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灰騎士物語  作者: トキバカナリ
第四章 嘘つきと無名の紅騎士
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生徒会総長降臨

 放課後。

 魔導杯が間近に迫っていた学園は活気に満ち溢れていた。

 学園の行事の一環として行われる魔導杯は学園の敷地内にあるコロシアムで開催される。当日は一般開放もされ学園関係者以外にも都市部に住む住民や国外の人間も観戦することが可能だ。

 しかし、武闘大会を観戦するだけでは味気ない――と考えたアルフォス含む昔の学園教師陣は、その打開策として学園祭の前座という名目で生徒が経営する模擬店の出店(しゅってん)も行うことにした。


 模擬店はコロシアム近くに設置することが許可されており、仲間内――主に研究室(クラブ)ごとに計画して出店するのが基本だ。

 今もまた、ルダージュが模擬店の準備をしているであろう学園生の隣を歩いていると、


「……どうする? 研究室に有り余った先生の失敗作ポーションを格安で売るか?」

「ルーレットポーション――効果は飲んでからのお楽しみ……いいかもしれないな」


 などと物騒な会話が繰り広げられていた。


(ロシアンたこ焼きじゃあるまいし……)


 山葵や辛子入りの食べ物とは訳が違う異世界薬品(ポーション)。それを効果不明で飲むのは博打どころの騒ぎではない。

 ルダージュは間接的ではあるが生徒会役員の一員だ。セルティアの召喚獣である以上見過ごすわけにもいかない。

 ただ、注意するにも言葉は慎重に選びたかった。


生徒会長(セルティア)に告げ口するぞ、というのは不味いな……彼女の心証が悪くなりそうだし、なにより情けない。他に妙案は……)


