仲間たち
強化合宿、もしくは野外訓練と呼ばれる精霊科1年と魔法科4年による同学年合同合宿。
それは召喚士となったばかりの生徒たちに精霊との実戦経験を積ませるための遠征だ。
精霊科は主に戦闘訓練。魔法科は怪我をした生徒の救護を行い、それと同時に治癒術の研修を受けることになっている。
目的地は王都アリアデュランへと続くユニア街道を進んだ先にある森であり、ルダージュたちは現在、学園が用意した大型乗合馬車に乗って移動している。
馬車――といってもアリアストラの馬は魔物であり、角や翼が生えている。見た目も異なれば馬力も異なり、速度もそこそこある。しかし、それでも目的地の森に到着するには日を跨がないといけないため、移動中はどうしても暇を持て余すことになってしまう。
だから、だろうか。
ルダージュの向かい側にいた1人の女子生徒が立ち上がり、自己紹介をしようと提案したのだ。
「わたくしたちは班として顔を合わせたばかり。学友として3年間を共に過ごしてはおりますが、そこに精霊を交えたことはありません。この機会に皆さんで自己紹介をするのも良いかと提言しますわ」
彼女の言うことは最もだ。
この合宿、実は五人一班で行動するのだが、その班構成は教師陣の独断で班員が決められ、しかも当日にならないと発表されない。おかげで知らない顔ぶればかりがずらりと並び、ルダージュを取り巻いている。お馴染みのミリアやロイたちとは離れ離れだ。
「どうでしょうか? 生徒会長」
「私は賛成です。そもそも目的地まで1日と半日。この無駄な移動時間を無駄にしないため、チームワークを高めるためにも必要なことかと。……個人的なことを言えば精霊さんを紹介していただけるのはとても素晴らしいことですし」
隣に座っていたセルティアが傍から見てもわくわくしているのがわかる。精霊という言葉に反応して興奮が抑えられないのだろう。時折、ルダージュをチラ見して「焼いてもいいんですよ? 嫉妬してもいいんですよ?」といった意味合いを含んだ流し目を送ってくるがルダージュは無視した。どう反応しても喜ばれる気がするし、この段階でも彼女の同級生たちが呆れ気味だったからだ。
「相変わらずですわね。折角ですので他の班の方々もわたくしたちにお付き合いしてくださるかしら?」
他の2班――合計10人の生徒が各々肯定の反応を示す。ルダージュたちの班はセルティアと他の3人――体格のいい男子生徒と兎耳の獣人娘、エルフの男からも反対意見はない。
「決まり、ですわね」
4人目、貴族制服に身を包んだ女生徒が周囲を見渡し満足そうに頷いた。
「では発案者としてこのアリージェ・メル・ヴァトーが先陣を切らせていただきますわ」
おお~と車内が盛り上がる。
貴族生徒といっても誰も彼もアーデルデやボロ雑巾新入生のような人種ではない。むしろあの類の生徒は極少数であり、貴族と一般生徒に身分の壁はない。よってアリージェが仕切るような態度を取っても不満そうな顔をする一般生徒などいない。それどころか彼女の人望の厚さゆえか、和やかな空気となっている。
「わたくしはヴァトー家の次女、アリージェ。父はアガレスト領の領主ですので貴族――という肩書を背負わされてはおりますが、末っ子のため今は自由に勉学に励むことができていますわ」
明け透けな性格だ。口調や仕草は貴族然として少女だが、中身は貴族という立場を『煩わしく思っている』という本音をひしひしと感じる。
「将来は宮廷魔法使として王に仕えたいと考えています」
と、アリージェがセルティアを見やり意味深な笑みを浮かべた。
宮廷魔法使といえばセルティアの就職先である。彼女たちは将来の同僚ということになるのだろう。
「今回、生徒会長と同じ班になれたこと、とても光栄ですわ」
「私もです。アリージェ」
「では、精霊好きのあなたに問題ですわ!」
「?」
唐突だった。
「わたくしの精霊は現在霊核化していますわ。彼女は今どこにいるでしょう? これは暇つぶしの余興です。折角ですので皆さんもお考え下さい」
「む、難しいですね」
「解答権は1人1回のみですわ」
頭を捻るセルティアの横でルダージュも首を傾けた。
精霊の霊核は多彩だ。小さな竜だったり鳥だったり、装飾品や武器に変身してしまうものもいる。
アリージェが座っていた場所には箱が置いてあり、彼女は指輪やピアスも身に着けている。そのどれもが精霊である可能性を秘めており、またその気になれば彼らが乗っている馬車そのものが精霊でもおかしくはない。
他の班の生徒たちが思い思いに答えを口にしていく。
