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灰騎士物語  作者: トキバカナリ
第三章 仮面と絵本の御姫様
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さいかい

 かくれんぼ第二ラウンドはあっけなく終わった。

 ルダージュが捜すまでもなくフードを被った少年少女は城から少し離れた出店の前にいた。どうやら店主と言い争い(?)をしているらしい。


「硬貨を忘れた余に非がある。だからそれをただでは受け取れぬ」

「まいったなぁ……」


 店主の男は扱っている商品――串焼き肉を詰めた紙袋を抱えたまま困り顔だ。

 いまいち状況がつかめないルダージュは話の輪に混ざろうと少年の後ろに立った。


「どうかしましたか?」

「おぉう!? 脅かすなや、あんちゃん」

「む? 貴公はさっきの仮面学生ではないか」


 同時に振り返り各々の反応を示す店主と少年。

 驚いていた店主が疑問を口にする。


「お知り合いですかい?」

「鬼から逃げる手助けをしてくれた」

「はぁ……鬼ですか……」


 鬼という単語に後ろ髪を引かれながらも仮面の不審人物(ルダージュ)が少年の関係者とわかり店主はそっと胸を撫で下ろした。


「で? 2人は何を揉めてたんですか?」

「いやーこちらのカイ――じゃなかった……少年がうちの自慢の串焼きを受け取ってくれませんで――」

「金を払っていないのだ。当然である」

「そりゃーそうなんですがね……」


 困り果てる店主と俄然として譲らない少年。

 城を抜け出した少年と少女はお腹が空いていた。店主の店で腹を満たそうと串焼き肉を注文したものの、そこでお金を忘れたことに気付く。


 幸か不幸か少年がお忍びの王子だと見破った店主はお代はいいからと無料でサービスしようとしたらしい。

 しかし、面倒臭いことにただの一般人(・・・・・・)と言い放っている少年はこの提案を拒否。対価を払わないのは許容できない性格のようだ。


「王家の者として矜持である」

「……」

「……」


 ついでに隠し事も苦手な性格らしい。

 ルダージュが「王家?」と聞き返すと少年は慌てて「……王家に使える者としての矜持である!」と言い直した。

 

 話は平行線であり、どうしたものかと頭を捻る。

 ルダージュとしては単純な解決方法は浮かんでいる。だが、実行に移し王子――少年を納得させるには一押し足りないと考えていた。

 そんな時――


 きゅぅ~

 

 と、飛んで火にいる腹の虫が可愛らしい音を鳴らした。

 どうやら肉の匂いに耐えかねて渦中に飛び込んでしまったようだ。


「「「……」」」


 仮面と店主と少年が顔を見合わせた後、音の主を見やる。


「こ、これは……! その……違うのです……お気に、なさらないでください……」


 急速に尻すぼみになる少女の言い訳。

 絵本で顔を隠す姿にルダージュは若干の既視感を得るが、この好機を逃さないと懐に手を伸ばす。


「その肉、いくらですか?」


 取り出したのは財布。

 たまにセルティアと一緒にクエストを受け、ちょくちょく小遣いを稼ぎをしていたルダージュ。使い道はほとんど決まっているようなものだが買い食いできる程度の金銭的余裕はあった。


 ルダージュの意図を理解した店主が頷き、指を立てる。

 元の世界では出店は値が張るイメージだったが店主が示した金額はルダージュでも安いと思えるほど良心的な価格だった。もしかしたら負けてくれたのかもしれないがわざわざ聞くのは野暮だろう。


「「……」」

 

 少年と少女がポカーンと口を開け一部始終を見守っていた。

 その口に思いっきり肉を放り込んでやりたい――ところではあったがそこまで親しくないため自重する。だからといって「ほい」と彼らの前に肉を差し出し奢るほどの間柄というわけでもないが。

 

「買い過ぎた。だから食べるのを手伝ってくれ」

「な!?」

「これでさっきの貸し借りはなしだな」


 唐突な提案に少年は驚く。

 それもそうだ。目の前の仮面の男は少女を救った借りを、肉を食べる手伝いという建前で返せと言っているのだ。

 滅茶苦茶だが道理は存在し断りにくい状況。


「……食えない男だ」


 諦めたように少年は呟く。

 言葉とは裏腹にルダージュから串を受け取ると、少年は少女に見せつけるように肉にかぶりついた。

 さっきまで食べることを拒否していた手前、自分が先に食べないと少女が肉に手を付けないと考えたのだろう。少年の思惑通り恐る恐るではあるが少女は手袋をはめた手を伸ばし――