「感心しないな。学園でそんな不埒なことを考えている人がいるなんて」


 とりあえず声を掛けなければ始まらない、とルダージュが学園生に近寄ろうとした矢先。空から凜とした女性の声と共に蒼い人影が降ってきた。

 その影は鋭い爪が生えた指で2人の頭を鷲掴みにすると、強制的に後ろを向かせた。


「げっ!? 総長……!?」

「お前いつの間に!?」

「あらあら、こんな美人を捕まえておいて「げっ!?」はないじゃない、「げっ!?」は……お姉さん悲しくなっちゃうぞ?」


 総長と呼ばれたその女性は男子学生の物真似を披露しながら、言葉とは裏腹に楽しげに笑っている。


「掴まってるのは俺らじゃないか! いい加減この凶悪な手を放してくれ!」

「俺たちは生徒会に目を付けられるようなことはまだしてねーよ!」


 ドラゴンのような腕(・・・・・・・・)に掴まれた男子生徒たちが必死に逃れようともがくが、余程力が強いのかびくともしない。

 何よりすごいのは彼女の匙加減だ。傍目にも力を入れているのはわかるが怪我の1つもさせていない。


「“まだ”してないと……? まだ……ねえ?」


 言質は取ったとばかりに彼女は問いかけるように2人に流し目を送る。

 すると男子生徒は観念したのか項垂れるように肩を落とした。


「……悪かったって変なこと言って」

「俺らも事件になるようなことはしたくないからよ……」


 事件になるようなポーションが研究室にあること自体が問題な気もするが、ルダージュは黙って見守っていた。


「そう、それでいいの。私も冗談として聞き流しておくから。じゃあ、仲直りの印としてお姉さんとハグでも――」


 と、男子生徒たちを開放し、また拘束(ハグ)しようとした瞬間――2人は脱兎のごとく逃げ出した。


「か、勘弁してくれ! こんな白昼堂々抱き着かれたら後が怖い!」

「それにお前! 俺たちと同級生(ため)だろ!?」


 ツッコミを捨て台詞に消えゆく背中を眺め、総長と呼ばれた少女は振り上げた両腕を静かに下した。


「最近の男は初心な人ばかり。これではハグ成分が足りない。会長でも襲っちゃおうかな……」

「その会長の召喚獣の前で物騒なことを言わないでくれないか? 生徒会総長さん」

「あら? その声は――」


 蒼髪の少女が振り返る。

 声の印象そのままの端正な顔立ち。その頭には武骨な黒角が2本、両耳の上から生えており、尾骨からはスカートを押し上げるように太く長い尻尾が大胆に顔を出していた。

 まるで竜のような人間――彼女は竜人と呼ばれる種族の1人だった。


「ルダージュじゃない! 丁度いいところに!」


 と、竜人の少女が今度はルダージュに抱き着こうとするが、


「……硬い」

「そりゃあ魔装でできた身代わりの騎士だから」


 ルダージュによって作られた中身のない灰騎士人形に阻まれてしまう。


「なぜ? なぜ皆はお姉さんのハグを受け入れてくれないの? お姉さんのことが嫌いなの……?」

「逆に好かれ過ぎているだけなんじゃないか? ファンクラブもあるみたいだし、さっきのクラスメイトもファンたちの逆恨みが怖かっただけだろ」


 ルダージュが空かさずフォローを入れると彼女は顔をあげて「ルダージュもそうなの?」と問いかけてきた。


「俺の場合は抱き着かれた瞬間に「お前は私のものだ!」って大声で宣言されそうだったからその予防」

「よくわかっているじゃない。さすがは私が見込んだ精霊」

「総長さん、わかりやすいから」

「でも、まだ記憶力が戻っていないようね」

「……どういう意味かな?」


 本人のルダージュでさえ忘れそうな自分が記憶喪失だという設定。

 それに絡めた発言に思わずルダージュは身構える。


「私は生徒会総長だけどちゃんとリンドという名前がある。前にそう呼べと約束したはずよ?」

「……そんなこともあったな」


 生徒会総長――リンド。

 ルダージュが彼女と初めて会ったのはセルティアたち魔法使いが召喚士になったあの日――正確には召喚士進級試験合格パーティーでの席のことだ。

 当時、ルダージュはセルティアから生徒会総長を紹介されていた。そして口説かれたり生徒会の話を聞いたりと交流していたのだが、同時に彼女からは名前も呼ぶように言い渡されていた。


「精霊から総長と呼ばれるのはなんだか恥ずかしいもの」

「わかったよ、リンド。これでいいか?」

「よろしい」


 リンドは満足したように大様に頷くと、変容していた自身の腕に指を滑らしていく。すると鱗に覆われていた竜の腕が見る見る肌色に染まり、蒼鱗は瞬く間に人間の肌へと戻っていった。


「いつ見ても原理が理解できん」

「ん? これのこと?」


 ごつごつとしていた剛腕はどこへやら。ルダージュに向かってかざしたリンドの手は、硬い鱗も鋭利な爪もない華奢な女性の手そのものだった。


「竜人の変異は前にも見せたじゃない。霊獣化、霊核化できる精霊の貴方に言われるのはなんだか釈然としないものね。それと――じろじろ見るのはエッチよ。エッチ。セルティアの情報通り、人型精霊はエッチすぎ」

「理不尽な」


 見せびらかしてきたのはどっちだ。

 と、ルダージュは反論したかったが、語彙力が低下してきたリンドと会話を継続するのも酷な話だった。


「ところでリンド総長はどうしてここに?」

「私? クラブの模擬店を下見がてらコロシアムへ向かうところだったの。雑務も一通り片付けたから舞台の設置のお手伝いでもしようかなって」

「片付いた……って、総長の仕事は大変じゃなかったのか? 俺たちに任せて休んでいてもよかったのに」

コロシアム(そっち)は当然、会長と副会長がしっかりやっているだろうけど、私はじっとしていられる性格ではないもの。机に向かって仕事をするより体を動かす方が性にあってるの。設営とか大変でしょ? さっきみたいに私が華麗に熟してあげる」

「たしかに力技なら百人力――」

「なにか言った?」

「いえ、別に」


 そんな他愛のない話をしながらルダージュとリンドはコロシアムへと足を進める。


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