「指輪か?」
「違いますわ」
「リボン!」
「これはプレゼントで貰いましたの」
「ストール」
「ぶぶー」
「座席に置いてある箱?」
「これはお弁当です。皆さんの分もありますのでお口に合うと嬉しいですわ」
歓喜の声があがるが、どれも正答ではないようだ。
ルダージュも問題に参加したいところだが、怪しいと踏んでいた箱はハズレだった。
「間違ってしまいました……。ルダージュは何か思いつきましたか?」
「俺? ん~そうだなぁ――」
もうご相伴にあずかることしか考えてなかったのだが、改めて頭を捻る。
アリージェが身に着けているもので挙がっていない物は上着やスカートなどの制服類だが、さすがにそれはありえないだろうとルダージュは否定する。仮に精霊が霊獣化した場合、アリージェがただの露出狂になってしまう。
となると、他に考えられる物は――
『パンツよ、パンツ』
「そうそう、パンッ――!?」
ちょっと待てや! と慌てて自分の口を塞ぐ。
思わず復唱してしまったが、とんでもない回答を口にするところだった。
(誰だ!? 今の女の声は!)
周囲を見渡すが、それらしい犯人は見当たらない。
「パン?」
セルティアが隣で首を傾げている。
どうやらその声はルダージュにしか聞こえていなかったようだ。
……つまり、精霊の発言である。
「パン――の続きは?」
「え? う、あっ……と」
車内にいる生徒たちがルダージュの答えを待つように注目している。セルティアはまだいい。無邪気に聞き返しているだけだ。しかし、アリージェ本人は微妙に頬が赤かった。それはパンの続きを察した顔だ。
誤魔化さなければ変体精霊の烙印を押されてしまうのは必至だ。
「ご、ごめん。腹が減っててさ、お弁当の中身がパンならいいなぁ~って」
我ながらナイスなフォローだとルダージュは自分に拍手を送った。それと同時に視界に入った弁当箱に感謝も告げる。
「もう、ちゃんと考えてください」
「……人型精霊さんは食いしん坊ですのね」
アリージェが少し呆気にとられた後、くすりと笑う。
そこに朱色の表情はない。
「安心してください。手でも食べやすいようにサンドイッチを詰めてきましたの。あなたを含め、皆さんの自己紹介が終わるまでもう少し待っていてくださいませ」
「……御馳走になります」
ルダージュは甘んじて食いしん坊キャラを受け入れた。
「良かったですねルダージュ」
(その保護者的ポジションはやめてくれ!)
「お嬢、ヒントの1つぐらいだしてはどうです? 終わりませんよ、これじゃあ」
体格のいい男子生徒がアリージェを見上げそんなことを言い出した。
「オルガ……そうね。これ以上長引かせるのも申し訳ないですわ。では人型精霊さんに皆さんを代表して答えてもらいましょう」
「俺か……」
「正解したらサンドイッチを多めにサービスしますわ」
「……ありがとう」
もはや何も言うまい。
「ヒントはズバリ、今わたくしが履いている物ですわ!」
『パンツよ! パンツ!』
お前は黙れ!
自己主張の激しい精霊とヒントも相まって候補はもうルダージュの中で決まっていた。それは、
「アリージェが履いている靴が精霊だ」
そう答えると突然アリージェが履いていた靴とストッキングが液状化し、彼女の白く陶磁器のようなおみ足が露になる。
そして裸足になってしまったアリージェを余所に、黒い液体が猫のような形を形成しながらルダージュへと近づいてきた。
『まったく、つまらない男ねぇ! 場を盛り上げるためにセクハラの1つぐらいしてみなさいよ!』
文句の内容は最悪だ。
これがアリージェの精霊なのだろう。
黒くて、ぷよぷよしていて、のっぺらぼうに口だけを生やしたような、スライムだ。
「あまり悩みませんのね。もしかしてこの娘に聞いてましたの?」
「どちらかというと嘘の答えで妨害してきたよ」
裸足のままのアリージェが、「まあ!」と口元を手で隠し驚いた様子を見せる。
「わたくしの精霊にしてはお茶目ですのね。そういえばくすぐられたりたまに足から離れてくれないこともありましたわ」
『それはアリージェの足がすべすべで気持ちいいからよ。つい、ぺろぺろしたくなっちゃうの』
「……」
液体のボディーを器用に扱い舌なめずりのような動きをする。発言も行動もただの変態である。
「では、改めてご紹介しますわ。わたくしの精霊ツィーペルターです。ツペルとお呼びください」
相方の召喚士は自分の精霊が『足を舐めたい』と口走っているとは露とも思っていないのだろう。
(ヴァルトロといいツペルといい、精霊の変態率高くね?)
