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灰騎士物語  作者: トキバカナリ
第四章 嘘つきと無名の紅騎士
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メガネっ子の休日

 甘味処、装飾品店、雑貨屋と一通り店舗を見て回ったルダージュたち一行は行き詰っていた。


「ルダージュ。まさか自分の召喚士への贈り物が何も思い浮かばないとは思わなかったぞ」

『意外』

「……面目無い」


 呆れたように振りかえる巫女姉妹にルダージュは項垂れるように視線を下げた。

 先程、拙い誘い文句では小言の1つも浮かばなかったオリヴィエとシルヴィエだったが、セルティアへのプレゼントを選べないルダージュには悪い意味での文句を言いたくなっていた。


「あの娘の好きな物……今も思い浮かばないのか?」

「……精霊ぐらいしか」


 ルダージュは頭を抱えていた。

 クエストの報酬などで蓄えていた硬貨。召喚された頃にプレゼントされた絵本『精霊王の冒険』や日頃のお礼として何か贈り物を――と考えていたルダージュだったのだが、いざ選んでみるとなかなかの難題だという事に気が付いた。

 セルティアの好むものが精霊ぐらいしか浮かばないのだ。


「くく、ここはやはりルダージュを魔装のリボンで包んで「俺がプレゼントだ!」とするしかないだろう」

「それは却下だって言ったじゃないか」


 冗談めかして提案するオリヴィエにルダージュは疲れたように反対する。


「もうちょっと渡されたら嬉しい物を――」

『私は嬉しいよ?』

「……」


 シルヴィエがボードを揺らしアピールしてくるが、ルダージュは凝視しながら無言を貫く。


『そんなに見られると恥ずかしい』


 続けざまに文字が書き加えられ、シルヴィエの本音に信憑性を与える。

 だがルダージュは下手に反応はできない。本当に「俺がプレゼントだ!」を実行したらまず間違いなくあの召喚士(セルティア)なら喜んでしまうと確信しているからだ。

 精霊の模造品など渡せるわけがない、と考えているルダージュには決してできないサプライズでもある。


「では、魔装はどうだ? 魔装には譲渡という機能があるのだろう? それをアクセサリー型にすればお洒落ではないか? しかも防犯機能付きでセルティアを守ってくれる」

『名案』

「……いや、これは」


 試しに灰色のブレスレットを作りだす。

 配色はどうしようもないがデザインは自由自在なため確かにお洒落な物にもできる。

 が、


「譲渡はもうしたくないかな。この魔装はあまりいい力ではないから」


 幻魔戦でセルティアに譲渡したのは彼女と仲間を護るためだ。

 本当だったら魔装の――幻魔の力という異質な物を渡したくはない。

 灰騎士型の人形をセルティアは欲しがっていたが、ルダージュは譲渡まではしないつもりになっていた。


「そうか? 私は便利だとしか思わないが……」


 不思議そうに首を傾げるオリヴィエにルダージュは愛想笑いを返す。


「とりあえず今日は帰ろうか。もう少し自分で考えてからまた買い物にくるよ」

「その時はまた誘うがいい」

『待ってる』


 結果が煮詰まることはなく、セルティアへのプレゼント選びは保留となった。

 本来の目的である生徒会の買い出し。そして巫女姉妹へ贈る衣服。その二つが完遂できただけでも良しとしよう、とルダージュは納得する。


(最悪、なにか欲しいものがないか本人に尋ねてみるのも有りかもな……って、あれは――)


 そんなことを思いながら学園へと戻る途中。

 見知った顔を見つけ思わず声を掛ける。


「え~と、君は魔法科の……」

「え?」


 店先のショーケースを眺めていた少女が顔を上げる。セミショートの栗毛に冷たさを感じるような切れ目が特徴的なメガネっ娘。学園であれば生徒会長の秘書という立場が似合いそうな風貌だが、実際は面倒見のいいお姉さんのような子だということをルダージュは合宿の中で知っている。


「ルダージュではないですか。奇遇ですね。それにオリヴィエ様とシルヴィエ様まで……こんにちは」

「合宿のとき以来だな」

「そうね」


 彼女は魔法科の同級生であり、合宿中にレイフォン・ジル・フリークと共に行動し救護班として活躍した少女だ。名前を知るタイミングが無かったためルダージュは声を掛けたはいいものの二言目が口から出なかった。


