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猫と私

猫と私  Pre-ver.

作者: 桜妃梨華

 そよそよと、爽やかな風がカーテンを揺らしている。


  ぱら


 風が吹き抜けていった窓の傍の、大きなやや古めいているが落ち着いたデザインの長テーブル。同じデザインの椅子が数脚並べられている。


「・・・にゃー」

「ん? ああ、ティナルか」


 その一つに腰掛け、ゆっくりと本をめくっていた男の視界の端に、銀の首輪をつけた黒猫が現れた。


「来るか?」


 そう言って膝を見せた男に、黒猫は にゃー、と鳴き声一つかけて、その膝に飛び乗る。

 その勢いのままに、テーブルの上に飛び乗り、めくれないよう頁を抑えている男の手元を見て、男を一瞥し、再び鳴いた。


 男は ふ、と笑い、


「つれないな」


 再びゆっくりと、本をめくり始めた。




   * * *




 私は、ベッドに寝っ転がってお気に入りの本をめくっていた。

 義母(はは)が彼女の趣味で買い、私も気に入っている本のうちの一つ。 一言で言えば魔方陣の本。

 非科学的?ファンタジー? そんなのどうでもいい。結局は自分が楽しむ為のもの。

 義母にとっては趣味であり資料でもある。

 義母は素直にその世界を楽しんでいるようだったけれど、私はどちらかというと"完成された"その陣の有様が興味深くて仕方が無い。

 そう言えば、義母は 成程、そういう見方もあるね、と言ってくれた。良くも悪くも理解のある人なのだ。


  ぱたん


 ・・・十二時か。


「よし寝る前に語ろう。」


 義母は明日休日のはず。

 とても寝穢いというか低血圧故に朝が超をいくつ付けても足りないくらいに苦手な義母は、頑張って午前一時には寝るようにしている。

 そうすれば寝過して昼過ぎに起きるという事は回避しやすいらしい。それでも"しやすい"なのは、彼女の体質としか。

 本を本棚に戻し、部屋を出ようとした、


「・・・え?」


 扉を開けたらなんか薄暗くて階段一段分ぐらいの段差があった。


 ちょぉ待っ、ウチの家にこんな段差無いやろ?! は、つい出てしまった!!?


「っひゃぁっ!?」


 更には何かにぶつかった! あったかいもん・・・いきもの・・・??


「にゃぁぁぁ?!」(私ぃぃぃ?!)


 ・・・え?


「・・・にゃ?」(・・・何?)


 ・・・ね、こ?


「にゃぅんっ?!」(猫っ?!)


 な、何が起こった!! え、猫化?ファンタジーじゃあるまいし!! 夢かこれは夢か?!


 思わず頬を引っ張ろうと伸ばした手に、気付く。


 猫の手・・・否、まえ、あし?


 触ったことは無いが、動物大好き好きな友人に言わしてみればとても触り心地が宜しいらしい、肉球、が。


『 猫 、 煩い 』


 猫猫猫何で猫、と脳内を猫化のことで一杯にしていると、突如、響いた声・・・、いや、意識?感情? ・・・意思が一番近いか。

 断片的に届いたそれの意味は、猫猫と煩い、というもので。

 しかもそれは、目の前の自分から発されたものだと、何故か判ってしまって。


「・・・にゃにゃにゃに・・・?」(・・・入れ替わり・・・?)