「ツペル、こちらに」
アリージェが手を差し出すとツペルがそこに飛び乗り、そのまま彼女の肩の上まで登って行った。
「ご覧のとおりツペルはスライム型の精霊ですわ。普段は――っ! ツペル、皆さんの前ですよ! 頬をそんなに舐めないでください!」
『はあ~どうしてあたしの召喚士はこんなにも可愛いのかしらぁ~! べぇろべろべろべろ!』
「くすぐったいですわ!」
『あぁ~ん、相変わらずかわいい反応ねぇ! お姉さん興奮してきちゃった!』
ツペルに舐められるアリージェを眺めながら、ルダージュは何とも言えない気持ちになっていた。
テレビでは犬に舐められてる飼い主を見たことがあったが、言葉が通じないというのは本当は素晴らしいことなんじゃないだろうか、と。
他の生徒は身を捩りながら精霊とじゃれるアリージェを微笑ましく思ってるようだが、精霊の言葉がわかるルダージュからしてみれば変態オヤジにイタズラされてる女の子の図にしか見えなかった。
……いや、ツペルはメスだからぎりぎりセーフなのかもしれな――
『このまま触手に変身してイタズラしちゃいたいわぁ!』
やっぱアウトだ、アウト! 一度火にかけて蒸発させた方がいいだろこの液体!
隣で「いいなー」と羨ましそうにしてツペルとルダージュを見比べる残念な娘まで出てきた。
勘弁してくれ、とルダージュは頭を抱える。
「っと、ごほん! このような感じで変幻自在の色彩も自由なスライムですわ」
ツペルを頬からひっぺはがし首根っこ(?)を掴み、仕切り直す。
体どころか心も自由奔放なのは永久に秘密だ。
「最近はネコ型がお気に入りで普段は何故か私の靴として活躍してくれますの」
『踏まれることに快感を覚えたせいね! アリージェは罪な女だわ!』
(あーあーなにも聞こえなーい)
「ツィーペルター共々、合宿と精霊科としてのこれからを、よろしくお願いしますわ」
くいっとスカートの端をつまみ上げアリージェは腰を軽く落としお辞儀した。
パチパチと小気味良い拍手と太ももの肌色が増したことで男性陣の鼻の下が伸びたとこで1人目の自己紹介が完了する。
すると、先程アリージェを「お嬢」と呼んでいた体格のいい男子生徒が我先にと立ち上がり彼女の隣に並んだ。
「俺はオルガ・ストロノーフ。おじょっ――アリージェ・メル・ヴァトー様の執事をしている」
また「お嬢」と言おうとしたのだろう。アリージェに小突かれたことで言い直していた。
オルガという少年はルダージュの目線では失礼ながらも執事という風袋には全然見えなかった。見た目はただの体育会系であり、紅茶を淹れて従者として側に控えている姿がまったく想像できない。
「さあ! ここで問題だ! 俺の精霊はどこにいるでしょーか!」
オルガはそう言ってボディービルダーのようにポーズを取り始めた。前腕までを覆う銀色のガントレットを強調するような形だ。とてもわかりやすい。そして彼も精霊探しの流れに乗ったため、ここで精霊の紹介方法が確定した。
「えっと、そのガントレットが霊核……かな?」
「正解だ!」
ですよね、と解答した他の班の女生徒も苦笑いだ。
「ゴーレム型の精霊アグニードだ。挨拶しろ」
声に呼応して「すぽん」と音を鳴らし、オルガのガントレットがロケットパンチのように車内の中心に飛んでいった。
シュールな光景だ。
『……』
