エピローグ 表
「姉さまー! ご無沙汰しております! お元気でしたか~!」
王都で一夜を明かし学園に無事帰宅すると、待ち受けていたのは青年エルフの熱い歓迎だった。一見、学園生にも見えるエルフの彼は教職員の制服に身を包んでいた。
つまり、学園の先生だ。
「おーい!」
彼は快活な笑みを見せ無邪気に腕を振り、自分の存在感をこれでもかと主張しながらルダージュたちに近づいてくる。
ルダージュにとっては初めて見る顔だ。さすがに学園生や教師陣の顔を全員覚えているわけではないが、見掛けたこともないというのは珍しい。
(しかも彼はなんて言った? 姉さま? エルフの姉ってもしかしなくとも――)
「まったく……しょうがないな。私たちが甘やかしすぎた所為か、すっかり姉離れができなくてな」
『やれやれ』
呆れるように肩をすくめるエルフ姉妹がにやける顔を堪えながら取り繕っている。いや、取り繕っているつもりなのだろうが半分の仮面程度では隠しきれていない。オリヴィエは頬が緩み過ぎているし、シルヴィエに至っては目を細めて笑顔を振り撒いている。ボードの文字と顔が合っていない。
わかりやすいほどのブラコンであった。
「くくく、さあ弟よ! 遠慮せず姉の胸に飛び込んでくるがいい……!」
『かもーん』
隠す気がまったくないようである。
そして彼女たちがブラコンであることは周知の事実なのだろう。戸惑う学園生はいるが「これがあの……」「凄まじいな」と各々が感想を呟いている。そして「まるで別人のようですね……」とルダージュの隣で目を丸くしている召喚士に、アリージェたちが形容しがたい顔を向けていた。
「姉さま~!」
「アルフォース!」
待ちきれなかったのか姉妹が走り出した。微笑ましいが合宿中の巫女姉妹を知っている者からすればギャップが凄まじい光景だ。感動の再会というわけもでもないのに大げさである。
「――あ!」
だが、どうやら弟の方はそこまでシスコンではなかったようだ。
熱い抱擁を交わす――のではなく、姉たちを躱すように身を翻し、ルダージュの目の前に飛び込んでくる。
「君が人型精霊のルダージュだね。会えてうれしいよ!」
ルダージュの手を取り、ぶんぶんと握手する。
視界の端で固まった姉妹は放置されたままだ。
「聖刀剣の巫女の弟。聖剣の勇者と呼ばれたこともあった。アルフォス・リオン・ルフォルだ。気軽にアルフォスと呼んでくれ」
「あー……始めまして、人型精霊のルダージュといいます」
「うん! その自己紹介も板に付いてきたって感じだね! 彼――精霊王みたいなやつだったらどうしようかと思ってたけど君はまともでよかった!」
「はぁ」
酷い言われようだ。アルフォスにとって精霊王とは傍若無人な友人だったのかもしれない。
「記憶がないのは大変だろう? 何か困ったことがあったらいつでも頼ってくれ。これでも僕はここの学園長をしていてね。君のためなら鶴の一声でなんでも叶えてあげるよ!」
「そんな急に……って、学園長!?」
一教師どころではなく、そのトップである。
しかも、
「あれ? 伝えていませんでしたか?」
「聞いてないよセルティア……」
「この学園は勇者アルス様――アルフォス学園長によって設立された魔法使い・召喚士育成学校です。今回の合宿もデュカリオン大森林の当主が学園長であるからこそ実行できた野外講習なんですよ?」
学園の創設者であり、デュカリオン大森林の当主でもある。
そういえば……とルダージュは行きの馬車の中でヘルエルが言った『学園の許可が必要だ』という言葉を思い出した。森に住む巫女の許可ではなく学園の許可、だ。それはつまり学園に巫女以上の権力者がいるという意味だったのだろう。
「まあ、そういうことだよ。吃驚したかな? ちょっと前に全校生の前で挨拶をしたんだけど……君の霊核は大型に分類されたのか。それじゃあ僕の顔を見る機会がなかったのも仕方ないね」
ちょっと前――新入生の入学式のことだ。
「あの時は残念でした」
「おや? 式に参加したかったのかい? 精霊にとっては面白みのない内容だよ。その後の模擬戦の方がよっぽど楽しかったね! 生徒会長の戦闘は新入生にもいい刺激になったはずさ」
