<魔導>カップのお時間となりました! 実況は昨日と引き続き、わたくし魔法科6年ネリア・イーヴィがお送りしまーす!」
学園のコロシアム上空で号砲の花火が鳴り響く。
その音に負けじと会場を埋め尽くした観客たちが割れんばかりの歓声を上げた。
「そして、特別ゲスト兼解説として! もはやご紹介するのもおこがましく恐れ多いことですが――伝説の巫女、勇者の姉――否! みんなの姉! オリヴィエ様とシルヴィエ様を二日連続で御招きしております!」
「よろしく頼む」
『よろしくお願いします』
まるで悲鳴のような歓声が沸き起こる。
コロシアムの観客席――さらにその上層の実況席に座っているオリヴィエとシルヴィエは慣れたように手を振り、歓声に応えていた。
「いや~昨日の熱気もすごいものでしたが今日は一段と熱い! わたくしの耳の毛も生え変わってしまうのではないかという熱気です!」
ネコ系獣人であるネリアが獣耳をぴくぴくさせながら実況を続ける。その隣ではシルヴィエが彼女の耳に手を伸ばし悪戯をしようとしていたが姉に阻止され注意されていた。
「このまま第一試合に移りたいところではありますが……まずは昨日の試合のハイライトを巫女様と一緒に振り返っていきましょう。オリヴィエ様は<武闘><精霊>の試合で気になった試合はありましたか?」
「そうだな……やはり毎年恒例となっている<武闘>決勝の殴り合いだろうか。魔法も魔導具も捨て、最終的に拳で決着をつける。優雅さには欠けるが私はそういう泥臭いものも好きだ」
いつ誰が始めたのか、<武闘>カップの決勝において前半は魔法や魔導具を用いて普通に試合を行うのだが、最終的に血生臭い殴り合いで決着をつけることが<武闘>後半のお約束となっていた。
「なるほどなるほど~さすがは何十何百の男を拳で振ってきた巫女! 「魔法使いなのに魔法を使わない決勝ってどうなんだ?」といったここ最年の疑問と批判を一撃で吹き飛ばすパンチの効いたコメントです!」
「おおい!?」
赤面したオリヴィエがネリアの言葉にツッコむように反応を示す。
だが、気分が乗ってきているネリアには聞こえていないようだ。
「ちなみにですが弟様――我が学園の学園長アルフォス様が若かった……いえ、今も十分見た目は若いんですが、アルフォス様が学園の生徒だったとして、<武闘>に出場された場合。どこまで駒を進めることができるとお姉様のお2人は予想しますか?」
「無論、決勝まで」
『優勝!』
ブラコンを発揮するエルフ姉妹に建前などない。
ここは「学園の生徒たちも日々成長を続けているから結果は想像できない」等の社交辞令的コメントでもしておけば無難だったのだが、ブラコン巫女にそのような期待はできない。
しかし、ネリアはその反応を待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべると、
「ではそれと同時に人型精霊ルダージュが出場した場合。勝つのはどちらになると予想しますか?」
巫女姉妹にとっての難問を投げかけた。
「……な、なん……だと?」
「……っ!?」
固まるオリヴィエとシルヴィエ。
先程まで弟が勝利すると謳っていた姉妹とは思えないほどの狼狽ぶりだ。
ルダージュは2人にとって婚約者と噂されている相手だ。弟と婚約者、彼女たちはどちらが勝つと思っているのか、どちらに勝ってほしいと思っているのか。観客たちも実況のやり取りに苦笑いを浮かべながらも興味津々だ。
「その、なんだ……」
そしてついにオリヴィエが意を決したのか、おずおずとした様子で妹を一瞥し、口を開くと――
「ルダージュに……勝ってほしいなー……なんて」
冗談めかしながらも律儀に答えてしまっていた。
照れが勝ったのか尻すぼみになっていたが、その答えには明らかに願望が含まれており、オリヴィエの心情の吐露が垣間見えた。
それは弟よりも誰よりも彼には強くあってほしいという願いである。
「……」
シルヴィエも同じ気持ちだった。
だが視線を落とすと、そこには空白のボードがあるだけだった。自分の本心を、言葉を、形にできていなかったのだ。例え喋ることができたとしても声という形にはできなかっただろう。恥ずかしくて動けなかったのだから。
だから、それ故にあそこまで素直になれる姉が少しだけ羨ましく思えたのだった。
「え~っと、」
ネリアは内心驚いていた。話題を繋げていくためのちょっとした質問のつもりだったのが、ここまで初心な反応をされるとは思ってもみなかったからだ。長寿エルフの余裕というものを見せてもらえるかと思えばそんなことはなく。彼女の目の前にいたのはただの恋する乙女だったのだ。
「ご、ご馳走様で~す!」
とりあえず、ネリアは当初の予定通りお茶らけた感じで話を締め、本題へと移ることにした。