「いただきます」


 と静かに、だがどこか浮かれたように肉を受け取り、頬張った。


「~~!」


 ちらついている尻尾が足元で左右に揺れる。

 わかりやすい。

 ルダージュの獣人の知り合いといえばバニー系獣人のティーユとウルフ系獣人のアーネがいるが、少女の種族はまだわからない。尻尾のもふもふとした形からアーネに近い種族だとルダージュは予測する。


 そんなことを考えながら自分も相伴にあずかろうと肉を近づけ――


「――っと!」


 口元にも仮面をつけていたこと思い出し、慌てて肉を遠ざける。


「あぶないあぶない」


 仮面に触れ、指が汚れないか間接的な確認をとる。

 どうやら間一髪のところでまぬがれたようだ。


「あんちゃん。気が早い癖に仮面に慣れてないのかい?」


 借りものをタレで汚さずに済み一安心していたルダージュに店主の笑い声がかかった。

 さらに物欲しそうな2つの視線も受けたので、抱えていた肉を袋ごと少年たちに渡す。串付き肉は食べてみたかったが喜んでいるようなので良しとしよう。


「気が早い?」

「そうだよ。仮面舞踏会まで一週間もないがさすがに踊るには早いってもんだ」


 仮面舞踏会。

 王都で一年に一回開催されるお祭りの1つだ。国を挙げて取り組むため当日の城下街は朝から晩まで音楽とダンス一色になる。

 城も例外ではなく夜には大広間が開放され、一部の貴族と関係諸国の招待客が顔をそろえる。


「あー……」


 初耳だったルダージュはダンスなんて踊れない……と言うわけにもいかず。


「しかもその仮面、聖刀剣の巫女様のレプリカだろ? 両方つけるたぁ~あんちゃんは欲張りだな!」

「……」

「毎年、仮面舞踏会でオリヴィエ様派とシルヴィエ様派がそれぞれを模した仮面をつけてダンスバトルをするんだが……目ぇ付けられないようにな。あいつらは悪いやつらじゃねえけど過激だからよ」

「……」

「ここだけの話、聖刀剣の継承者が見つかって巫女様たちが嫁に行っちまうって話もあったから今年は荒れるぜ……お相手は学園都市の学生……つー話もあってな」

「……」


 目の前に本人がいます。仮面も本物です。

 と言えたらどれほど楽だろう。いや、もしかしたらその過激な連中にぼこぼこにされるんじゃないかと気が気ではなくなってきた。


「そういやあんちゃんも学生服着てんな……まさか――!」

「……!」

「その学園生を意識して仮装してんのか!? 完成度高ぇじゃねーか!」

「……は、ははは、実はそうなんですよー」


 自棄(やけ)だった。とりあえずそういうことにしておいて話を切り上げたい限りだった。


「まあ浮かれんのもほどほどにな。今日はもう1人仮面つけたねーちゃんもいたし、そういう日なんかね~」


 ルダージュとしてはお願いされて仮面をつけているだけなので、その『ねーちゃん』とやらが一番浮かれているのではないだろうか。もしくはルダージュと同じ訳有りか……。


「……お、噂をすればってやつだな」

「?」

「そのねーちゃんの妹さんがこっちに向かってきてる」


 店主が指さした方角には獣人少女と同じ背丈ぐらいの子どもが慌てて走り寄ってきた。


「おじさん!」

「おう、嬢ちゃんどうした? 迷子か?」

「ちがうわ。わたしのつれが迷子になったの。ここにきていないかしら?」


 息を切らしながらも少女は言った。

 彼女は身なりの整ったお嬢様(ぜん)とした子どもだった。

 気丈に振る舞い、不安も拭いきれていない。だがその表情にはどこか気品があり貴族の娘――アリージェを彷彿とさせる。


「いや、こっちには戻ってきてねえな」

「そう……」


 落胆し「病み上がりに連れ出すべきでは……でも……」と小さく後悔したように呟く。


「あの人はまだ街に慣れていないの……もしここにもどってきたら――」

「わかった。嬢ちゃんが捜してたって言って引き留めておく」

「ありがとうございます」


 しっかりした子だな~とお辞儀をする少女を眺めながらルダージュは感心する。同年代に見える少年と獣人少女とはまた別の雰囲気を(かも)している。


「……!?」


 そんな視線を感じ取ったのか少女はここで初めてルダージュの存在に気が付き、驚いたように目を丸くする。彼女が見ているのはルダージュの頭だ。


(仮面で怖がらせてしまったか?)