「きゅ、恐縮です……!」
突然話題を振られ驚いたのか、セルティアが噛んだ。
「ま、それでも君が式に参加したいというなら規則でも変えてしまおうか。学園長権限で」
「いやいやいや! それは悪いですって! そんなことで権力行使なんてしなくていいですから!」
「そうかい? 君の願いなら本当になんでも叶えてあげるよ。勿論、僕ができる範囲までのことだけど……おや? どうしてそこまで尽くしてくれるのかわからないって顔をしているね」
「う、正解です。正直、戸惑ってます」
さらに正直に言うと気味が悪い。
だが学園最高位の権力者で伝説の英雄に馬鹿正直に話せるわけもなく、何となく心当たりのある候補をルダージュは上げていく。
「俺が精霊王と同じ――人型精霊だからですか?」
「半分正解かな。でも、それはたぶんきっかけに過ぎない」
先程とは打って変わって真剣な眼差しで見つめられる。
「僕はね、君に感謝しているんだ」
「感謝……ですか?」
学園長は「そう――」と頷き、すうーっと息を吸い込み、
「ずううううううううううううぅっっっと森に引き籠ってた彼女たちをやあああっっっと外に連れ出してくれる人が現れたんだ! 元勇者としてこれほど嬉しいことはないよ! 君は僕の救世主だ!」
と、今までの不満が赤裸々な言葉で吐き出された。
『……』
思わず、その場にいた学園生全員が呆気にとられる。
いいのだろうか、そんなことを本人の前で言って……と不安になる。固まっている巫女姉妹の後ろ姿は不気味だ。
「そ、それにね!」
(続くのか!)
しかも、どもっていて言い過ぎたって顔もしている。
それでもやめようとしないのはアルフォスが勇者だからだろうか。勇気の方向性は確実に捻じ曲がっており、蛮勇に他ならない。
「何百年だよ! 何百年!! 正確な数字は名誉のために言わないけど! この何百年、自分で相手も探さない。見合いを用意しても「弱い」と一蹴――しかも物理で本当に蹴る。挙句の果てに聖刀剣が抜けないと無理……とか無茶苦茶なことを言って逃げるし!」
「おいたわしや……アルフォス様……」
ヘルエルがハンカチで目元を拭う。
主人の境遇を嘆く執事みたいなキャラが、唐突に湧いて出てきた。
「おお! グランシードのヘルエルか。お前にも色々と迷惑をかけてしまったな」
「いいえ! アルフォス様のために働くことができただけでも、身に余る栄光でございます!」
え? なに? その反応……とルダージュはヘルエルを訝しむように眺めるが、
「……ふっ」
謎のウインクを返されるだけだった。
――実は、ヘルエルという男は学園長に選ばれた姉妹の見合い相手の1人であり、今回の合宿のために学園に入学していた――とルダージュが聞かされるのはもう少し後の話である。
「とりあえず! 僕がとても君に感謝しているという事だけはわかってほしい。特に引き籠りの姉たちを連れ出してくれた君には是非、アニ――」
「くくく、言うに事を欠いて引き籠りとは……アルフォスも言うようになったじゃないか」
「――あれ?」
一瞬で姉妹に両側をホールドされ、引きずられる学園長。その首には『なまいき』と書かれたボードがかけられた。
「――あ、ルダージュ。また後で」
「え? あ、はい」
思い出したかのようにくるりと振り返るオリヴィエに、反射的に頷く。その隣ではシルヴィエが手を振っている。どうやらこれから家族水入らずで過ごすようだ。
「うん、逢いに行くから」
『……』
ルダージュが手を振り返すと、2人は切り替えるように邪悪な笑みを張り付けた。
「どれ、久々に可愛い弟で遊んでやろう」
「――ひっ、オ、オリヴィエ姉さま? 昔のように言い直してくれてもいいんですよ!?」
「すまないな、これは生き甲斐だと教えただろ?」
「わぁーいやだあああああああぁぁぁ――っと、そうだ。魔法科、精霊科ともに合宿お疲れさまでした。不測の事態にも関わらず君たちが無事に帰ってこれたのは君たち全員の協力があったからこそだ。恐怖に打ち勝つというのはとても難しい。何もできなかったと思う必要はない。恐怖の中、前に進んだからこそ君たちは今、ここにいる。よく頑張った! 胸を張れ!」
