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灰騎士物語  作者: トキバカナリ
第一章 精霊と紋章の召喚士
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2人の想い

「それで……そんなノリでCランククエストを達成したわけ?」


 魔術ギルドで受付をしているショートヘアのお姉さんが苦笑交じりで呆れていた。


「ルダージュが魔物を陽動して、私が魔法でドカンと決めて、一瞬でした」

「ドカンって……説明になってないし」


 魔導都市学園支部魔術ギルド。

 それが学園に設けられているギルドの正式名称だ。

 校舎に隣接するように設置されている塔型の建物。ロビーラウンジは高い吹き抜けとなっており天窓の光と魔導具型の照明が辺りを照らしていた。


 受付のお姉さんとは本日2回目の対面だ。今朝、クエストを受注した時と、完了の報告に来た現在の2回だ。

 ゴブリンとボワウルフの耳――計92個をどっさりとカウンターに乗せてドン引きされ、巣を壊滅させる経緯を話したのが今さっきのこと。その間に山盛りになっていた耳は他の係りの人間がどこかへと持っていってしまった。

 

「ま、ノイシスの加護持ちで人型精霊まで召喚したあなたのことだから今更驚く必要もないか。待ってて、そろそろ集計が……来ましたね」


 ルダージュは出会ったばかりだが、セルティアにとっては3年近くお世話になっている人だ。だから彼女のこともよくわかっているのだろう。慣れたように気持ちを切り替えた後、麻袋とともに銅貨数枚とこんもりと小山のように盛られた銀貨が木質のトレイに乗って運ばれてきた。


 今回のクエスト成功報酬である。

 ルダージュには全く価値がわからない硬貨だ。銅貨1枚が単純に見積もって10円の価値だと考えても銀貨がわからない。銅貨10枚で銀貨1枚換算――とも考えたが違う気がする。元の世界では国によってレートも違ったため、それが異世界となれば、まるで見当もつかなかった。


「ギルドへの仲介料はもう差し引いてます。確認してくれる?」

「……はい、大丈夫ですね。問題ありません」

「んじゃ、こちらにサインしてください」


 ルダージュが頭を悩ませている間、手続きは滞りなく進んでいった。

 受付のお姉さんが丁寧で砕けた口調のどっちつかずな特徴的な喋りを見せる中、セルティアは慣れた手つきでサインして、その紙を受け渡した。


「お疲れ様でした。では、お金を受け取って……って何してるのさ」

「半分に分けています」


 トレイに乗った硬貨をきっちり半分に分け、片方をセルティアは自分の財布に。残りを麻袋に仕舞った。


「「?」」


 ルダージュとお姉さんが同時に首を傾げるが、疑問はすぐに晴れることになる。


「はい、これはルダージュの分です」


 と、セルティアがじゃらじゃらと音を立てる麻袋を渡してきたので、つい、ルダージュは反射的に受け取ってしまった。

 ……これは、俺の分け前ってことか。


「あールダージュくんは人型精霊だもんねえ。他の精霊だとあまり見ない光景だけど、彼にはむしろ必要かもしれないね」

「私も良い機会だと思ったので――」


 2人は納得しているようだが、ルダージュ自身は少し扱いに困っていた。


「どうかしましたかルダージュ……? 石化魔法を受けた石像のようですよ?」


 魔法の世界の割と洒落にならない例えに驚くも、ルダージュは状況を整理する。


(セルティアが俺をパートナーとして見てくれているのはわかる。俺とセルティアが2人でクエストをクリアし、報酬を得た。だから二等分。セルティアらしい考えだ。でも……)


 これは彼女の課題を手伝いたい一心で手に入れた副産物に過ぎず、そもそもルダージュは金の価値もわからず、どれくらい稼げるかも知らずに働いたのだ。

 つまり、何が言いたいかというと――


「その、なんだ……使い道がない。というか何に使っていいかわからない」


 とどのつまり金に興味がなかった。

 こっちの世界(アリアストラ)では何が売ってるかわからないし、大抵、ルダージュが欲しいと思った生活必需品は学園が援助として用意してくれていた。多種多様の精霊に対応する為の部署が学園に置かれているほど周到だ。残念ながらルダージュの場合、人型(・・)精霊なため、学生服や軽装が欲しかっただけなので彼にはあまり関係のない場所にはなっていた。


