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灰騎士物語  作者: トキバカナリ
第二章 幻魔と伝説の聖刀剣
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『魔法使い』の戦闘訓練

「おら! そこのちび兎! この俺が相手になってやるから、さっさとかかってこいや!」


 オルガが吠える。

 その相手は兎と言ってもティーユのことではない。デュカリオン大森林に生息する兎系の魔物に彼は今、啖呵を切っていた。


「まさかキーピーラビットに白兵戦を挑むことになるとは……オリヴィエ様直々の戦闘訓練はなかなかスリリングな内容ですね」

「軽口を叩いている暇はありませんわ、セルティア。オルガの声に釣られて好戦的な兎さんたちが群れを成してお出ましですわ」


 ぴょんぴょん、と草むらから可愛らしい兎が続々と跳びだしてきた。

 合計7羽の兎の魔物は敵を警戒しているのか、短い耳を逆立てて鋭い目つきでオルガを睨みつけている。

 一夜が明け、デュカリオン大森林の訓練初日。

 セルティアたち学園生は巫女オリヴィエが出した『キーピーラビットを正面から倒して夕飯の材料にする』という課題の真っ最中だった。


「予定通りですね。3人でいけますか?」

「わたくしたちを誰だと思っているのです。アリージェ・メル・ヴァトーとその執事のオルガ・ストロノーフですわよ? 魔物ごときに遅れはとりませんわ!」


 そう言い放ちアリージェは茂みに隠れていたルダージュたちから離れ、オルガの元へと躍り出た。


「張り切っているせいか僕のことをすっかり忘れているようだ。仕方ない、魔法で援護に回ってくる」


 呆れながらヘルエルも続く。


「キィー! キィー!」


 彼女たちの登場によりラビットたちは甲高い警戒音のような鳴き声を響かせ合唱する。

 戦闘開始の合図だ。後衛を務めることになったルダージュとセルティアはアイコンタクトを送り合い、それぞれ魔装を展開、杖を構え、いつでもアリージェたちのサポートができるように、そして――


「う、うさぎこわい……」


 と、自分のウサ耳を握って縮こまっているティーユを護れるように準備を整えた。


「……」

「……」


 ルダージュとセルティアは互いを見つめ合い思わず苦笑する。

 キーピーラビットを討伐すると言い渡されてからずっとティーユはこの調子だ。彼女たちバニー系獣人は子どもの頃から兎系の魔物を災いの使者として言い伝えており、ティーユはその迷信めいたものを真に受けているのだ。ルダージュからしてみればなまはげを信じている子どものようなものだと解釈できる。


「ティーユ、これから戦闘に入る。俺の側を離れるなよ」

「ん……」


 背中に顔を押し付けるように抱き着く。


(おいおい……戦闘では役立たない云々(うんぬん)は謙遜じゃなかったのか。それともあのラビットの時だけこうなのか?)


 どちらにしろこれでは動けない。

 魔装を操って戦うのがルダージュの基本スタイルであり、ほとんど問題はないのだが……もし、鎧殻(がいかく)を使わなければ勝てない敵が現れた場合は危険だ。

 その時はセルティアにティーユを預けなければならない。


「始まりました……!」


 セルティアの切迫した声を聞き、戦闘を見守る。

 そこではキーピーラビットが身体を肥大化させ筋骨隆々な姿へと変貌していた。


(……なんだ、あれ)