「……」
たぶん、いい話なのだろう。
元勇者が身内に引きずられながら語らなければ。
「あ、短くなった合宿の代わりに君たちには課題を沢山だすよ! 明日から覚悟しておいてくださいね!」
一気に周囲から『えぇ~』という不満が上がる。
学園都市の学園長アルフォス・リオン・ルフォルは消える最後のその時まで教師であり続けた。
±
その日の夜。
ルダージュはベットの上に押し倒されていた。
「――これはいったいどういう状況ですか?」
「くく、見てわからないか?」
仮面の少女が挑発的な笑みを見せ首を傾げる。
「わかりません」
ルダージュがノック音に釣られて扉を開けたのがついさっきの出来事。出迎えた瞬間に彼はエルフ姉妹に突き飛ばされ、ベッドに押し倒されたのだ。
姉妹の寝間着はほとんど下着といっても過言ではないほどの薄着で、男を煽るような扇情的な格好だ。そんな彼女たちが頬を熱っぽく上気させ、艶めかしい吐息で肌をくすぐってくるのだ。ルダージュとしては堪ったものでは無い。
「聖刀剣の主である貴方に逢いに来ると約束したじゃないか。理由は……わざわざ私たちの口から言わせるのか? 意地悪な精霊様だ」
「えっと……」
「逢引だよ、あ・い・び・き」
『よ・ば・い』
(どっちだ……――ってそんなことどうでもいいんだよ!)
逢引に夜這い。なぜ巫女である彼女たちが自分にそんなことをするのか。ルダージュは本気でわからない。――否、覚えていない。
「まさか……本当に忘れてしまったのか? 聖刀剣に選ばれた意味を。これでも並々ならぬ覚悟を持って襲っているつもりなんだが……」
「襲うってそんな……」
オリヴィエは困惑したように距離をとり、シルヴィエは何も言わずに潤んだ瞳でじっとルダージュを見つめる。
(何か忘れてるのか、俺)
混乱する頭をフル回転させ、ルダージュは今一度、聖刀剣に選ばれた意味について考えた。巫女姉妹から力を貰うこと以外になにが……あっ――
「も、もしかして伴侶……のことですか」
「……」
『……』
エルフの白い肌がこれでもかというほど茹で上がる。
導き出した答えは正解だ。今の彼の立場は姉妹にとって聖刀剣の持ち主であり、お婿さん候補という事である。
ルダージュはすっかり忘れていた。幻魔を倒すことしか考えておらず、頭から抜け落ちていた。
「ま、まって、待ってください! 今回は幻魔というイレギュラーが存在したから巫女様が俺たちに力を貸してくれたのであって、結婚とかはまた別の――」
「別ではない。私たちは最初から意識していた。学園まで来たのも貴方に……だ、だだだ旦那様についてきたかったからだ!」
『だんな様!』
ぎこちない。
取って付けたように呼ばれてもルダージュとしてはどう反応していいかわからない。
「……」
沈黙が落ち、それがいけなかったのだろう。
徐々に2人の表情が暗くなり、耐えきれなくなったオリヴィエがぽつりと呟いた。
「……やはり、迷惑だろうか」
「――え?」
やはり――と言われ、ルダージュは困惑する。
「少し寂しいがルダージュは戦うことに必死になっていたからな。私たちとの婚約を忘れていることは察しがついていた。それに元々、禁呪に身を委ね、剣に変身する奇天烈な身体だ。聖刀剣の秘密を知ってなおこんなモノに触れさせようなどと――」
「それ以上言ったら怒りますよ?」
『……っ!』
ルダージュがオリヴィエの発言を遮り、シルヴィエの手を取る。
自分の貶める言葉、諦めたように消されていくボードの文字。
どちらも許してはいけない、とルダージュは自分勝手にも、そう思った。
「怒る……のか?」
オリヴィエの指がさまよい、恐る恐るルダージュに伸びる。
そしてルダージュの肩に触れ、頬を伝うと――
「参ったな……私には優しい君しか見えない」
まるで自分に呆れるようにオリヴィエはそう呟いた。
「これは怒ってる顔です。俺は2人の態度に腹を立てているんですから」
