Act6:訛音《後半》
カオンくん過去編後半です。
ちょっと矛盾出るかもしれませんが、頑張りますのでよろしくお願いします。
彼女は口元に微笑みを浮かべ、カオンの方を見た。
人を見下すような目で
人を蔑むような目で
何か汚いものでも見るかのような目で
どう?っとばかりに、カオンの目を真っ直ぐ捉えた。
紫紺の瞳は、挑戦的な光と、あなたには無理でしょう?という蔑みが入り混じっていた。
というか実際に言ってきた。
「朝比奈くん。
あなたには、こんなに早く魔法を発動できないわよねぇ。」
その言葉に何も返せず、ただただ睨み返す。
「あなた、自分が天才だと思っていたようだけど、違うわ。
あなたは努力しても報われない、ただの凡人」
凡人と言われた屈辱に、顔がかぁっと赤くなった。
その屈辱と、実際にその言葉通りの自分の能力に嫌気が差した。
その程度の能力で自分の力を天才と評価していた今までの自分が恥ずかしくて、この場から逃げ出したくなった。
だが、逃げることこそ一生の恥と思い、声を震わせないように気をつけながら、言い返す。
「なぜ、僕のことをそんなに敵視するんですか?」
その言葉に呆れたように嗤い、一言。
「なぜですって?
それはあなたが貴族だからよ。
貴族っていうのは、見栄を張りたがる馬鹿ばっかり。
実力もないくせに、自分の力を過信する。」
どうしようもない奴ら。と最後に付け足し、呆れたように首を振る。
「私は・・・・わた・・し・は、そんな口先だけの貴族なんて、大・大・大・大・大・大・大っ嫌い!!」
それを言ったとき彼女は、さっきまでの呆れた表情とは違い、顔を赤くしながら怒っていた。
彼女にも何か理由があったのかもしれないが
カオンは自分の家を
親を
家族を
自分の存在自体を、侮辱されたことに対しての怒りしか沸いてこず、そんな風に考えることができなかった。
その日から、カオンに対しての嫌がらせが始まった。
あからさまな物から陰湿な物まで
今まで仲良くしてきた奴らが、影でこそこそカオンの悪口を言い始めた。
朝比奈家という家柄に、今まで媚び諂ってきた鬱憤を今ここで晴らそうっとばかりに意気込み、服で隠れて見えない部分に暴力を振るった者もいた。
突然現れた謎の少女に周りは感謝する。
今まででかい面してきたあいつに、恥をかかせてくれてありがとう、と
もう、あいつのウザイ自慢話を聞かなくてすむ、と
そんな彼らを彼女は、生ゴミに集る蠅を見るような目を向けながら聞いていた。
その日から小等部卒業までの間、嫌がらせは一向に収まる気配がなく、中等部に上がるまで、カオンはいつも一人で行動した。
彼女に負けた日から、毎日鍛錬を怠らなかった。
自分の力を過信せず、日々強くなってきた自覚があった。
実際中等部では、他の貴族の連中には負けなかった。
その点においては彼女に感謝していると言ってもいい。
だが、この前の授業で自分の実力を思い知らされた。
自分は、努力しても報われない凡人だと・・・・・・・。
あいつに水をぶっかけたのは、ただの八つ当たりだと自分でもわかっている。
でも、そうしなければ自分が以前のようになる、と思うと異常に怖かった。
暴力が怖いわけじゃない。
陰口が怖いわけじゃない。
友達だと思っていた人たちに裏切られるのが怖かった。
自尊心を傷つけられるのが怖かった。
中等部ではそれなりの友好関係を作ってきたつもりだし、周りに嫌われないよう努力してきた。
成績も自分より上の人は居らず、いつも最上位だった。
高等部でもそうしていくつもりだった。
そうしていけると思っていた。
でも、あいつのせいで全て台無しになった。
面白くもないのにヘラヘラ笑って、馬鹿みたいな話に相槌を打って、そうやって築いてきた友達関係を粉々に打ち砕かれた。
努力して培ってきた力を、魔法を最速で発動するという行動で、否定された気がした。
あいつが自分よりも速く魔法を発動したとき、昔の記憶が蘇った。
あの時みたいだと思った。
またみんなに馬鹿にされる、そう思うとつい手を出してしまった―――。
部屋で叫ぶと少し冷静になれた。
つぶす、と言っても具体的にどうするかなど決まっていない。
とりあえず、フカフカのベッドに身を預ける。
今はまだ授業中のはずだ。
サボリになってしまうとも思ったが、どうでもいいかとベッドに体を深く沈めた。
コンコンッ
その時、自分の部屋の扉を叩く音が聞こえた。
給仕係が水を持ってきたのだろうと、入ってもいいという意味のベルを鳴らす。
しかし、予想と違って入ってきたのは
自分の努力を否定したあいつだった。
次回は、ハイガ君目線だと思います。
更新は不定期ですが、今後もよろしくお願いします。