 なんや昔そんなドラマあったなぁ、小説とか漫画とか、創作物の中でも一つのジャンルとして確立してるもんなぁ。


 納得してしまってから、漸く把握。 うん落ちつけ私。

 状況判断をしよう。 さっき私は義母に語り合いと言う名の夜更かしを唆しに行った・・・、否、行こうとして、私は部屋の扉を開けた。

 そしたらあるはずもない段差があった。階段一段分、数値にすると二十センチくらいか? の。 勿論、よっぽど運動神経の良い人でなければ踏み外すだろう。

 義母と、そして身体能力的には彼女よりマシ程度だったらしい実母と違い、父に似たらしい私は運動神経は並の上。 しかし上の上ではない。

 盛大に踏み外した。 ただ、無意識に体勢を何とかしようと、後ろに倒れるだろうところを前に倒れ掛かってしまった。


 ・・・普通に後ろに倒れつつ受け身を取った方が幾分かマシだったのだろうか・・・


 それでもまあ何とか身体をひねって受け身を取ろうとした。今度は足が滑った。 それはもう、大きな音が聞こえる程に、ずるっ、と。


 ・・・家の中だったし裸足なんだけど・・・いや、裸足でも滑る時は滑るか・・・


 そんでもって滑って何とかしようとしたら滑り込みセーフみたいな体勢になって、おでこを何か ―― これは多分、この、猫 ―― にぶつけた。

 気付いたら猫になっていた。


 うん、多分きっと入れ替わりなんだろう。


『 いれかわり ・・・? 』


 そうそう、何ていうの、中身が入れ替わっちゃってるんだよ私達


『 入れ替わり 正しい 。 戻る 僕 どうする ? 』


 ・・・ええと、入れ替わっているのは事実だと肯定してくれたようだ。んでもって、どうすれば戻れるのか聞かれてるっぽい。


 んなもん知らん!


『 !! 主様 凄い 賢い 魔道師 。 僕 使い魔 。 主様 頼む !! 』


 ・・・何か聞き捨てならん言葉があった。それも複数。

 あるじさま? まどうし? つかいま? 何ソレどこのファンタジー?

 よし落ちつけ私。(二回目。)


 ・・・魔道? 魔法、があるの・・・?


『 ある 。 主様 魔法 使う 。 』


 肯定されちゃったよオイ。

 この猫は ―― 薄暗いせいで肉球のみ浮かび上がって見えたので、何色のというかどんな種類か把握できていない ―― "主様"とやらにかなり心酔しちゃってるらしい。 まぁ"使い魔"らしいから当然か。 ・・・当然なのか?


 ・・・ってか、どーやってその"主様"に助けを求めるの?


『 ?? 』


 質問の意味がわからんって顔だな。

 つまりは猫君、君私の身体で喋れるのかという事だ。


「・・・んみ?」


 私の口から洩れたのは、明らかに人間らしくない一言。


 無理ぽ。

 ・・・こうなったらぁ・・・


「ティナル?どこだ?」


 のぁぁぁぁ!?


「ああ、そこにいたのか・・・うん?」


 男の人。柔らかいテノールの声。姿はよく見えない。だって薄暗いし猫視線だし。 微かに、男の着ているとっても長いらしい服の裾らしきものが見えた。


「・・・何者だ?」


 はい、多分きっと恐らく異世界人だと思われます。


『 異世界 ・・・? 』


 あ、猫君が反応した。


「・・・喋れないのか?」

「・・・みぃー」


 あ、こら。


「・・・・・・・・・」


 何とも言えない空気が漂った後、男は溜息をつき何事か言った。


「みぁ!!」


 その言葉を残し私の姿が消える。・・・え?


「さぁ行こうかティナル」

「にゃぅっ!?」


 突然抱きあげられ初めて男の格好が見えた。

 ・・・ローブだなこれ。白を基調とした、灰蒼や若草っぽい色が所々に修飾された、何かかっこいいというか如何にも魔道師って格好だ。


「これくらいで驚くなんて珍しいな・・・」


 にしても、あの少女・・・


 ぶつぶつと抱きあげた私・・・というか猫をそのままに歩き出す男。ちょっと不安定だけれど落としはしないだろうという信頼感はある。 これは猫君の感情かね。




   * * *




 結論から言いませう(しょう)

 男は、猫君 ―― ティナルという名前らしい ―― の"主様"、魔道師シムト・アシュタロッテ=サディ=サッラート 様、でした。


 魔道師とは、何かしら魔法を極めた人の事を言うらしく。中でも主様は精霊魔法の権威であらせられる。らしい。 猫君情報。


 私の身体の猫君は地下牢で微妙な扱いを受けているらしい。 ご飯美味しい、と言っていた。さいですか。

 あの時主様・・・シムト様、は私を・・・私の身体の猫君を、地下牢へ放り込み、取り敢えずそのまま世話をさせているのだとか。

 猫君にはまず間違っても決して人間らしい言葉を喋らぬようにと厳命し(猫君はちょっぴり不満そうだった)、私はシムト様が魔法書を読むのを覗き込んでいた。


 猫らしい生活にも慣れた。どうやら一日は地球よりも少し長いような気がするのだがよくわからない。

 取り敢えず一週間くらい経ったと思う。わかったことがいくつか。


・身体が入れ替わった時に何かが作用して、猫君・・・ティナルと、"繋がった"

