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Called end of True  作者: 野崎リント
少し長めのプロローグになりますの
9/9

チアからのメール

ケースワーカーは私が施設に残るといったあの日。

就寝時間前の夜の自由時間に私と楓を面談室に呼び出した。

「本当にいいんだね?他の人に籍を譲ることになるけど。これが最初で最後のチャンスかもしれないよ?」

「はい、大丈夫です。他の人に籍は譲ります」

ケースワーカの問いに、私はきっぱりとそう言い切った。

私が素直に不安に思っていた胸の内をぶちまけると、ケースワーカーと施設の人たちは複雑そうな顔をしながらもこの施設に残ることを了承してくれた。


それ以来、ケースワーカーは全く私たちに会いに来なくなった。

施設の人を通して外で今何が起こっているのかすら報告してくれなかった。

両親の間で、親権がどうなっているのか。

父親は、母親は、今どうしているのか。

通っていた学校にはどんな風に連絡をしてくれているのか。

何も、誰も教えてくれなかった。

ケースワーカーに、外はどんな状況なのか聞きたくて何度か手紙を書いた。

それでも、返事が来ることはなかった。

もう施設生活で不安なことはなかったが、今まで以上に施設の外の事が不安で仕方なかった。

その後私達姉妹は、1か月。

ケースワーカーと連絡がつかない日々を送っていた。


そして8月10日。

なんの前触れもなくケースワーカーが私達姉妹の前に現れた。

どうして今まで来なかったのか、手紙の返事をよこさなかったのか問い詰めると、ケースワーカーは申し訳なさそうに「忙しかったんだ」と答えた。


私達はケースワーカーと指導員に連れられ面接室に通された。

そこで私は、ずっと施設に居て一番聞きたかった報告を聞くことが出来た。

親権が無事、父親から母親の方へ移ったというのだ。

施設の退所日も決まったらしい。

4日後の朝10時だという。

退所できる日時を聞いて、私はなんだか不思議な達成感を感じた。

それと同時に、やっと幼馴染達と会えるんだという喜びと、私たちを支えてくれた保育士や指導員達とお別れをしてしまうという寂しさが、私になんとも言えない切なさを感じさせていた。


8月14日、午前10時。

私。藤岡雅と、妹。藤岡楓の5ヵ月半に渡る施設生活は無事に、終わりを告げたのだった。


施設から車で移動して、児童相談所の本部で5ヵ月半ぶりに母親と再会し、施設で支給されていた服から母親が持ってきてくれた夏服に着替えた。

施設に入所したのは冬場だったので、施設に着てきた服では暑すぎて、熱中症で倒れてしまう。

着替えが終わった後、私達はケースワーカーや見送りに来てくれた施設の人たちにお世話になりましたと頭を下げて、本部を出た。

真夏の日差しと涼しげな風が、ずっと隔離施設にいた私と楓に、心地いい解放感をあたえた。

母親と楓と私の三人でこれから住むことになる新居へと向かう電車の中。

久々に触る携帯におかしな戸惑いを覚えながら、私は携帯の電源を入れた。

すぐにセンターに預けられていたメールを、携帯が受信し始める。

受信したメールは21件。

大半が施設に行く以前に通っていた中学校の同級生からのメールだった。

その他迷惑メールが2件と、珍しい人物からのメールが一件。

チアキ双子の妹の方からだった。

この子は、出かける時はいつもアキと一緒にいるという事もあってか携帯を持ち歩かないし使わない。

家ではいつもパソコンの通信ソフトでチャットや通話が出来るという理由でそもそも電源を入れていないと前にアキから聞いた。

チアからメールが来たのは、これが初めてではないだろうか。

気になってメールを開く。




件名:無題


本文『逃げられない』




「チア…?」

私がいない間に、何かあったの?

いやまあ何もなかったらチアからこんな変なメールが来るわけないか。

メールが送られた日付を見る。

8月12日。二日前だった。

逃げられないって、一体何から?

チアのメールにはあえて返信せず、アキにメールを送ることにした。

『ねえ、何かあった?』

本文にはそれだけ打って送信する。

すると1秒経ったか経たないかのほぼノータイムでどこからかメールが来た。

受信先を見ると『MAILER-DAEMON…』とある。

これは送り先のメールアドレスが存在しないとき、センターから送られてくるものだった。

これを見て私は直感的にアキは今携帯を持っていないんじゃないかと思った。

チアにも一応、アキと同じ文面のメールを送ってみる。

結果はアキのときと同じだった。

二人とも、メールが届かない。

電車を降りると、私は母親と楓にお手洗いに行くと嘘をついてアキとチアに電話をした。

予想通りといったら予想通りだったけど、二人とも繋がらなかった。

この電話番号は現在使われておりませんというアナウンスが耳元で流れる。

通話を切って、今度はチアキ双子の自宅の方へ電話をかけた。

誰も出ないが、自宅の電話は繋がるようだ。

留守番電話に施設から戻ってきたという報告と、携帯は一体どうしたのか、チアからきたメールはどういう意味なのかという事を早口に録音する。

録音を終え、通話の発信画面を閉じた。

携帯の時計を見てみると、午後3時近くだった。

「……やっと、連絡取れると思ったのに」

落胆の溜息が口から零れた。

チア、何があったんだろう。

幼馴染メンバーは全員また、無事に揃うことが出来るんだろうか。

そういえば、チアキ双子のことに気をとられていて、幼馴染メンバーに施設から出たという連絡をしていなかった。

一斉送信で報告なんてしたら、携帯が大変な事になりそうでこわい。

お昼を食べて、家に着いてからでいいか。

そう思って携帯を服のポケットにしまい、早くチアキ双子の自宅から折り返しの電話が来てくれることを願いながら、小走りに母親と楓が待っている改札前に向かう。

叶うのであれば、チアキ双子のどちらかが折り返しをしてくれますように。

また、二人の声が聴けますように。


チア、アキ。

今どこで何をしているの?

長いプロローグお疲れ様でした。

これからが、本編開始となります。

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