「はーい、というわけで今年の魔導杯は一味違う。あの伝説の巫女姉妹も応援する精霊が登場しまーす! しかもただの精霊じゃありません、皆様ご存知の人型せい・れーい、ルダージュが参戦だああああ!」
±
「いたっ」
「……」
「どうしたんだ? セルティア、急に殴ってきて――」
「……」
「おお!? なんだなんだ……!?」
<魔導>の選手控室にて召喚獣の胸を無言でポカポカと殴る召喚士がいた。実況の内容に何か思うところがあったのだろうか。
そして、そんなコンビを眺めながらアリージェは自分の足元に視線を落とし、ぽつりと独り言を呟く。
「微笑ましいですわ。わたくしにもツペルの言葉が理解できればあんな風に――」
『落ち込まないでアリージェ! あたしたちにはあたしたちなりのコミュニケーションがあるじゃない! ほら! ルダージュたちに対抗してこっちは足よ! 足!! あたしをもっと足蹴にして満足させて!』
アリージェの声に反応したのかスライム精霊のツィーペルターが靴に変化したまま呼応するようににゅるにゅる動きだした。
「ちょっ、いけませんわ!? ツペル! くすぐったいですわ!」
『おほっ! いいわ、いいわよアリージェ! もっと、もっとあたしを踏むのよお~!』
ツィーペルターのくすぐりに逃れるように足踏みするが、それはただの逆効果で変態スライムを喜ばせるだけだった。
「……なにやってんだ、こいつらは」
呆れたように二組を傍観するロイ。
そんな彼の背中を――触発された二つの精霊が狙い、忍び寄っている事を彼はまだ知らないのだった。
±
「前回の<武闘>優勝者であり我らが学園の生徒会長『天才の魔女』セルティア・アンヴリュー。そして彼女が召喚に成功した世界で二柱目の人型精霊『灰騎士』のルダージュ。ノイシスに加護に選ばれた少女が精霊王と同じ人型精霊を召喚できたのはもはや運命と言っても過言ではないでしょう!」
ネリアの実況者としての血が騒いでいるのか自作の音声拡張魔導具を片手に雄弁に語り続ける。
「さらに人型精霊ルダージュは勇者アルス様の武器、伝説の聖刀剣にも認められ幻魔をも討伐するという偉業を成し遂げ、ここ最近ではクララ王女殿下の護衛を勤め、見事賊を返り討ちにしたそうです」
出鱈目のような事実が並べられていく。
改めて人型精霊の強さを確認した観客たちは感心したように唸る。やはり精霊王と同じ人型は強さも段違いなのだと納得させられる。
だが、そうなると他の生徒はどうやって戦えばいいのか。どうすれば勝てるのか、全く見えてこないことに彼らは気が付いた。
「強い! 強すぎる! <魔導>において聖刀剣の使用は認められておりませんが、それを差し引いても圧倒的な強さだ! オリヴィエ様にシルヴィエ様、他の選手はいったい人型精霊とどう戦えばいいのでしょうか?」
観客たちの言葉を代弁するように実況が解説へと繋ぐ。
巫女姉妹はセルティアの“対”対策会議に参加していたため下手なことは言えない。セルティアたちが行う作戦をある程度把握してしまっているからだ。
本音を言えばルダージュたちを応援したいという想いがある。しかし、このまま大会が行われたところでセルティアとルダージュのチームに勝てるような相手がいるとも思えない。
ちょっとしたアドバイス――注意喚起ぐらいは大目に見てくれ、とオリヴィエはそんなことを心の中でセルティアに断りながら口を開いた。
「今日の試合は<武闘>でも<精霊>でもなく<魔導>だ。人と精霊、互いの長所を遺憾無く発揮したタッグが勝つだろう。そして思い出すがいい。相手は1柱ではない――1人と1柱であるということを」
「なるほどぉ……つまり、召喚獣ばかりに目を奪われていては召喚士に足を掬われると、そういうことですね?」
『それ以上はノーコメント』
「おおっと! シルヴィエ様からこれ以上聞かないように、と注意されてしまいました。どうやらただでさえ強い生徒会長コンビはさらに秘策まで用意しているのか!? それは実際の試合で披露していただきましょうか!」
さて、とネリア仕切り直すように一呼吸置く。
彼女の隣には大会の運営委員の生徒が駆け寄っており、連絡事項を告げているところだった。
「お待たせしました! どうやら試合の準備が整ったようです。ここで改めてルールについてご説明します
。<魔導>はトーナメント形式の召喚士と召喚獣のタッグバトルです。契約した精霊であれば召喚獣は複数でも構いません。その他、武器や魔導具も持ち込み可のなんでもありの一本勝負。相手を戦闘不能にするか「参った」と降伏させた者が勝者です」
当然ですが相手を殺してはいけませんよ、という注意でネリアの説明は締められた。
「それでは第一試合の選手に入場してもらいましょう! 剣の門からは麗しき貴族ヴァトー家の御令嬢、アリージェ・メル・ヴァトー選手! 刀の門からは東方からの刺客、竜人の民、そして我らが学園の総大将! 生徒会総長リンド選手の登場だああああああ!」