 つまり、意思を伝え合っていることだ。 猫君に寄ると、今までこんな人間はいなかったらしい。

 猫君が出会ってないだけとも言えるが、奇妙な現象な事ではある。


・多分、上記のおかげで文字が読めて何を言っているのかがわかる

 本を覗き込んでいると、明らかに日本語では無い。しかし目で見て何と書いてあるのかはっきりとわかる。

 喋っている言葉も同じく。 これもまた奇妙な現象であるが、重宝している。


・この世界は魔法がある

 異世界だと、疑ってもいない。 何故に冷静でいられるかというと、主に義母の影響というかせいと思われる。

 教育大を卒業後三年間の講師生活を経て教師になるかと思えば何故か念願の司書になった義母。いや、念願なので不思議ではないと言えばその通りなのだが、せっかく教師(しかも母校で)になれたのに彼女は敢えて司書の道を選んだのだ。 そんな彼女の読書の趣味は主にファンタジー。自分でも創作するくらいには大好きで、私もよく読ませてもらったりした。


 ドリームだの二次創作だのトリップだのSFだのベーコンレタスだの萌えだのツンデレだのポニテだの、夜な夜な(というか夜に限らず)語り尽くしたものである。


 そんな義母のおかげでこういう時どんな態度を取るべきか、という行動パターンは幾つも読んだり考えたりしたことがある。主に読んだことがあるものに沿って行動しているのは、多分その方が印象的に覚えているから。

 勿論全てをトレースしているわけじゃない。 パニクるだけで流されるのなんて御免。自分を保とうとするのに、どうすればいいか参考にしている程度。


 さて、魔法についてだけども、猫君情報だけではどうにもならないので、シムト様にくっついて何とか情報を得られないものかと頑張ってみた。ら、彼は日常的に魔法書をよく読んでいる事に気付いた。

 それを横から眺め、一生懸命に知識を吸収。 途中から何だか入門書っぽいものを開かれているような気がするんだけど・・・バレてんのかな・・・


  ぱら


「にぃ」

「ん?」


 たし、と頁に手を置く。


「・・・召喚・・・?」


 召喚魔法に興味があるのか?


「にゃぉ」

「・・・わかったからそんなつぶらな瞳を向けるな・・・」


 取り敢えずシムト様は、猫馬鹿だ。 これも生活していてわかったことの一つ。

 そういえばティナル君、黒猫だった。 鏡で見たら、それはもう美しい毛並みの。瞳も黒。銀の首輪をしている。素材は・・・多分革・・・?


「召喚魔法なぁ・・・」


 ううむ、と悩んでいるシムト様。 テーブルに乗っているからいつもは全然見えない顔が頑張れば見える。


 美形なのだ。イケメンなのだ。これが、また。 そんな整った顔立ちに、青みを帯びた濃い灰色の長髪、髪色と殆ど似た、けれどもっと黒に近い色の瞳。ううむ、紗紀さんの好みに近いかなぁ。 あ、紗紀さんっていうのは義母のこと。


「にゃーにゃー」

「ああ催促しないでくれ」


 無理ぃ。


 元に戻る方法は知りたい。同じくらい、帰る方法も知りたい。

 実母は父とともに事故で死んだそうだ。私が物心つく前。 実母の親友だった紗紀さんが引き取って育ててくれた。ちなみに彼女は今も昔も結婚経験皆無な独身だ。 私を育てる過程で、彼女の両親の手がかなり必要だったのは言うまでもない。

 そんな紗紀さんはどこか友人みたいな、でも唯一の家族。 大切な人。

 ・・・心配、させたくない。


「・・・これで良いかな」

「にゃっ」


 早く早く、と尻尾を振る。気分は犬。・・・猫だけどね。


 ・・・とまぁ、何だかんだで猫な生活を満喫している私。 地道に方法を探して頑張ってます。




   * * *




 そして、その方法を見付けるのは、約三カ月後のこと。



はいオチてません。


元はと言えば連載用に考えたものです。時間とその他諸々に余裕が無かったので導入部のみを短編として出してみました。 即ちこれ、起承転結の"起"。しかも三画目くらいまで。←


余裕が出来たら連載したいですね、はい。いえ、しますきっと。

しかし、短編とはいえ主な登場人物の名前が殆ど出ているのに、主人公の名前が出ていないというのはいかがなものか...書いた身で言う事ではありませんが。



長編連載開始 →http://ncode.syosetu.com/n9611r/  ('11/3/27)

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