決意表明
「失礼します!」
「はい!」
玄関には、本部の隊員がいた。
「あ・・・あの・・・」
神崎の脳裏に嫌な予感がよぎっていた。
本部の隊員が直接他の部隊の隊員に報告・連絡に来るのは、人事異動か関係隊員の死亡報告の時だけだからである・・・。
「昨日発生した連続集団虐殺事件現場にて敵との交戦があり、柊弁慶隊員率いる特別部隊の全員の死亡が確認されました。遺体の確認をお願い致します。」
神崎は一気に身体の力が抜け、その場に崩れるようにへたり込んでしまった。
覚悟は決めていたとはいえ、涙がとめどなくあふれ流れていく・・・。
「砂羽、どしたの?」
その光景を目にしたとたんに、男の子は砂羽のほうに走ってきた。
「お前、砂羽に何をした!何いったんだよ!答えろ!」
まるで、猛犬が吠えるように間髪いれず怒鳴り続ける。
「護・・・早く着替えなさい・・・」
「でも・・・」
「いいから早く!・・・弁慶を迎えに行くよ。」
その言葉で、子どもながらに何が起きたかわかってきたようだった・・・。
神崎達は、身支度を整え離れを出た。
(聖堂)
そこには、白い布に包まれたたくさんの遺体が安置されていた。
「こちらです。」
第五部隊の隊員に案内された場所は、聖堂の祭壇に一番近い場所だった。
遺体の中央には柊の名前と写真が貼られていた。
神崎は、静かに布をはずすと、いつも見ていた寝顔がそこにはあった。
「弁慶・・・もう起きてくれないんだよね。」
男の子のその言葉に、神崎の涙が止まらなくなった。
「本当だよ・・・馬鹿・・・早く起きてよ・・・弁慶!」
神崎は弁慶の冷たい身体に抱きついた。
冷たくて重い身体に・・・
男の子も神崎と一緒になって抱きついた。
泣きながら・・・
(第二部隊 離れ)
柊の遺体は、棺に移され離れに帰ってきた。
神崎達が憔悴しきっているのをよそに葬儀の準備は着々と続いていく・・・。
晩には全て整い、葬儀担当者は離れを去っていった。
その日の晩、神崎は祭壇に酒と煙草を置き、男の子は、棺の前にテーブルを置き、食事の準備をした。
いつもと違う食卓が始まった。
「な・・・砂羽。」
「何?」
「他の死神は本当の親とか兄弟とかが来てたけど、弁慶にはいないの?」
「弁慶も私も親いないの。弁慶とはそれで仲良しになったの。」
「そうなんだ。」
少しの沈黙が、この空間を包もうとしていた時だった。
「砂羽・・・俺、死神になる。」
男の子からの意外な発言に神崎は思わず男の子を2度見してしまった。
「いきなりどしたん?びっくりするわ。」
「俺、本気だから。・・・弁慶の代わりに俺が砂羽を守る!決めたから。」
「まだ、護には早いよ。死神になるには・・・。」
「だって、俺だって家族だもん。弁慶だって俺を守ってくれた。だから・・・今度は俺が・・・」
男の子は泣きながら神崎に訴えた。
自分の気持ちを・・・。
(翌朝)
「あれ・・・護・・・?」
神崎の隣で寝ていたはずの男の子がいない。
神崎は、部屋中を捜したが男の子はいない・・・
(もしかして・・・)
そう思い、彼女は棺のふたを開けると柊に寄り添うように男の子が寝ている。
「よう一人でこのふた開けたな・・・この子は・・・」
そういいながら男の子の頭をさすって棺から抱えて布団に戻した。
そしてもう一度棺のふたを閉めようとしたが、神崎はその行為を止めてしまった。
「弁慶。護が・・・死神になるって。本当にいいのかな・・・・。」
そういいながら、柊の冷たい頬をなぞった。
すると、外の柳の木がかすかに揺れ始めた。
それを見て、神崎は何かを悟るように微笑んだ。
「了解。ありがとう。」
そういうと、神崎は柊の唇にキスをした。
泣きながら、数分間キスをした。
「私も死神として、護憲の母親として強く生きるよ。だけど、私達の傍にいてね。ずっと・・・」
そして、葬儀が終わり、柊の棺は翡翠黒鬼の敷地内にある墓地に埋葬された。
(それから数年後)
「護!入寮証忘れてる!ちゃんと準備しとけいうたでしょ!」
「あれ、入れたはずなのに・・・。」
玄関には真新しい学院の制服を来た男の子がいた。
今日は入寮式そして続けて入学式。
死神としてではなく、母親としての時間だけの日。
「龍崎護憲君!名札も忘れてます!」
「マジで!俺付けてたはずなのに・・・」
「気持ちが浮きすぎ!もっとしっかりしなさい!」
そういいながらパンプスを履き、玄関を出た。
(オレヲオイテクナヨ!)
振り向くと、スーツ姿の柊がそこにいるように見えた。
「ごめん。一番忘れちゃいけない奴忘れてた。」
そういうと寝室まで戻り、柊のつけていた指輪と写真をバックに入れてもう一度部屋を出た。
(第5部隊 集中治療室)
「う・・・うぁ・・・」
龍崎の視界には、白い天井と点滴が見えた。
「龍崎?」
「朝比奈・・・ここ・・・治療室か?」
「そうだよ、ちょっと待ってすぐ他の奴呼んでくるから!」
朝比奈はそういうと、備え付けの電話で山王に連絡していた。
(ガキの時の夢でも見てたのか?・・・俺・・・)
そう思いながら窓の外を見ようと顔を傾けていた。




