“対”対策会議
「これより第一回“対”灰騎士のルダージュ対策会議を始めたいと思います!」
「おー」
『おー!』
「くく、楽しみだ」
セルティアが高らかと腕を振り上げ誰かを真似るように宣言すると、呼応するようにバニー獣人とエルフ姉妹も拳を振り上げた。
学生寮のセルティア部屋。
急遽用意された丸テーブルを5人が囲い、これから行われるのは先日学園内で発足された灰騎士のルダージュ対策会議に対抗する会議――“対”対策会議だった。
「……」
「ルダージュ! 元気がないですよ! ほら、皆さんと一緒に「おー!」ってやりましょう!」
「お、おー」
どこで身に着けたのか、セルティアが妙なテンションでルダージュに絡む。
ルダージュも渋々付き合うが、いまいち乗りきれない。
なにより、
「趣旨は理解できるんだ。今度の魔導杯に向けてみんなが俺を倒す算段を考えている。だからそれに対抗して俺たちも対策を練ろうってことだろ? でも……」
と、ルダージュは視線をセルティアの隣に移し、
「ティーユがここにいるのはおかしくないか? たしかアリージェたちの対策会議に出てたんだよな?」
バニー獣人を眺める。
休日のため彼女はいつもの制服ではなく白を基調としたワンピースを着ていた。兎耳と相まって小さな白兎のような愛らしさがあったが、今はルダージュの言葉を聞いて顔は不服そうに顰めている。
「仲間外れ……よくない」
「そうですよルダージュ。ティーユは私たちの大切な仲間なんですから。そういう冷たい扱いはダメだと思います」
「仲間外れにしたわけじゃ……いや、セルティアがいいなら俺は別に構わないんだけど……」
今朝、ルダージュはセルティアから「会議を始めるので巫女様を呼んできてください」とお願いされた。そして姉妹の部屋に向かう途中でティーユと遭遇。彼女はルダージュの腰に抱き着くと全く離れようとしなかったため、ルダージュが渋々連れてきた――というのがこの会議に参加している彼女の経緯のようなものだ。
つまり、有り体に言えば部外者である。
「おにいちゃんは、私が邪魔なの……?」
無機質で平坦な声色にどこか哀愁を帯びさせ、ティーユは真っすぐとルダージュを見つめる。
その態度は反則だろ……とルダージュは心の中で頭を抱えるが、なにかしら弁明しなければ勘違いされそうだったのですぐさま口を開いた。
「邪魔とかそういうことじゃなくてだな……また同じ事を言うけどティーユはアリージェたちの対策会議に出てただろ? どちらかといえば俺たちの……ライバル側だよな? そもそもティーユ自身が対戦相手になる可能性だって――」
「問題ない……私は魔導……杯? には不参加。これは確定事項。そして私が聞いていた会議の内容程度であればおにいちゃんたちに伝えても問題ない。みんな知ってるから」
「そう、なのか?」
魔導杯に参加するには生徒自身が学園に申請する必要がある。だが将来に影響を与える学園の一大イベントをそう簡単にふいにしていいのだろうか? ルダージュはそんな疑問符を浮かべながらセルティアを見つめる。
「ティーユのように大会に出場しない子は少なくありません。興味が無かったり自信が無かったりと理由は様々ですが」
「そんなもんなのか」
「そんなもん……」
ルダージュの言葉を復唱するように呟くティーユ。
「勿体無いな。己の武を確認できるいい機会だというのに。学友と本気で剣を交えることができるのも今だけだぞ。考え直したらどうだ?」
意外にもティーユを促したのはオリヴィエだった。
だがよくよく考えてみるとオリヴィエとシルヴィエの今の立場は学園の教師のようなものだったとルダージュは思い出す。
実際は聖刀剣の主となったルダージュの元を離れたくない乙女なだけなのだが、巫女姉妹が聖刀剣そのものだと明かすこともできないため、合宿期間のみの限定講師だったオリヴィエとシルヴィエをその弟で学園長であるアルフォスが正式に招請教師として学園に招いた――という形になっている。
もちろん巫女姉妹が聖刀剣の主と婚約するという条件を提示していたことは周知されているため、巷では教師として招いたというのは建前で旦那に着いてきただけなんじゃないかと噂されている。ある意味、間違いではないのだがほとんどの学園生はルダージュと巫女姉妹の夜の決闘を知らないので、巫女姉妹が勝ち婚約の話が保留になっていることも知らないのである。
「興味ない……です。それよりもおにいちゃんの活躍をずっと見ていたいです。そのほうが有意義」
「……一理ある」
「おいおい」
学園の教師として生徒を説得する場面じゃなかったのかとルダージュはつっこむ。
「シルヴィエも何か言ってやってくれ」
『ルダージュたちの活躍、楽しみ』
「……」
生徒に言いくるめられている巫女教師を見つめ、ルダージュは言葉を失う。
そしてティーユは改めて向き直ると、
「おにいちゃん……ここにいてもいい?」
と再度確認を取ってきた。
その眼には“もしルダージュが駄目と言えば出ていく”という決意に悲壮感を混ぜ合わせていた。
「あー……俺が悪かった。だからそんな目で見ないでくれ」
そんな態度をとられてしまってはルダージュも折れるしかない。そもそもティーユに会議の内容を聞かせていいのか疑問に思っただけに過ぎない。大げさな話ではなかったのだが妙に拗れてしまった。
言い方が悪かったのだろうか、とルダージュは反省の意味も込めて謝罪すると、ティーユは気にした様子もなく「ん」と頷く。
そして、
「バニーは寂しいと死んじゃう生き物なのです……」
もっともらしいことを呟きながらルダージュに近づき、そのまま彼の膝の上へと腰を掛けた。
「これは?」
「仲間外れにしようとした罰……」
言葉とは裏腹に心なしか弾んだ口調のティーユ。だが、罰というからにはそこそこ気にしていたのだろうとルダージュは思い、甘んじて受け入れることを決意。
「なぐさめよ……」
「……はいはい」
撫でろ、とでも言うように頭を突き出してきたため兎耳ごとくしゃくしゃするルダージュ。
「ちゃっかりしておる。私たちに足りないのはあの積極性か」
『というより若さ――』
「ふん!」
視界端で妹の文字を慌てて消す姉の姿が見えた。ルダージュは気づかないふりをして、ついでにティーユの位置をずらし座りやすいところに誘導する。
「む……? 手慣れてる?」
「城でお姫様に絵本を読んであげていたからな」
「ほーう……」
胡乱げなティーユに見つめられながらルダージュはクララ姫のことを思い出していた。
絵本『精霊王の冒険』を愛読し、人型精霊に憧れを抱いている小さなお姫様。
虚構の人型精霊ではあるが、自分に懐いてくれたことには変わりない。ルダージュは自分なりのけじめとして何か力になれないか模索しているところだった。
とりあえずは暇なときにでも絵本を読みに来てくれとローゼ王妃に頼まれているので、ルダージュとしてはそのうち時間を見つけて会いに行く予定だ。
「さて、話はまとまりましたね」
パン、とセルティアが仕切り直すように手を叩く。
彼女は自分の召喚獣に座るティーユを一瞥すると、特に何も言うことなく話を進める。
「議題は<魔導>の攻略。そして私たちの弱点についてです」




