一章…ソラの章
定位置にある時計から通常アラームでわたしは起床した。
今日は休息日。特にやることはないようだ。娯楽用のスケジュールは極めて空白が目立つ。
手早く支度を済ませると半透明のパイプラインから食堂部を目指す。この移動手段は陸の道路を歩くよりかなり利便性は良い。多少上下坂の身衝撃時に違和感は覚えるが、慣れれば気にする程でもない。
七分少々で食堂部へ到着した。
いつもよく座る席でゆっくり食べ出すと、誰かが座った。
カナタだ。
カナタは仕事仲間-オサナナジミという関係らしい。
簡単に言えばユウジン。
ユウジンは職場だけでなく時には逢ったり、一緒に何かをすることもあるのだそう。
これは少し前に学習ソフトからダウンロードしたばかりの情報。だから、できるだけ柔和な表情を心がけ、言葉を発する。
「お…はよう。カナタも休息?」
「うん。ソラと重なるの久しぶりだな。こっちは前の研究が終了して新しいのに取り掛かる前の代替え休息だよ」
「そうなの。研究班も大変みたいだね」
「まあ、好きだからあまり大変さは感じないけどな」
「カナタもこれから食事?」
「いや、ポッドで済ました。結構簡単な料理ならそれほど手間もないからな」
「なら…」
それなら、何でカナタはここに居るのだろう。
訝しんで、そう言おうとしたけれど最後まで言わなくて良かった。
多少学習の成果はあるかもしれない。
そう。ユウジンは公用や約束以外にも個人的な事由で逢うこともあり、それは片方の意志のみで成立する場合がある筈。 たとすればこの問い掛けは意味を為さない。
「…あ…いや、用事はあるんだけど」
「そうなの。急用なのかな?」
「え…いや…急ぐってこともないけれど…良かったら違う場所に行かないか?」
カナタがあまりに真剣そのものに映ったのでわたしも同意することにした。
カナタの話しは理解不能だった。
だから一方的に語るしかなかったのだろう。
居なくなった後には飲みかけのカップから白い湯気が立っている。
わたしは一人取り残された。
余暇を有効利用への理解不足なのか、人に言わせると相当もったいない使い方をしているらしい。
だからといって去っていった彼を追いかけて疑問解消に勤めるわけもなく。
二つのカップをそのままに娯楽部へ行くぐらいしか検索には引っかからない。
居住ポッドに帰るその前に娯楽部をぶらぶらしてみることにした。
娯楽部には様々な遊技場、運動場が公共施設として設置されている右岸と、有料施設の多い左岸で構成されており、少し大きめの人口運河の上を二本の公共ラインと複数の色の私的ラインが数百本並んでいる。その多さは利用頻度に比例している。
わたしはエアラインを降りてすぐにある公園のベンチに座る。
少し遠くにある筈の遊園機器の方向から独特の声音が微かに響いてくる。
わたしはそれに構わず目を瞑った。