「こんな時に言う事じゃないとは思うが……」

「どうかしましたか? ルダージュ」

「キモい」

「……否定は、しません」


 マッチョがウサギ頭の被り物をしている。そんな感じ。

 まるで出来の悪いコラ画像でも見せられている気分にルダージュは陥る。


「本来はあの戦闘形態に移る前に狩る必要がある魔物です。私たちも実物は初めて見ましたが、ご覧のとおり近接戦闘の相手としては打って付けです」


 オルガがキーピーラビットの攻撃を掻い潜り懐へと滑り込む。そのままアグニードを装備した拳でボディーブロウを決めていた。


「魔法使いらしくない戦闘だな」


 上空に吹っ飛ばされるウサギの魔物を眺めながら呟くと、ルダージュの隣ではセルティアが得意げな顔で胸を張っていた。


「当然です。私たちは召喚士、なのですから」


 セルティアが言うのだから、そういうものなのだろう、とルダージュは思うことにした。

 腑に落ちないが。


「お嬢!」

「わかっていますわ!」


 魔物と手を掴みあい、取っ組み合って身動きが取れないオルガ。彼の肩を足場にアリージェが空へと飛翔した。脚にはもちろん黒いブーツとなったツペルの姿がある。


「ツペル!」

水刃脚(すいじんきゃく)!』


 息の合った連携だ。

 形を変え水の刃となったツペルと踵を振り下ろすアリージェ。ギロチンそのものとなった彼女たちが断頭どころか魔物を真っ二つに下ろす。


「ちょっ! お嬢! もう少し綺麗に狩ってくださいよ! これじゃあ食べるときに持ち運びにくいじゃないですか!」


 分断された魔物から噴き出る血飛沫。それを必死に避けながらオルガが叫ぶ。

 

「あら? そういえばそうでしたわねっ!」


 うっかりしていたと、恍け顔を覗かせるアリージェだったが、瞬時に目つきが切り替わり、背後から襲ってきた魔物の首を回し蹴りで切り飛ばした。


「これで美味しくいただけますわ」

「さすがですよ、お嬢! そういう過激なところ好きですぜ!」


 逞しい。本当にこの異世界の住人は逞しいとルダージュは感心する。

 え? ていうかアレを食べるの? あの肉を? 霊長類みたいなアレを? マジで?


「キーピーラビットの肉は筋肉質ですが焼いても煮込んでも美味しいらしいですよ? 楽しみですね」

「お、おう」


 同意を求められても困ってしまう。


(すげえよ異世界。どう見てもゲテモノ……いや、そんなこと言ったら俺のいた世界もどっこいどっこいか?)


「ごはん、ぬき……!」


 後ろを覗くとティーユが食べたくない宣言をしていた。気持ちがわかるルダージュとしてはその反応に親近感を覚えてしまう。


「まったく! 君たちのサポートをする身にもなってくれ! しわ寄せは全部僕に回るんだぞ!?」


 残りのキーピーラビットに囲まれながらもヘルエルは華麗にウサギたちの攻撃を紙一重で避け、隙を伺っては蹴ったり殴ったりと反撃していた。


「ルナール! 加護を!」


 ヘルエルの全身が薄く発光している。魔法による支援効果でマナが輝いているのだ。彼の精霊ルナールは所謂ゲームでいうバフ専門の召喚獣であり、召喚士の身体能力を強化して戦うのが彼らのスタイルだ。

 ルダージュとしてはエルフといったら弓を使うイメージがあったのだが、期待とは裏腹なバリバリの武闘家タイプだ。「魔法はどこに忘れてきたの?」と精霊科を問い詰めたくなる戦闘だ。


「ルダージュ、セルティア……」


 後ろでくいくいと服を引っ張られる。振り向くとティーユが耳を立てて後方を睨んでいた。

 昨日と同じ態度だ。

 つまり――


「魔物、ですね。乱戦を防ぎます」


 セルティアが杖を地面に突き立て魔法を発動させた。目の前の草木が急激に成長し、ルダージュたちとアリージェたちを隔てる壁が左右へと広がっていく。分断になってしまうが、戦いの最中(さなか)に場が混乱するという事故も起きにくくなった。持ち場を離れなければ(はぐ)れる心配もなく、セルティアは飛ぶこともできるため合流することも簡単だ。


「晩ごはん……」


 おいおい、とルダージュは心の中でツッコミつつ、ティーユの視線を追う。

 姿を現していたのは巨大な牙と角を持つイノシシのような魔物だ。なんとなくカブトムシも連想してしまう角と牙の配置。食事の邪魔になったりしないのか? なんてどうでもいいことを考えてしまう。