「欲しい物とかないんですか?」

「ああ、間に合っている。だからセルティアが全部受け取ってくれ」


 いずれにしてもルダージュはセルティアの就職先――宮廷魔法使に付いていくことになる。今からでもセルティアに財布の紐を握って貰うのもいいかもしれない――なんてことも考えてしまう。そう、今の彼の境地は正に、女房を信頼する旦那の気持ちに他なら――


「駄目ですよ、ルダージュ。それでは1人でお買い物にも行けなくなってしまいます」


 すみません。調子に乗りました。だから子ども扱いは勘弁してください。


「いいじゃないかルダージュくん。受け取るだけ受け取って、後は使いたい時まで貯金しておけばいいのよ」


 受付のお姉さんがルダージュに意味深な笑みを浮かべて目配せしてくる。

 なんだろう?

 ちらちらとセルティアにばれないような目線の合図。それが意味するものは……


「あ、……」


 なるほど、そういうことか、とお姉さんの意図を汲み取り頷く。


「……それいいですね。買いたいものがわかったら使いたいと思います」

「うん、頑張りなさい」


(セルティアにプレゼントか。何がいいかな?)


 これは捻り出すのになかなか苦労しそうだが、考えるだけでも楽しくなってしまう。幸いなことに、ルダージュたちの会話を聞いてもセルティアは小首を傾げるだけでわかっていない。好都合だった。


「セルティア、やっぱりちゃんと報酬は貰っておくよ。ありがとう」

「そうですか? 理解してもらえたようで嬉しいです。私がいないときにルダージュが無一文だと何かあった時に困りますからね」


 さっきのは言葉通りの意味だったようだ。

 魔界に堕ちてからこの世界で生活するようになるまで、金なんて持ち腐れていた。魔界にいた期間が長かったこともあり、持たない生活に馴染んでしまい感覚が狂っていたようだ。

 金が無ければ生活に困るという普通の感覚を、今更ながらに取り戻していく。むしろアリアストラに来てから一週間以上も取り戻さなかったのは、ルダージュの今の生活が恵まれている証拠でもあった。

 そして、困ると言えば硬貨の価値がわからないことが問題だ。


「それでセルティア、お願いがあるんだけどさ」

「え? どうしました? 何でも言ってください!」


 嬉しそうである。いつも通りとも言える。


「この硬貨の使い方を教えてほしい。あと他に種類があるならその価値も知っておきたい」


 彼女はもちろんいいですよ、と強く頷いた。そして立て続けに恥ずかしがるように頬を桃色に染めた。


「そういえば文字の練習ばかりでこの世界に必要な他の知識を教えてませんでした。失敗です」


 ちろっと赤い舌を見せ、彼女ははにかんだ。

 不意打ちを食らったルダージュは同じように照れた顔を誤魔化すためにそっぽを向く。


「街へ買い物に出掛けたらどう? 実際に物を見たり買ったりした方がわかりやすいでしょ」


 ナイスアシストだった。セルティアの好みをリサーチするには丁度いい。 


「ふふ、精霊さんとお買い物デートというのも悪くないですね。街には色々なお店がありますからルダージュもきっと楽しめますよ」


 私のおススメはですね~魔術書店の近くの――と彼女が得意げな顔になった瞬間、ぱっと動きが止まり「書店……本……文字……」とうわ言のように単語を呟く。

 何事だろうか。様子がおかしい。


「セルティア?」


 声を掛けるが反応がない。これはかなりの重傷だ。今も「見つけた……見つけました……!」と言ってルダージュの声に気付かない。

 見つけたってなんのことだ?


