アナザー&ネクスト
(数ヵ月後 翡翠黒鬼 仮設総隊長室 )
コンコン
「龍崎です、失礼します。」
龍崎がドアを開けると、神崎がいつものように仕事をしている。
まだ、戦ったときの傷が癒えていないのか、時々、痛みが顔ににじみ出ている。
「待ってたぞ。龍崎。そこ座っとけ。」
神崎はそういうと、向かいのソファーを指差した。
龍崎は神崎の顔を伺いながらさっとソファーに座る。
数分後、神崎はコーヒーを手に龍崎の向かいに座った。
「すまんな。いきなり呼び出して。」
「で、俺を呼んだ理由はなんすか?総隊長。」
「もうその呼び名はやめてくれ。砂羽でいい。」
神崎は、神妙な面持ちで龍崎を見つめる。
少しの沈黙が空間を覆っていくような感じをお互いに覚え始めていたその時、神崎が重い口を開く・・・
「私は、総隊長をお前にやってほしいと思っている。」
あまりにも突然のことで、龍崎は開いた口を塞げずにいられなかった。それも気にせず、神崎はこの話を続ける。
「私は、今回の件は自分が招いたと思っている。だから私は、この事件の引責辞任をすることにした。私は息子であるお前に・・・私と弁慶の後をついでほしいと思ってな・・・。」
神崎の顔は、普段の仕事の顔ではなく、龍崎の母親としての顔に変わっていた。
「俺は、まだその席に座る器じゃない。」
龍崎はそういって席を立とうとしたが、神崎は腕をつかみこういった。
「お前が育てろ、護。」
神崎の真剣な目に龍崎は気持ち負けしてしまった・・・。
(獅織・司)
獅織と司は療養の為、それぞれの実家に戻っていた。
「おにいちゃん・・・」
「どした?聖廻。こっちおいで。」
不安そうな聖廻を呼び込むと、枕元のお菓子をあげる。実家に戻ってきてからの獅織のちょっとした日課のようになっていた。
「本当に怪我大丈夫?」
「もう大丈夫だから、心配すんな。」
そういって、聖廻の頭をくしゃくしゃする。これもここに戻ってきてからの日常のようなものだった。
その頃、司は部屋にこもって長期休暇をエンジョイしていた。
「司様。当主様がお呼びです。正装でくるようにとのことで。」
「ふぇ~い。正装ね・・・て正装?」
「はい。」
当主、つまり自分の父親からの呼び出しに戸惑いながらも正装に着替え部屋を後にした。
それは、獅織も一緒だった。
「え?正装?」
「はい。それから、東凰院家の広間にとのことです。聖廻様もお急ぎください。」
「ぼくも~?」
「とりあえず、着替えよっか?聖廻?」
「うん!」
(東凰院家 広間)
着替えを済ました獅織と聖廻は、威織と維裟廻、草助と広間で合流した。
「全員集まったな。」
声のする方向を見ると、そこには獅織と司の父親が椅子に座っていた。
「獅織、司君もこっち来て。」
獅織の父、蓮が彼らを近くまで呼ぶ。
その間に、司の父、龍翔が何かを用意していた・・・
「獅織、これをお前に託すってどういうことか分かるな?」
獅織の手には、分厚い本とペーパーナイフのような小さな刀。これは、代々香西家の当主が守り続けてきた、いわば家宝のようなものであり、当主の証。
獅織の中では、うれしさと戸惑いが葛藤している。
「司、お前がこの家を守れ。」
龍翔も、司にも鎖で繋がった大きな2本の刀を渡した。当主だけが持つことの許された刀。
司もまた心の中に葛藤を覚えていた・・・。
そこに遅れるようにしてある人物が部屋に入ってきた。
それは真新しい総隊長服を着た龍崎だった。
戸惑っている彼らを見るなり龍崎は大きな声でこういった。
「獅織!司!それ受け取れ!」
龍崎達が来ているのを知らなかった為、彼らは驚いた。
「でも・・・俺達・・・」
「お前らなら出来る!おやっさん達がそれを託そうとしてんのは、お前らに託しても大丈夫だって思っ
てから渡すんだろ!親の気持ちは素直に受け取っておけ!」
彼らは戸惑いながらも、自分が当主になることを受け入れた・・・。
その頃、兵頭家では一馬があの子ども達と一緒に離れで暮らしていた。
しかし、もうすぐお別れ。
こども達は、一馬達と同じ聖霊学院に入学することになったからだ。
「祈~湊~!どこ行ったんだよ、制服届いたのに(怒)」
一馬は部屋中を歩き回っていると、廊下にお菓子のくずがぽとぽと落ちているのを発見。
辿って行くと、奥の部屋に繋がっていた。
「お前ら(怒)」
いきよいよくドアを開けたその先には、散らかった部屋でお菓子を食べていた子供たちがいた・・・。
「お片づけしなさ~い!!」
部屋には、一馬の怒鳴り声だけが響いていた・・・。
この時、一馬は不穏な空気を感じ、咄嗟に子供たちを守ろうとしたときだった。
振り向いた子ども達の目の前に落ちてきたのは、武具の付いた一馬の両腕。
そして、目線を上に上げると、あの時と同じ黒い無機質な仮面の男が立っていた。
「やっと見つけたよ。かくれんぼは終わりだよ、祈、湊・・・」
男がそういって手を伸ばそうとしたとき、騒ぎを聞きつけた家臣の人たちが来た為に男は姿を消した。
こども達は、目の前で倒れている一馬の姿が目に入ると・・・
「一馬!死なないで!」
「もう嫌だ!」
「助けて!戻りたくない!」
子供たちはパニック状態に陥っていた・・・