アグニードの左手が指をかたかたと動かし右腕を立ち上げ、そのまま手首を曲げる。
やっぱりシュールな光景だ。
お辞儀のつもりなのだろう。
「ちなみに自力で歩くことも可能だ。戻って来い」
『……!』
指が地を這う虫のようにカサカサと動き、前腕を引きずりながらオルガの手元へと帰って行く。
生徒たちから「おお~」と感嘆の声が漏れたがルダージュはうまく適応できなかった。
シュール……その一言に尽きる。
それに――
「どうしたんだ? そんなに眉を寄せて」
オルガがルダージュの反応の鈍さに気が付いたのか、そんな質問をしてきた。
「いや、ずっと耳を澄ませているんだが……アグニードの声が聞こえなくて」
これまでルダージュは『精霊と話せない』なんてことはなかったのだが、アグニードの声だけは聞こえてこなかったのだ。
「あん? そんなの当たり前――いや、そうかお前は……」
「……え?」
「ルダージュ、ゴーレム系……あとエレメント系もですね。精霊の中でも彼らは言語を持たないので精霊同士でもお話しすることはできないそうですよ?」
「そう、なのか」
精霊の種類も多岐にわたり、言語での意思の疎通を行わない精霊もいる。それは精霊や召喚士の間では常識だ。
ルダージュは記憶喪失の人型精霊として学園で通っている。もちろんそれは嘘なのだが、それゆえに精霊界隈での常識の欠如をたびたび露呈してしまい、周囲に気を遣わせ雰囲気を暗くしてしまう。
「ま、あれだ。こいつらは口で話さない代わりに体で感情を表現するそうだ。会話なんてできなくても仲良くしてやってくれよな!」
「ああ、よろしく……ん?」
沈んだ空気を入れ替えるように明るい調子になったオルガに便乗するようにルダージュも挨拶を交わそうとしたその時、トントンとアグニードがルダージュの肩を指で突く。
なんだ? と観察していると、まず右手がアリージェを指さす。その後に今度は左手がツペルを指さした。
「?」
ルダージュたちが疑問符を浮かべる中、アグニードは拍手を一回、そしてVサインからのOKサイン。最後に手の平を水平にしてオルガの額付近に当て見渡すようなしぐさをして締め括った。
(……って、おい! パン、ツー、マル、ミエってなんでお前がそんなネタできんだよ!?)
しかもツペルのパンツネタまで引っ張っている。それはつまり言葉を話すことはできないがこちらの言葉は理解しているということだ。
「なにしてんだ、アグニード」
しかし、残念なことにアグニードの召喚士はおろか、ルダージュ以外誰も理解できていない。
『誰がパンツよ! あんたあたしに喧嘩売ってんの!?』
お前が先に言い出したことだろ!? てか、今のジェスチャーわかったのかよ! っとツッコミを入れる暇もなくツペルがアグニードに飛びかかり喧嘩を始めた。
ネコ型スライムとガントレットの攻防戦である。
くだらない喧嘩の火種を理解しているルダージュとしては頭を抱えることしかできなかった。
「またじゃれ合ってますのね。微笑ましいですわ」
見慣れた光景なのかアリージェが仲介に入ることはなく、そのまま眼下を眺めながら言葉を続ける。
「この子たちのことは無視して、ティーユさん。あなたの番ですわよ」
「……ん」
アリージェ、オルガと入れ代わるように静かに女子生徒が立ち上がる。
彼女の頭には兎の耳が揺れていた。
「ティーユ・カグラ」
「……」
「……」
……え? 終わり?