「ルダージュ! やはりお店巡りはまた今度でいいですか!?」

「え? もちろん、それは構わないけど……」

「私は用事を思い出したので出掛けてきます!」

「あ――」


 俺も一緒に行くよ、とは続けられなかった。

 魔法で加速したのかセルティアは物凄い勢いでギルドから飛び出し、あっという間に背中が見えなくなってしまったからだ。


「彼女、どうしたの?」

「……わかりません」


 呆気にとられるルダージュたち。


「……」

「……」


 微妙な空気が漂う。


「よかったら、お姉さんが硬貨の価値とか教えようか? ここなら見本があるし」

「……ありがとうございます」


 手持無沙汰になったルダージュは渡りに船とばかりにその提案に乗ることにした。


 後々、お姉さんに『忙しいのにどうして俺のために時間を割いて誘ってくれたんですか』と訳を聞いたら、『精霊くんの後ろ姿があまりにも悲しそうだったから声を掛けずにはいられなかったの』と淡々と言われてしまった。

 否定はできなかった。



 ±



 いつの間にか日が落ち、夜が訪れていた。

 受付のお姉さんに銀貨や銅貨のレートを教えてもらい、ついでに金貨も見せてもらったルダージュ。人型精霊が勉強をしているというのが話題を呼んだのか、がやがやと他の受付嬢や生徒たちも集まり野次馬が増えていった。


 迷惑ではなかった。彼らもルダージュに色々なことを教えていたので、逆に助かったぐらいだった。誰かが「俺たちがこんなにルダージュに世話を焼いていたら生徒会長が嫉妬するだろうな」と発言した瞬間、どっと笑いに満ちた時は彼女が皆に好かれていることが実感でき自分のことのように嬉しくなった。


 その所為で時間を忘れてしまい、夜になるまで気づかなかった。

 時間にして二時間弱、夕食のために生徒は食堂に向かう頃合い。

 学園は外灯と月明かりに彩られどこぞのネズミパークのような絢爛さを醸している。


 生徒たちは友人や精霊を連れ立ち、移動を開始していた。

 だが1人――いや、2人、その流れに逆らうように走る男子生徒と教師がいた。


「ルダージュ! ここにいたのか、捜したぞ! お前1人か!?」

「ロイ? それにクレイゼル先生? 今は1人だけど……どうしたんだ? そんなに慌てて――」


 副会長は常日頃すまし顔でいることが多い。そんな彼が形相を変え急くように走ってきたのだ。周囲の生徒も何事かと足を止め見守り始める。


「く、ここは人目がある。場所を移そう」


 ロイはそれが気になるのかそんな提案をしてきた。


「私も賛成だ。ルダージュくん、一緒に来てくれ」


 いつも飄々としている先生も今日はどこか焦っているようにも見える。手には小さい板みたいなものを抱えていて、ルダージュは最初それが何かわからなかった。

 薄汚れているように見えるが……なんだ?


「行くぞ」

「……」


 只ならぬ気配を感じ、ルダージュは無言で頷くだけで彼らの後を付いていく。

 連れられた場所は外灯が点々と立ち並ぶ閑散とした校庭の一画だ。周囲からは死角となっており、人の視線はない。

 ロイが口火を切る。


「約1時間ほど前、都市の方で事件が起こった。人攫いだ」

「事件……」

「犯行は大胆で街のど真ん中に魔法で爆風を起こし、煙幕に乗じて攫ったらしい。そして目撃情報によると……攫われたのはこの学園の生徒だそうだ」

「!?」


 副会長であるロイが奔走しているのはそのためだ。最初は街の衛生兵が対処するべき事件かとルダージュは思ったがそうもいかない案件らしい。


「学園の生徒は一般人より明らかに強い。返り討ちに遭うデメリットを考えれば普通は狙わない。そこにきな臭さを感じた街から、学園に救援要請が届けられた」


 無論、そんなものがなくても学園(わたしたち)は動くけどね、と先生の言葉が続く。


「情報を規制し無用な混乱を防ぐため、このことを知っているのは俺たち生徒会と教師陣だけだ。夕食(ゆうげ)時ということもあり食堂に生徒たちを集めその情報が本当かどうか秘密裏に俺たち生徒会が確かめる。なあ、ルダージュ。生徒会長は――」


 ――セルティアはどこにいるんだ?

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