「お前を愛するつもりはない」と無人島で王子がほざくので、放置することにしましたわ
「……勘違いするなよ、ローズ。いくら二人きりになったからといって、私がお前を愛するつもりはない!」
豪華客船が沈没し、漂着した未知の無人島。
濡れた服のまま砂浜に腰掛け、第一王子ギルバートは「当然だ」と言わんばかりにふんぞり返った。
周囲は薄暗い森の中、波の音が虚しく響く……
「……殿下。今、それを言いますの?」
私は心底呆れ果てながら、ドレスの裾を豪快に破り捨て、動きやすいように結び直した。
我が公爵家は代々、領地の魔獣退治と野営を務めとしてきた家系だ。
……むしろ問題なのは、私ではなく殿下のほうではなくて?
状況を理解していないバカは放っておいて、まずは生存のための優先事項……食料の確保だ。
私は落ちていた丈夫な木の枝を拾うと、自前のナイフで先端を鋭利に削り上げ、素早く槍を作り上げた。
そのまま浅瀬へ向かい、波間に視線を研ぎ澄ます。
バシャアンッ!
「よし、大きな魚が三匹獲れましたわ」
圧倒的な動体視力で仕留めた大きな魚を掲げると、ギルバートが目を見張った。
「な、なんだその野蛮な動きは! ぐぅぅ〜……」
殿下のお腹が情けない音を鳴らす……
「食料なら私だって獲れる!」と息巻いて海へ向かったギルバートだったが、足元をカニに挟まれて「ひいぃっ! 寄るな悪魔め!」と泣き叫びながら逃げ帰ってきた……収穫はもちろんゼロである。
さて、次は火起こしだ。
殿下が「ふん、火起こしなど基本中の基本! 私に任せろ!」と胸を張った。
しかし、乾いた木の枝を両手で力任せにガシガシと擦り合わせるばかりで一向に火が点かず、手にマメを作って「痛いっ! もう無理だぁ!」と泣き言を漏らしている。
「はぁ……代わりなさいな」
私は弓引き式の火起こし道具を、その場で即席で作り上げ高速で軸木を回転させた。
数十秒で煙が立ち上り、乾いた苔に火種を移して息を吹き込むと、あっという間に勢いよく火が起きた。
魚を串に刺し、香ばしい匂いが漂い始める。
「くっ……勘違いするなよ! 魚が獲れて火が起こせたからといって、私がお前を愛するつもりはない!」
空腹と情けなさで顔を真っ赤にした殿下が、またしても虚勢を張る。
私は深いため息をつきながら、香ばしく焼き上がった魚を一匹、ギルバートに差し出した。
「はいはい。餓死されては寝覚めが悪いので、お食べなさいな」
「う、うむ……食ってやらないこともない……う、うまいっ……!」
殿下が涙目で魚を貪り食っていた、その時だった!
ガサガサッ!!
森の奥から、体長三メートルを超える巨大な魔獣『魔岩ヒグマ』が雄叫びを上げて飛び出してきた!
「ひやぁぁぁぁっ!? で、でたぁぁっ……ローズ、私を守れぇっ!」
腰を抜かしたギルバートは、あろうことか私を盾にするように後ろへ隠れ、ガタガタと震え出した。
殿下としての威厳など微塵もない……
「まったく……静かにしなさいませ!」
私は落ちていた大きな岩を持ち上げると、全身の筋力をしならせ、投砲器のようなフォームで振りかぶった。
ドゴォォォン!!!
音を立てて放たれた岩が、魔獣の眉間にクリーンヒット。
巨体は「グガァッ!?」と悲鳴を上げ、そのまま豪快に倒れ伏した。
静まり返る中、ギルバートはガクガクと膝を震わせながら、青ざめた顔で私を見上げて言った。
「ひ、ヒィィ……! た、助かった…… だ、だがなローズ!どれほど腕っぷしが強かろうと、私がお前を愛するつもりは――」
「あっ、そうですか」
私は二匹目の焼き魚を手に取ると、殿下の目の前でペロリと平らげた。
そして、残った最後の三匹目の魚を、自分の分の明日の朝食用として大きな葉っぱに包み、しっかりと仕舞い込んだ。
「あ……あの、ローズ? 私の分の朝ご飯は……?」
「ございませんわ。愛するつもりもない女に食料を恵んでもらうなど、誇り高い王子殿下の自尊心が許さないでしょう?」
「えっ………!?」
「夜は冷えますから、せいぜい火の番でもなさってくださいね。あ、魔獣が来たらご自分で倒してくださいまし。私、疲れたので寝ますわ」
私はふかふかの乾いた葉っぱのベッドに横になり、背を向けた。
焚火の明かりの向こうで、真っ暗な森の中から聞こえる虫や、風の音に怯える殿下の悲鳴が響く。
「ヒッ……! 闇から何か視線を感じる……! やだ、怖い! 寒いっ! ……お腹すいたぁぁっ!」
がたがたと震え、半泣きになりながら、ギルバートはついに私の足元にへばりついて叫んだ。
「ろ、ローズ! 違うんだっ……愛する! お前をものすごく愛する……から……! だからお願いだから魚を分けてぇぇっ!!」
「お断りですわ」
………こうして、無人島での立場は完全に逆転。
かつて私を必要としなかった殿下は、私なしでは一日も生きられない男になったのでした。
「ごめんなさいいぃぃっ! 私が悪かった! 私が愚かで、浅はかな大バカ者でしたぁぁっ!『愛するつもりはない』とか調子に乗って、本当にすみませんでした〜!!」




