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灰騎士物語  作者: トキバカナリ
第四章 嘘つきと無名の紅騎士
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続 対策会議 理由

「こほん、で、では改めまして灰騎士のルダージュ対策会議を再開しますわ」


 気を取り直すように咳ばらいをするアリージェ。頬はまだ赤く、従者(オルガ)の言葉に悶々としていた名残は消えないままだったが、あえて指摘するような者はいない。これ以上場を掻き乱しても話が進まないからだ。


「会議の趣旨を確認しますわ。まず第一にわたくしたちは精霊科の1年生です。つまり召喚士と召喚獣のペアで出場する<魔導>カップと召喚獣のみで戦う<精霊>カップにしかでられませんわ」


 ティーユ以外の全員がその言葉に頷く。


「……そうなの?」


 首を傾げ、自慢のウサ耳もへにゃんと垂れる。

 彼女は別に寝ていたわけではなく、ただ単純に内容の意味がわからなかったのだ。


「さっきオルガがなめなめするって――」

「総なめ、な」

「……そう、それ」


 オルガの鋭いツッコミを物ともせずティーユはマイペースに話を進める。


「精霊科の生徒は<武闘>カップにでれないの?」

「ティーユは魔法科に在学中、魔導杯に出場されたことはありませんの?」

「……ない。興味がなかった」

「そ、そうですのね……」


 これからその大会について話し合うというのに興味がないというのはどうなのだろうか、と思うアリージェだったが、逆に考えれば興味が無くても元セルティア班の戦友(とも)として会議に参加してくれていると考えると嬉しくなった。


「<武闘>はその名の通り己の武を競い合う部門となっておりますの。反して精霊科は魔法に特化した学科であり武闘の意にそぐいません。そのため<武闘>は魔法科の生徒のみで行いますの」

「?? よくわからない。私は精霊科だけど肉体派」


 アリージェの説明に納得できなかったのかティーユは座りながらしゅっしゅっと前方にパンチを繰り出す。確かにアリージェの説明は変だった。精霊科、魔法科と分けられていれば事情を知らないものが見れば魔法科がどう考えても魔法に特化した学科である。

 しかし、魔導都市学園の魔法科の内実は精霊を召喚できなかった者たち、または召喚魔法に興味がなかった者の集まりだ。魔法が優れている学科――ではなく、魔法を研究している学科なのだ。


「えっと、それは……」


 ティーユの純粋な疑問に言葉が詰まっていますアリージェだが、そこは彼女の従者であるオルガの腕の見せ所でもあった。


「ティーユ、それはな、大人の事情ってやつだ」


 身も蓋もない補足だ。


「大人の……事情?」

「ああ、俺たち精霊科まで<武闘>に出場しちまったら魔法科の連中が活躍する機会を奪っちまう。あいつらは俺たちが精霊と交流している間に魔導具や魔法の研究をしているんだ。<武闘>はそういった研究の成果を披露する場所でもあるんだよ」

「……ほー」


 感心したようにティーユが口を開ける。


「でも、オルガは会長がでれば優勝だって」

「あー……わりぃ俺が勘違いさせたんだったな。それはアレだ。例えだ、例え。この学園の全生徒が<武闘>にでれば生徒会長が優勝するっていう、な?」

「……紛らわしい」

「悪かったって」


 しゅっしゅっ、しゅっとオルガを半眼で見つめながらパンチをお見舞いするティーユ。もちろんテーブルを挟んでいるため当たることはないがオルガは降参だとばかりに両手を上げた。


「ティーユ? 納得していただけたかしら?」

「うん……大人って汚い」


 そんな話ではなかった気がするが「ま、まあいいですわ」とアリージェは話を流すことにした。


「話を戻しまして、この会議の趣旨ですが……ずばり、学園生として魔導杯という祭を成功させるための話し合いですわ」

「祭の……成功?」

「ええ、“成功”ですわ」


 ティーユが合いの手を入れると、アリージェは真剣な眼差しで頷く。


「なにを持って祭の“成功”と判断するんだい?」

「基準はシンプルですわ。“まともな試合”を観客の皆さんにお見せするだけですわ。ヘルエルさん」


 そう言ったアリージェは一呼吸置くと意を決したように言葉を続ける。


「精霊科の私たちが活躍する場である<精霊>カップ<魔導>カップ。それが戦闘力未知数の彼――人型精霊、灰騎士のルダージュただ一柱によって崩壊する可能性がありますの。それを未然に防ぐことがこの会議の主な議題ですわ」

『……』


 テーブルを囲んでいた皆が一斉に沈痛な面持ちとなり口を閉じる。一部、例外としてティーユだけがいつも通り眠そうな顔で周囲の顔色を窺っているが、いまいち内容にピンと来ないらしい。


「……なんで崩壊するの? おにいちゃんはズルとか卑怯なことはしない。正々堂々と戦うのに」


 崩壊という単語から友人たちがルダージュに否定的な感情を抱いていると連想してしまったのか、ティーユが少しむくれたように擁護し始めた。


「違うんだティーユ、お嬢が言いたいことはそういう意味じゃないんだ」


 同級生の純粋な反応はオルガたちに拍車をかけるように追い撃つ。


「……?」


 ティーユが彼らの感情をくみ取ることができないのは最初から魔導杯の試合に出場する気がないからだ。その立場でいうとヘルエルも出るつもりがないのだが、彼の場合は年期もあるため学友たちの心中を察することができていた。


「あなたの言う通り、ルダージュがそういう精霊ではないことはここにいる皆さんであれば承知していますわ。彼ならば正々堂々と魔導杯の試合に臨むでしょう。ちなみにティーユは試合に出るご予定は……?」

「……ない、興味ない」

「では想像してください。ルダージュと戦う自分の姿を。ティーユであれば彼にどうやって勝ちますか?」

「え? 無理、勝てるわけな……ぁ――」

「つまり、そういうことですわ」


 アリージェは同意するように苦笑した。


「灰騎士との戦い方を練らなければ今年の魔導杯は何の見所もなく終わってしまいます。だから“灰騎士のルダージュ対策会議”と銘打っておりますの」

「……みんなも勝てないの?」


 答えがわかりきった質問をティーユは思わず口に出してしまう。


「無理、ですわ」

「倒せねえな」

「悔しいが無理だ」

「私は、その~前回の大会でやらかしてしまったので今年は出場停止……なので戦う以前の問題――」

「僕は出場しないから彼とは戦わないけど、想定の範囲でも勝てる自信は皆無だね。ルナールは戦闘向きの精霊じゃないし」


 返答は様々だが皆、一様にして“勝てない”と諦めたように呟く。1人、どうしようもない理由のテンサイがいたが副会長が物凄く疲れたような顔をしたため話題が掘り下がることはなかった。


「このままでは灰騎士のルダージュが予定調和のように優勝してしまいますわ。しかしそれでは意味がありません。わたくしたちは学園生として観客の皆さまに波乱の展開をお見せしなければならないのですわ」


 勝負において勝敗が決している試合ほどつまらないものはない。そしてアリージェたちにも学園生としての矜持がある。負けるにしても勝つにしても、無様な姿を衆目に晒すわけにはいかない。


「なによりも自分のために一矢を報いる必要がありますの」


 <武闘>が魔法科生徒の活躍の場だとしたら<魔導>は精霊科生徒の活躍の場だ。

 魔導杯には多くのギルドや一般企業の人間が観戦に来る。彼らに対してアピールすることは、将来への道に繋がることに他ならない。

 そういった機会としても武闘大会の意義が存在している。


「早速ですが議題に移りますわ。再確認したいことは彼の能力について、そして……弱点の有無についてですわ」



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