「うん、わかっている。だからそれが――あぁ困ったな……やはり諦めたくない。こんな気持ちは初めてで私たちもどうしたらいいかわからないんだ」
何百年も巫女として世界を見守ってきた彼女たち。それを突然、普通の女の子のように恋愛をしろというのが無理な話だ。
だからルダージュは「急がなくてもいい」と告げようとしたが、
「そういえば精霊王の恋愛アドバイスがあってだな」
その矢先、思い出したかのようにオリヴィエが面を上げた。
「……はい?」
ろくでもないことだと直感が告げている。
彼女は少しだけ衣服を着崩し、隣に座る妹を抱き寄せて甘美な声で囁いた。
「私たちを、襲って」
「……」
世界が停止した。
それほどまでに思考が働かなくなるほどの衝撃だった。さっきまでルダージュは怒っていたはずで、彼の想いはちゃんと伝わっていたはず。どうしてこんな展開になってしまうのか。むしろ押し倒されたのはルダージュの方であり、仕返す必要性があるのか。
それがこの異世界のルールなのか。
わからない。
ルダージュはどうしたらいいのかまったくわからなかった。
「精霊王が押して駄目だった相手には引いてみろって……」
繕うように、あるいは羞恥に揺れる心を誤魔化すように消え入りそうな声で呟いている。
「……いったん落ち着きましょう。とりあえず精霊王のアドバイスですが……たぶん解釈が間違ってますよ。あと、御二人はとても大事なことを忘れています」
首を傾げる仕草がシンクロする。
そんな彼女たちにルダージュは重大な事実を再確認させる。
「ここがどこか……忘れてません?」
「……学生寮だな」
「学生寮のどこですか」
「ルダージュが住んでいる部屋……か?」
「違います! ここはセルティアが住んでる部屋です! はい! 右手をご覧ください!」
と、ベテランバスガイドの如く隣を案内すると――
「あ――」
部屋の主と巫女の目が合った。
彼女は毛布を胸元に手繰り寄せて、ちょこんと自分のベッドの上に座っていた。
そう、召喚獣がいるということは当然、召喚士も同室だ。つまり、今までのやり取りをセルティアはずっと隣で見ていたのだ。
「うちの娘はまだ年頃の女の子なんですからもう少しこう――」
「お、おかまいなく」
「そう、セルティアにかまうことなく……って、なんだと!?」
「ルダージュ。私は今、最後の1人が誰なのか必死に考えているんです!」
「はぁ……」
そんな考える素振り見せてたか……? ずっとこちらをガン見していたような気がしたんだが……とルダージュは頬を掻く。セルティアのあたふたとした態度はとても言い訳っぽく感じる。
「そうです! 巫女様方のことをすっかり忘れていました……! これで3人、オリヴィエ様、シルヴィエ様、ティーユ! 後1人とはいったい誰のことなのか……まさかミリー……マクセルという可能性も――」
ルダージュの恋人候補の話なのだが、本人には明かされていない内容なのでルダージュにはちんぷんかんぷんだった。だがそれでも、
(……そのメンツの中にロイを入れるのはやめてやれ。たぶん違うぞ)
「召喚士公認……第一関門は突破ということか。ノイシスであれば有り得な――ひゃいっ!?」
「あ、すいません。てっきりこういうことかと……」
オリヴィエの手がまた宙をさまよい、それがルダージュを探すような仕草だったため、つい握ってしまった。
当然、いきなり手を握られたオリヴィエは驚く。さっさと離さなければ――
「まて! 間違ってはいない! 吃驚しただけなんだ。ルダージュから握られたのは、その……初めて、だから……」
『だいたん』
「……今更では? 聖刀剣モードなんて握りっぱなしですよ」
「あれはまた話が違――」
不意にオリヴィエが何か考え込むように口を閉ざした。
そしてにやりと小悪魔的な笑みをチラつかせると、唐突に苦悶の表情を浮かべ胸を押さえ始める。
「どうしました?」
意味深な笑みはとりあえず横に置き、見なかったことにした。
「ルダージュ……幻魔戦での傷が痛むんだ。見てくれないか?」
「なんだって!?」
(そんな馬鹿な!? 戦闘中、刃こぼれ一つしなかったのに――!)