「シンシア・ネストンよ」

「え?」

「私の名前。あなたに教えていなかったわ」


 メガネっ娘――シンシアはそう名乗り微笑んだ。

 どうやらルダージュが何に困っていたのか彼の一言目で見破っていたらしい。


「それで? 人型精霊のあなたが私に何か用かしら?」

「いや、その……シンシアの後ろ姿を見つけたから思わず」

「そうなの? あなたは不思議な人――じゃなくて、不思議な精霊なのね。普通の精霊は召喚士以外の学園生なんて気にしないのに。それに――」


 シンシアはルダージュの後ろに控えている巫女姉妹と彼が抱えている荷物を眺め、


「デート中なら私はお邪魔じゃないかしら。ティーユならともかく」


 察したような口調でそう告げてきた。


「気にすることはない。私たちはただの付き添いだ。セルティアに贈るプレゼント選びの、な」

『私たちの買い物は終わり』


 おどけた様にオリヴィエが代弁する。それはただの照れ隠しなのかちょっとした意趣返しなのか、原因であるルダージュには図れなかった。


「そうなんですか? ……ふ~ん」


 と、シンシアはまたもルダージュの荷物と巫女を眺め「あなたも大変ね」と労い「ティーユのこともよろしくね」と面倒見のいい姉のような言葉をルダージュに掛けた。


「ああ、ところでジルは一緒じゃないのか?」

「……ジル? 彼に用があったのなら残念ね。今日は私一人よ」

「そっか」

「ちょっと待って、どうして私に彼の所在を確認したのかしら?」


 沈着で顔色一つ変えず会話をしていたシンシアが初めて眉を(ひそ)め、怪訝そうな顔でルダージュを見つめる。


「え、前会った時に仲がよさそうだったからデートでもしてるかな、と」

「なっ!?」


 ルダージュの言葉があまりにも予想外だったのか素っ頓狂な声を上げ驚くシンシア。


「ち……違うわ。私と彼は……仲はそれなりにいいかもしれないけど、恋人というわけではないわ」

「なんだ、俺の早とちりだったのか」

「そう、そうよ」


 合宿での2人の姿を思い出すと恋人同士にしか見えなかったルダージュだったのだが、本人が否定しているのであればそうなのだろうと納得するしかない。

 魔法科の知り合いといえばジルぐらいしか候補に挙げられない。魔導杯について会議をしていくうちに「そういえば魔法科の人たちと全然接点がないな」と気づいた。魔法専門の学科である魔法科の生徒と仲良くなっておけばいずれ自分の目的――延いては将来の戦闘の役に立つ知識を学べるのではないかという下心が彼女に声を掛けた理由の一つである。


「ちなみにここで何を見ていたんだ?」


 後は単純に見知った顔が何をしていたのか気になっただけでもある。

 ショーケースの中身を見ると眼鏡のフレームが展示されていた。大方、自分の新しい眼鏡でも買いに来たのだろうと当たりを取る。

 だが、彼女からは予想外の台詞が零れた。


「プレゼントを選びに来たのよ」

「……プレゼント?」


 プレゼントという単語を聞き、どこか運命めいたものを感じるルダージュ。

 彼としては「どの眼鏡を見ていたんだ?」というニュアンスで質問をしたつもりだったのだが、思わぬ伏兵がいたものだと驚く。


「最近、彼が目も悪くなったって言って授業中も目を細めたりしてるから下見だけでもしておこうかなって」

『彼?』

「誰のことだ?」


 姉妹が食いつき前のめり気味に問いただそうとしている。


「そ、それは……」


 シンシアはここでやっと気が付いた。自分が墓穴を掘り進んでいることに。

 プレゼントを贈る相手はもちろんジルのことなのだが恋人ではないと言った手前、非常に答えにくい質問になってしまっていた。

 

「ジ、ジルの、ことです」


 しかし、ぐいぐいと迫る巫女姉妹に根負けし、あっさりと白状してしまう。

 そしてそれが運の尽きだった。

 まだジルに似合うフレームを探し終えていないということで、これも何かの縁だと、シンシアの買い物にルダージュたちは付き合うことになるのだった。


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