「ティーユさん? もう少し何かないのですか?」
「……バニー系獣人」
ウサギ系でもラビット系でもなくバニー系である。ルダージュは自分が受けた翻訳魔法の基準が知りたくなった。
「もう一声」
「成績はドベ、魔法による戦闘面では役に立たないお荷物」
「自分を卑下する必要はありませんのよ!」
「……うん」
ぽけーとしていて不思議な娘だった。小柄なためかセルティアたちとは同学年のようも見えない。
綺麗な赤眼も重そうな瞼の所為で今にも隠れてしまいそうだ。
「眠い」
「頑張ってください! ティーユさん!」
アリージェは面倒見がいいのか声援を送っていた。
「……問題、私の精霊はどーこだ」
ノリはいいが投げ遣りである。しかも、
「正解はこの炎のエレメント」
適当だ。
ランプと一体化した杖を掲げるマイペースな少女に、
「自分で答えてしまいますのね」
「私が言いたかったのに……」
呆れながらも律儀にツッコむアリージェと落ち込むセルティア。
2人とも付き合いがいい。
だからこそこの班にティーユがいるのかと勘繰ってしまうぐらいだ。
「よろしく」
淡泊な挨拶を済ませると、ティーユは杖を抱きしめもたれかかる様に座って寝てしまった。ランプの中では炎がまるで生き物のように煌めいている。先程話題に出ていたアグニードと同様の喋らないタイプの精霊である。
「で、ではティーユさんはお疲れのようなので、次はヘルエルさんに――」
「エルフ族、ヘルエル・グラン・シェイド。出身はグランシード大森林。年齢は100を超える。誉れ高き勇者アルスに憧れ学園に入学した。見てのとおり宝石型の精霊を連れている」
そういって金髪の美丈夫は自分の太ももに寝そべっている兎のような狐のような動物を撫でた。額に光る宝石はまるで風を封じ込めたかのように碧色に揺れている。
「彼女はルナール。これでも霊獣化していてたまに首飾りに霊核化する。残念ながら乗車した途端に眠ってしまってね、お披露目はできそうにない。彼女の挨拶はまた次の機会にさせてもらうよ。いいかな?」
「もちろん、構いませんわ」
100歳も超えると物腰も落ち着いている。
そしてさすがのルダージュもこの世界に慣れ始め、だいぶ平静を保てるようになったいた。どう見ても10代にしか見えないヘルエルの実年齢を知っても動揺しない。
受け入れる心が広くなっていたのだ。
「では、わたくしたちの班ラスト――生徒会長にとりを飾ってもらいますわ」
「大げさですよ、アリージェ」
すくっと立ち上がり、会長モードのセルティアが皆に微笑み口を開くと――
「ダ・ダン! さあ、ここで精霊好きの皆さんに問題です!」
どうやら会長モードは地盤沈下に巻き込まれ崩落したようだ。
「……早くね?」
「まだ自己紹介始まったばかりよね?」
「俺たちまで精霊好きにされてるぞ……勿論好きだけどさ」
ツッコミの嵐が訪れたがセルティアはめげない――というか効いていない。
セルフ効果音を口ずさむくらいノリノリなのでむしろ聞いていない。
「生徒会長のセルティア・アンヴリューの召喚獣は現在霊核化しています。彼は今どこにいるでしょう!?」
当前のようにルダージュに視線が集まる。
「すげぇ、問題の中に自己紹介を捩じ込んだぞ」
「あれで済ませるつもりか」
「精霊好きとは聞いてたけど……ここまでとは……」
大多数はセルティアの変貌に慣れていないのか彼女の急変に付いていけずポカーンと口を開けている状態だ。余裕がある者はツッコミを零している。
かろうじて無事なのは班員である4人だ。アリージェとオルガは『あ、スイッチ入ったな』と察した表情であり、ティーユに至っては寝ている。ヘルエルに関しては我関せずといった感じで自分の精霊を撫でてガン無視だ。
「えっと、生徒会長? ルダージュは有名なので流石に――」
「ヒント! ヒントですね!?」
他班の男子生徒が苦笑しながらルダージュを指さそうとすると、透かさずセルティアが割って入ってきた。
「え? いや、別にヒントなんていらな――」
「わかりました! これは大サービスですよ!」
「あの、話を聞いて……」
「一つ目のヒントは装飾品の類ではありません。私としてはいつも肌身離さず持ち歩きたいのですが……残念です」
「そりゃ無理だろうよ」
オルガも耐えられなくなったのかツッコミに移る。
「……いえ、待ってください。髪の毛を切ってそれをお守りに……」
『ひぃ!』
ツペルが悲鳴を上げた。お前はまず毛がねえだろ。
「二つ目のヒントです!」
「解答権はありませんの?」
「ヒントが終わってからにしてください」
セルティアが定位置であるルダージュの隣に戻ってくる。
そして、
「ヒントは私が抱きしめているものです!」
と、言うや否やがっちりとルダージュをホールドした。アリージェの真似をするようにヒントを与えているのだろうが、これではバレバレだ。そもそも考えさせる気があるのかすら疑わしい。
「人前では抱き着くな……と釘は差されましたが……これなら合法ですよね!」
あーそっかーそういえばロイにそんな事を言われたこともあったなーと、頬をすりすりしてくるセルティアを横目にルダージュの現実逃避が始まる。周りの視線が徐々に痛くなった来たがセルティアはそんな事を気にするような性格ではないし、「うへへ」と軽くヘヴン状態になってしまったため、そう易々と戻ってこない。
なので、
「えーっと、人型精霊のルダージュです。よろしくお願いします」
『お、おう……』
彼らの哀れみを含んだ眼を、ルダージュは一生忘れないだろう。




