エピローグ 始まりの終わり
召喚士と召喚獣のタッグ。
その頂点を決める<魔導>カップ決勝戦は中止となった。
突然の幻魔と紅騎士の来襲により学園はお祭りどころではなくなり、魔導都市学園は現在厳戒体勢が敷かれている。目撃者が多数いる中で幻魔が登場したことにより情報が学園内部だけではなく都市部にまで一気に広まってしまったためだ。
住民を安心させるため学園は街の自警団と教師陣の連携を図り警備を強化。
アリアデュランに救援要請を送り、宮廷魔法使の到着を待つ。
――というのが表向きの防衛を主とした幻魔対策である。
実際には敵から指名を受けた2人が戦地に赴き、紅騎士の奪取、幻魔の討伐を行う手筈になる――予定だ。
「静かなものだ」
ロイは窓越しから見える街の景色を眺めていた。
もちろん街の喧騒が学園にまで届いているわけではない。
幻魔という脅威が近くにいることを知った住民たちは息を潜めるように家の明かりを消している。普段なら酒場や娯楽街に光が宿る時間帯だが、その日は夜が深まる前に街全体が寝静まってしまっていた。
ロイはそんな光のない街の様子を見つめながら呟いたのだ。
「世界の敵、魔物ではない化物、災厄の象徴……幻魔が一体でも現れただけで街は光を無くす」
部屋を見渡す。
学園長室には関係者――人型精霊の正体の片鱗を知ってしまった面子が揃っていた。
学園の主であるアルフォス。
その姉であり伝説の聖刀剣の巫女、オリヴィエとシルヴィエ。
学園生からはミリア、アリージェ、オルガ、ティーユ、ヘルエル、シンシア、リンド、ロイ。
皆が思い思いの場所に座り、もしくは壁に背を預け、大きいソファーに独りで座るルダージュの言葉を待っていた。
本当は最初、セルティアはルダージュの隣に座ろうとしていた。だがそれはロイが許さなかった。彼女の隣を任せられると思っていた精霊が得体の知れない何者かになってしまったからだ。「お前は隣ではなく、向き合うべきだ」ロイはそう言ってセルティアをルダージュの向かいのソファーに座らせ、ミリアとアリージェは彼女を心配するように自然と隣に座る形となった。
「この世界にとって幻魔とはそれほど強大でどうしようもない存在だ。――ここにクレイゼル先生がいないから本音を言うが……正直あの人が話した内容は信じられないことばかりだった」
クレイゼルはアルフォスにより謹慎を命じられ、今は寮で待機中の身になっている。幻魔が関わっている重大事項を今まで秘匿し、尚且つ学園生という聴衆がいる場で巻き込むように暴露してしまったからだ。
これから行う尋問――事情聴取は個別で行った方が効率もよく、裏切者が近くにいるよりはルダージュの冷静になって話せるだろう……というアルフォスなりの配慮でもあった。
「俺たちはお前から……お前の口から、全てを聞きたい」
ロイの言葉に頷く仲間たち。
彼らはルダージュの嘘に怒っているわけではく、そもそもその段階にすら辿り着いていない。
わからないのだ。
今、自分たちの置かれた状況が想像の範疇を越え過ぎていて、自分たちがとるべき行動がわからないのだ。
すべては口を閉ざしどう話を切り出すか悩むルダージュの――彼が語る真実で決まる。
『皆、難しい顔をしているな』
中央のテーブルには召喚士の精霊たちが居座っていた。
そして一柱の精霊が空気も読まずルダージュの前へと躍り出た。
『ふふ、だが安心するがいい! このヴァルトロ、たとえ貴様が何者であろうとルダージュの友であり味方であることに変わりはない! さっさと曝け出してしまえ!』
「……ヴァルトロ」
ルダージュが顔を上げる。
テーブルの上では精霊たちが心配そうな顔で彼を見上げており、ヴァルトロは何故かポーズを決めていた。
そしてさらに顔を上げると、セルティアと目が合う。
彼女はいつになく真剣な眼差しで逸らすことなくルダージュを見つめ続けていた。そこに悲しみや怒りなどといった負の感情はない。ただ、真っすぐと己の召喚獣を見つめ、向き合っていたのだ。
(セルティア……君は――)
嘘を吐いていた俺をまだ信じようとしてくれているのか?
そんな泣き言のような言葉は出ない。
その代り腹を括る様に息を吐き、ゆっくりと深呼吸をする。
そしてルダージュは――青年は語りだした。
第四章 嘘つきと無名の紅騎士 ―完―