時間がだいぶ経過していることから時間差で痛む後遺症、もしくは力を使い過ぎた反動などの線を考え、ルダージュは心配するが、
「ルダージュに投げられたときの傷が癒えていないんだ」
「そっち!?」
「あの時に刃先を少し、な。なあ、ルダージュ。責任を取って診てくれるだろ?」
『―――さんごっこ』
シルヴィエがボードに書置きをして、ギリギリのところまで服をはだけさせていく。ノリノリだ。診てもらう気満々だ。
(読めなかった文字の意味は……知らなくていいや)
それより、
「刃先……ってどこだ?」
素朴な疑問が思わず口にでる。だが、それが不味かった。
ルダージュは真面目に剣や刀に変身したら身体のどの部分にあたるのか考えた。何となく柄は足という感じがするので刃先は頭頂部かもしれない。いやそもそもそんな概念があるのかすら怪しい――と耽っていると、渡りに船とばかりに握っていた手を引かれてしまう。
「さて、どこだと思う? この手でさぐって――まさぐって、みてくれ」
「言い直した!? ちょっ、オリヴィエさん!」
「ああ、そ、そういえばさっき胸が痛かったような……」
「!?」
策士だ。ここに赤面の策士がいる。
ところどころ声が引きつったり上擦ったりしている。誘惑してみたはいいが、羞恥メーターの上限は低く要領もよくはないらしい。
巫女姉妹の作戦に巻き込まれているルダージュだが、ここまで健気で不器用だと乗ってあげたほうがいいのかと血迷いそうなってしまう。だが、彼の手はオリヴィエの胸へと一直線に導かれているので、そういうわけにもいかない。
「ちょ――」
「あ――」
ヴァルトロと同類は嫌だ!
と、我欲の権化の顔を思い出し、触れないように力もうとしたその時――物言いたげな召喚士の小さな声が上がり、3人の動きが止まる。
「あ、えっと、あの……」
ルダージュたちに見つめられ戸惑うセルティア。
「なんでも……ありません」
らしくない、とルダージュは怪訝な顔をする。
セルティアは昨日の――おそらくは幻魔戦の後から様子がおかしい。「私の精霊は誰にも渡しません!」と公言し、巫女の2人を部屋から追い出すぐらいはやってのけそうな彼女が大人しすぎる、と。
「……セルティアも巻き込むか」
『めいあん』
そして陰で悪巧みを明け透けにしている姉妹はどうやらツッコミ待ちらしい。ご丁寧にもシルヴィエはルダージュにも読める文字で会話をしている。
「……まったく」
本気なのか、からかわれているのか。
素直なのか、ひねくれているのか。
出会ったばかりのルダージュには彼女たちのことはまだよくわからないが、それはこれから知っていけばいいだろう。
「いい加減にしてください」
と振り下ろした鉄剣制裁の手刀は仮面と黒板に阻まれ、ゴツンと鈍い音を鳴らした。
ルダージュとエルフ姉妹が織り成す最初の剣戟は、そんな不器用な音から始まった。




