プロローグ 第一回灰騎士のルダージュ対策会議
「第一回! 灰騎士のルダージュ対策会議いいいいいいいいいいい!」
学園の中庭でガントレットを装着した少年が拳を振り上げ大声で宣言していた。周囲の学園生たちが何事かと声の上がった方向を見つめると、そこには精霊科のルーキーであり注目株として学園に名を馳せている者たちがテーブルを囲っていた。
「オルガ、わたくしはやはり気乗りしませんわ」
拳を振り上げた少年――オルガの隣にいたアリージェが耳を塞いでいた手を下ろすと困ったように呟く。
「いくら彼女たちが次の魔導杯の優勝候補だからといって、セルティア班が雁首そろえてリーダーの弱点を探すというのは……嫌、ですわ」
魔導杯。
それは魔導都市学園で開催される祭の1つであり、いわゆる闘技大会のことだ。
人間のみで戦う<武闘>カップ。
精霊のみで戦う<精霊>カップ。
召喚士と召喚獣で共闘する<魔導>カップ。
3種類の試合を2日間かけて行う都市の一大イベントであり、魔導学園祭に向けての前夜祭でもある。
「お嬢、ですが我らが生徒会長ペアは出れば<武闘><精霊><魔導>全てを総嘗めにして賞杯を掻っ攫うような強豪ですぜ。なにか打倒できる作戦を考えるためにも話し合いは必要なんですよ」
執事のオルガは主であるアリージェが生徒会長に憧れを抱いていることを知っている。しかし、魔導杯は学園生にとって今後の成績にも関係している重要な行事だ。宮廷魔法使を目指しているアリージェにとって自己アピールできる舞台でもある。
「でも、セルティアたちが王都にいる時期を見計らうというのはどうも……」
セルティアとルダージュ、それに巫女姉妹は国王との謁見の為、学園を離れていた。
最近、せっかく合宿で仲良くなれたばかりのに、こそこそ隠れて対策を練るというのはアリージェの性分的にも我慢ならないのだろう。将来よりも感情を優先してしまう主にオルガは呆れてしまうが、それと同時に幼馴染として微笑ましくも思う。
だが、アリージェの気持ちを重々承知の上で彼は心を鬼にしなければならない。
「会長に勝てば『強くなりましたね、アリージェ』とか『背中を任せてもいいですか?』と褒められたり頼られたりするかもしれませんよ?」
「……っ!?」
ぴくり、とアリージェが肩を上げる。
オルガは主のその反応を見て「釣れた……!」と確信し、さらに餌を追加していく。
「『アリージェとこれからも一緒にいたいです』『宮廷魔法使をともに目指しましょう!』なんてことも言ってくれるかもしれませんねえ」
「……もう一度」
「はい?」
「今の台詞を、もう一度、所望しますわ」
「アリージェとこれからも一緒にいたい……ってやつですか?」
「はぅ……!!」
ぼふん、と噴火したように顔を赤らめるアリージェとそれを眺めながら「いくらなんでも照れ過ぎじゃないですか、お嬢」と呆けるオルガ。
「……俺たちはいったい何を見せられているんだ?」
「私は楽しいですよ?」
そんな2人を正面から眺めながら、副会長がきつい目をさらに細くし、隣にいるとんがり帽の魔法使いが呑気に返答する。傍目には名前を呼び捨てにされた女の子が照れているようにしか見えない構図が出来上がっているのだ。疑問も口にしたくなる。
「たしか生徒会長と戦うために情報交換しようと呼ばれたはずだが……」
「いいじゃないですか~恋する乙女は可愛いですし、ロイくんにはそういうゆとりがないからボッ――」
「なんだと?」
「なんでもないです」
「いいから続きを答えてみろミリア・クランケット。ボッがなんだって? テンサイのお前が他人にその言葉を口にするのか?」
「うぅ、地雷を踏みましたぁ。しかも心まで抉ってくる精神攻撃まで……」
副会長のロイと天災のミリア。
2人は今回、セルティアの友人として会議にお呼ばれしていた。友人といえど闘技大会中はライバル以外の何者でもない。近しく彼女たちを見ていた者としてアドバイスを貰えないかと頼まれ、ロイ自身も会長の幻魔戦での活躍を詳しく聞きたかったので二つ返事で了承していた。
「だいたいお前というやつは合宿のときもあれやこれやと問題ばかり起こし、そのときの後始末に俺がどれだけ――」
「すぎたことをいつまでもグチグチと言ってるとセルティーに嫌われますよ?」
「……」
「ふふん」
してやったりと得意げな顔をロイに向けるミリア。
彼女は合宿を経て副会長とそれなりに仲良くなっていた。とりあえず弱点をついて黙らせる程度にはお互いのことを知っている。そんな彼女がこの会議に参加した理由は単純明快で暇だったから、そして――
「あれれ~どうしたんですかぁ~? 鬼の副会長様は生徒会長に嫌われるのが怖いんですか~?」
ロイをからかうことができそうだから、だ。
「いやぁなぜでしょうね~とりあえずセルティーに聞いてみようか……な……?」
がしっととんがり帽ごと頭を鷲掴みにされたミリアが動きを止める。
あ、やりすぎた。と悟るがもう遅い。
「ぎゃああああああ! ごめんなさい、嘘です! ごめんなさい! 調子に乗っていただけなんです! だから頭をぐりぐりしないでぇ……!!」
「さて? 天災の奇声は凡人の俺には聞き取れないな。いったい何を言っているんだ? ちゃんと言葉を喋ってくれ」
「いたたたたたたた! ぼ、暴力反対です!」
「安心しろ。いつもの魔力を安定させる我が家直伝のツボだ。効き目がいい代わりにとてつもなく痛いが……慣れただろ?」
「だから嫌なんですよ! ――ってちゃんと聞こえてるじゃないですかたたたたたたた!」
会議は阿鼻叫喚であり、どことなく桃色の空気を漂わせる不思議な光景となっていた。
「……」
ヘルエルはそんな二組に両脇を挟まれながら膝の上に乗ったルナールを撫で続ける。霊獣化を好む精霊ルナールは大きな耳を持った小動物のような精霊だ。そのためかこの騒がしい空間がお気に召さないのか耳を伏せ、目を閉じている。その姿がまた目の前に座っているティーユと瓜二つだったため、なんとなく笑ってしまう。
ティーユにヘルエル、どちらもマイペースな性格をしているため収拾がつくことはない。
本当の対策会議が始まったのはそれから30分後のことだった。