 体長はそれほど大きくはないが、突進でもされたら一溜まりもないことに変わりはない。


「にく……なべ……」


 ティーユには肉の塊にしか見えていないようだ。「大丈夫かなこの娘」と自分のことを棚に上げ、彼女が油断していないか不安になる。


「私にまかせて……」

「え……? あ、おい……!」


 ルダージュが自分の背後にでも隠れてもらおうか思案していた矢先、散歩にでも出かけるような軽い足取りでティーユが魔物に近づいて行ってしまった。


「グレンラタン、きて……」


 彼女の闘志は燃えていた。

 いや、それどころではない。彼女の身体そのものが炎に包まれ始めていた。

 精霊だ。

 杖の頭で揺れているランプから炎の精霊(グレンラタン)が漏れ出し、蔓のようにティーユの身体に絡みつく。

 普通なら水をぶっかけたくなるような状況だ。だが、炎に包まれているはずのティーユは火傷を負うどころか服も髪も燃えていない。それどころかまるで炎を纏う生き物そのものであるかのように一体化している。

 

「おいしく、焼いてあげる……」

「――!」


 食材扱いされたためか、はたまた近づいてくる炎(の兎)に本能的恐怖を抱いたためか、イノシシの魔物は鼻を鳴らし身震いし後ずさる。

 それを見たティーユがはっとなり、獲物に逃げられると思ったのか魔物に突進した。もはやどっちがイノシシかわからない。


「逃がさない……!」

「!!」


 魔物も覚悟を決めたのか、出遅れながらも猛進する。

 突進することに特化した魔物は瞬く間に速度を上げ、すでにティーユの速度を上回っている。傍から見れば力負けしてしまいそうな構図。すぐにフォローできるようにルダージュは魔装で武器を並べるが、それもいらぬ心配だった。

 ――勝負は一瞬だ。


「ぶっとべ……」


 杖で牽制するとか、跳躍して魔物の攻撃を回避するとか、いくらでもやりようはあったはずだ。しかし、ティーユが選択した答えは突進してきた魔物をボールのように蹴り飛ばす、というものだった。


「嘘、だろ……?」


 ゴム毬のように真上に吹き飛ばされた魔物を思わず見上げる。

 なんつー脚力をしてんだ……!


「戦闘では役に立たないんじゃなかったのか……?」


 思わず疑問が口に出る。精霊の力にしてはティーユの身体が身軽すぎる。一朝一夕(いっちょういっせき)では身に付かない洗練された動きがそこにはあった。

 答えをくれたのはルダージュと同じ光景を目の当たりにしているはずなのに特に驚きもせず、それどころか彼の言葉に首を傾げるセルティアだった。


「ルダージュ? 勘違いをしていませんか?」

「なにがだ? 攻撃系の魔法ができなくて戦えないって本人が言ってたんだぞ?」


 勘違いする要素はなかったはずだ。アーネですらティーユを「守ってやってくれ」と、


「はい、ですから魔法では戦えない(・・・・・・・・)だけです」

「はん?」


 訝しむような返事が漏れ出てしまった。


「え? なに? それはつまり――」

「魔法を使わずに戦えばいいんです」

「えぇ……」


 ティーユ・カグラ。

 戦闘系の攻撃魔法はからっきしだが、バニー系獣人の特性を生かした足技と体術のみなら他の生徒と引けを取らない。それどころか群を抜いた成績を収めている。

 ルダージュとしてはつまらないなぞなぞに答えられなかった時のような心境だ。微妙に納得できないもやもや感に煙られる。


「とどめ……!」


 串刺しにするようにティーユが落ちてきた魔物を蹴り上げた。

 どしん、とそこそこ大きい物音を立て落下するイノシシ。

 絶命していることを確認したティーユはとことこルダージュたちの前へ戻ってくると――


「どやぁ……」


 と、言葉とは裏腹に少し嬉しそうにはにかんだ。


「ほめて」


 やはり図々しい。

 セルティアにではなくルダージュに言ってきたので、とりあえず彼は頭を撫でることにした。


「くるしゅうない……」


 満足そうだ。

 アリージェたちも丁度課題が終わったようで、オルガの拳に吹き飛ばされ、最後のキーピーラビットが倒されたところだった。


「それでは食料を運ぶために一旦キャンプ地に戻りましょう。昼食を取った後は午後の訓練に移ります」


 班長であるセルティアの指示に各々が返事する。

 チーム『ザ・脳筋』の訓練はまだ始まったばかりだ。

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