生き残り
(翡翠黒鬼 総隊長室)
「単刀直入にいう。お前にある事件の捜査メンバーに入ってもらいたい。」
「いきなり、なんすか!先生。」
神崎は神妙な面持ちで、豪紫を見つめながら話した。
豪紫は、何も緊張することもなく、ただひたすら出された菓子をつまんで食べる。
「ある事件ってなんすか?」
「この部隊では、25年前に起きた村民集団殺害事件と類似した事件がここで起きているんだ。うちの男どもが、身体の一部が欠損している状態で見つかった。」
「ふ~ん・・・」
「それで・・・龍崎のことなのだが・・・」
「何すか、いきなり。あいつがどうしたんすか?」
「彼は・・・25年前の・・・最初の事件の生き残りだ。」
豪紫は、その言葉を聞いた途端、驚きのあまりその場で固まってしまった。手にしていた菓子も床に落としてしても拾えないくらいに・・・。
「先生・・・冗談でしょ?」
「冗談ではない。兵頭、これから話す内容は、部隊の極秘文書に関わることだ。口外しないでほしい。よいな。」
豪紫は、神崎の目を見て事実だということを悟った。
「私が、この部隊に入隊して最初に担当したのがその25年前の事件だ。村は地獄絵図の状態でな、生存者はいないとそこにいた誰もが思っておった。」
砂羽は、机に向かうと1枚の写真と資料を取り出しながら話を続ける。
「でも、現状を把握する為に・・・村の中をひたすら歩いていたんだ・・・。村の奥の湖まで行った時だった。その畔の小屋で一人の子どもがうずくまって泣いてたんだ。体中傷だらけで、明らかにパニックを起こしているのがわかるくらいに震えた子ども・・・その子が龍崎だ。この村唯一の生き残りで唯一の目撃者。だから、いつ狙われるかわからない存在でもある。」
神崎は、そういいながらある資料を豪紫に見せた。そこには、傷だらけの子どもと若い死神が写っていた。
「今回ここで起きている事件に関して、龍崎を単独で行動させるのはきわめて危険だと私は思う。かといって、他の部隊長と集団で行動したとしても、あいつの性格だから、感情的になって和を乱してしまいかねない。それに、今は自分自身をコントロールができていないような感じもあってな・・・。」
「で・・・俺にあいつのお目付け役をしろと・・・でも、朝比奈や不動もいるじゃないですか?」
豪紫のその一言を聞いて、砂羽は思いがけないことを豪紫に告げた。
「私が、学院でお前らを教えている時、龍崎が一番心を開いていたのはお前のような気がしてな・・・。それに、朝比奈も不動も自分の部隊がある。たとえ合同捜査という形で傍に居させたとしても、全てというわけにはいかない。だから、フリーのお前に頼んだんだ。」
「・・・わかりました。でも、俺も先生にお願いが・・・」
そういって、豪紫は神崎にあることを伝えた。
(某所)
夜
森の中
薄暗い廃墟のようなその場所
そこには4つの影が見え隠れしていた。
「もうすぐですね…。」
彼の手は、黒い血に染まっていた。
「そうだな!もうすぐ…もうすぐなんだよな!」
彼は何かを貪り食い、口元は黒く染まっていた。
「俺達を消そうとした、死神が怯えてる顔を早く見てみたいぜ。」
彼はひたすら刀の手入れをする。
「今日は、何してあげようか?」
そういいながら、彼は不気味な笑みを浮かべる。
「では、行きましょうか・・・」
そういって、彼らは部屋を出て行った
顔を黒い仮面で隠して・・・。
(翌日 翡翠黒鬼 中庭)
中庭の池に女性死神の亡骸が浮かんでいた。
光を失った目が、陽の光を求めるように仰向けに・・・
その後の解剖で、彼女の体内からは血液が一滴も残らず吸いだされていたことが判明した・・・。