 そんな心配を余所に、少女は視線を巡らし今度はルダージュの手元で肉を頬張っている少年と獣人少女に目を向けた後、一言――


「変質者?」


 とルダージュに言い放った。


「……俺のこと?」


 とりあえず確認を試みる。


「あなた以外にだれがいるの?」


 素っ気ない痛烈な返答だ。

 少女の言葉は続く。


「家族には見えないわ。仮面も怪しい。食べ物で餌付けして誘拐するつもり?」


 言いたい放題だった。

 だが少女の言い分もあながち間違いではない。

 家族ではないしそれどころか今日会ったばかりの赤の他人だ。仮面も訳ありで誘拐――はしないが連れ帰るつもりでいる。


(……あれ? 傍から見たら俺って危ない人そのものじゃないか? 元の世界の通学路なんかにいたら補導案件……)


 現状を(かえり)みた結果、自分が不審者の(たぐ)いに片足どころか腰まで浸かっていることを自覚したルダージュ。


「……やっぱり」


 沈黙のまま何も言い返せずにいると少女は警戒するように後ずさる。

 店主の言葉を借り「仮面舞踏会に備えている」とでも機転を利かせればよかったのだが、嘘っぽいしタイミングも逃している。遅れて言い訳したところで余計怪しまれるだろう。


「この方は、いい人、です……!」


 警戒に反論したのは獣人の少女だ。

 彼女はルダージュの足元――片足に抱き着くと可愛らしく威嚇するように唸りだした。そしてなぜか対抗するよう少年もルダージュの空いている足に抱き着き「そうだぞ、彼は恩人なのだからな!」と言い放った。


「う、……な、なによ」


 むっとした顔で見合わせる子どもたち。足元で繰り広げられようとする攻防戦にルダージュは和みながらも止める手段は持ち合わせていない。

 一触即発?のなか、最初に動いたのは姉探しの少女だ。


「む、まだ余たちの話が終わっていないぞ!」

「それはまた今度にしましょう。つれを見つけたの……! 追わないと……!!」

「お、おい……!!」


 走り去っていく少女は1人の女に追いつく。

 フードを目深に被り仮面をつけた女が振りかえり、少女と何事かを話し頷いていた。


「あれが彼女の姉か? 余たちより怪しいではないか!」


 ぷんすかと怒る少年にこくこくと同調する獣人少女。


「それ、俺のフォローになってないよね」


 少年の言葉はルダージュも十分怪しいと言っているようなものだった。

 だが、嘘も苦手な少年は本音を言い続ける。


「何を言う! こっちは顔、あっちは頭全部を隠しているではないか! あっちの方がさらに怪しいぞ!」

「うん……!」


 こくこくと力強く頷く獣人少女。ついでにルダージュの太ももに頬をこすりつけてくるのでくすぐったくてしかたがない。

 あちらも言い争っているのか仮面の姉がたじたじとしていて、ふと――仮面同士の目が合う。


 距離は遠いしお互いに仮面をつけているので『目が合った気がした』程度の話だが、一応は挨拶しておかなければならない。

 そんな想いが重なったのだろう。

 こくり、とほとんど同時に頭を下げた。

 

 ルダージュは子守の苦労を共感した気がして思わず口元が(ほころ)ぶ。

 相手もそれは同じなのか口元(の仮面)に手を当て肩を揺らす。


『……』


 仮面の姉はもう一度会釈すると今度はルダージュたちに背を向け、少女をつれて喧騒へと消えていった。


「――さて、用事も済んだことだし君たちは城に戻ろうか」


 仕切り直すように足元に声を掛けるルダージュ。

 だが、少年は訝しむようにルダージュを見上げるとぽつりとつぶやいた。


「何を言っているのだ? 余は別に肉を食べに街に下りてきたわけではないぞ?」

「……違うのか?」

「うむ、小腹が空いただけだ。な?」

「はい……」


 尻尾が返事と共に揺れる。


「なら何のために抜け出してきたんだ?」

「……?」


 どうやら獣人の少女は知らないようだ。


(そもそもこの娘は誰なんだ? 少年が王子様ってのは周囲の反応でわかるが……妹? いやいや種族が違うし、獣人の貴族……王子様の許嫁……近隣諸国のお姫様……考えたらきりがないな)


 とりあえず保留だな、とルダージュは諦める。

 答えを追い求めるように2人が少年を見つめると、彼は得意げに胸を逸らせ、


「それはせ――」

「「せ?」」

「――……ではなく」


 言い間違えたわけでなく、少女をチラ見した少年はまるで配慮するかのように言い直し、高らかに城を抜け出した理由を言った。


「人探しだ!!」

「……またか」


 どうやらルダージュの人探し(かくれんぼ)は再び開幕するようだ。

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