↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強未踏破―人類最強のおっさんは、まだ何も知らない―  作者: レイヴ
第一章 未踏領域

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/19

第十三話 遺跡

第十三話 遺跡


 川を渡ってから、しばらく経った。


 五人は樹海の中を進んでいた。


 道はない。


 ただ。


 少しずつ地面が高くなっている。


 ローヴァンは何度か後ろを振り返った。


 先ほどまでいた川は、もう見えない。


 巨大な木々。


 絡み合う根。


 人の背丈を超える草。


 どこを見ても同じ景色が続いていた。


 タクミが大剣を担ぎ直す。


「ずっと登ってねぇか?」


「ああ」


「山なのか?」


「分からん」


「分からんのかよ」


「頂上が見えん」


 ローヴァンは前を向いた。


「山なら、いずれ分かる」


「適当だな!」


 リサが苦笑する。


「でも、本当にちょっとずつ登ってるよね」


 ステファンが後ろを見る。


「川が低くなっている」


「ああ」


 ローヴァンは短く答えた。


 その時。


 キャサリンが顔を上げた。


「雨」


 タクミも空を見る。


「降ってねぇぞ」


「匂いがする」


 ローヴァンが立ち止まる。


 風が吹いた。


 湿っている。


 冷たい。


 遠くで。


 ゴロゴロ……


 低い音が響いた。


「来るな」


 ローヴァンが呟く。


「何が?」


「雨だ」


 ポツ。


 リサの頬へ水滴が落ちた。


「あ」


 ポツ。


 ポツ。


 次の瞬間。


 ドシャアアアアアアッ!!


「うわぁっ!」


 景色が消えた。


 雨。


 雨。


 雨。


 空から川が落ちてきたようだった。


「何だこれ!」


 タクミが叫ぶ。


 声すら雨音に掻き消される。


 数秒で全身が濡れた。


 地面を水が走る。


 足首まで一気に水が溜まる。


 リサが頭を押さえた。


「痛い痛い痛い!」


 大粒の雨が肌を叩く。


 ステファンが大盾を頭上へ掲げた。


「入れ!」


「助かる!」


 リサとキャサリンが盾の下へ飛び込む。


 タクミも入ろうとする。


「お前は無理だ!」


「何でだよ!」


「狭い!」


「俺も入れろ!」


 ローヴァンだけは周囲を見ていた。


 木の幹。


 地面。


 流れ始めた水。


 そして。


 先ほどの川があった方向を見る。


「これか」


 キャサリンが聞き返す。


「何?」


「川だ」


「上流でこれが降れば増える」


 タクミが顔をしかめる。


「あれ全部、この雨かよ」


「だろうな」


 ローヴァンは前を見る。


「移動する」


「この雨で!?」


「ここは低い」


 足元。


 水はもう脛まで来ていた。


 タクミの顔から笑いが消える。


「……マジか」


「上へ行く」


 五人は歩き始めた。


 雨は弱まらない。


 むしろ強くなっていく。


 一歩。


 また一歩。


 泥へ足が沈む。


 根を跨ぐ。


 水が斜面を流れ落ちてくる。


 前が見えない。


「ローヴァン!」


 タクミが叫ぶ。


「どこまで行くんだ!」


「雨を避けられる場所までだ!」


「あるのかよ!」


「探してる!」


「ないのかよ!」


 その時だった。


 ローヴァンの足が止まった。


「……待て」


 全員が止まる。


「どうした?」


 ローヴァンは右を見ていた。


 木々の向こう。


 雨で霞んでいる。


 何かがある。


 真っ直ぐな線。


 自然にはない形。


「……あれだ」


 ローヴァンが歩き出す。


 五人は後を追った。


 巨大な葉を掻き分ける。


 蔓を跨ぐ。


 そして。


 木々が途切れた。


「……」


 誰も声を出さなかった。


 開けた場所だった。


 その中央。


 石の柱が立っている。


 一本。


 二本。


 三本。


 何本も。


 ほとんどが途中から折れていた。


 苔に覆われている。


 蔓が絡み付いている。


 さらに奥。


 巨大な石造りの建物。


 半分は崩れていた。


 だが。


 明らかだった。


 自然にできたものではない。


 リサが雨に打たれながら呟く。


「……建物?」


 ステファンが目を細める。


「そう見える」


 タクミが近くの石柱へ触れた。


「これ……」


「誰かが作ったんだよな?」


「ああ」


 ローヴァンが答える。


 キャサリンが周囲を見る。


「でも」


 一拍。


「ここ、人類未踏なんでしょ?」


 誰も答えなかった。


 雨だけが降っている。


 ローヴァンは石柱へ近付いた。


 苔を手で払う。


 下から模様が現れた。


 文字ではない。


 何かの絵。


 円。


 線。


 人のような形。


「知らん」


 ローヴァンの口元が緩む。


 タクミが横を見る。


「……嬉しそうだな」


「ああ」


「誰も来ていない場所に」


 石柱を見る。


「誰かがいた」


 ローヴァンは建物へ向かった。


「面白い」


「雨宿りが先!」


 リサが叫んだ。


「寒い!」


「そうだな」


「忘れてたでしょ!」


「少し」


「少しじゃない!」


 五人は建物へ駆け込んだ。


 石造りの広間。


 屋根の半分は残っている。


 雨はほとんど入ってこない。


 タクミがその場へ座り込んだ。


「助かった……」


 リサは濡れた髪を絞る。


「最悪……」


 キャサリンも白衣の裾を絞った。


「全部濡れた」


 ステファンは盾を壁へ立て掛ける。


 ローヴァンだけが座らない。


 壁を見ていた。


 模様が刻まれている。


 何かを持つ人。


 巨大な木。


 獣。


 そして。


 空に浮かぶ丸いもの。


 ローヴァンは指でなぞる。


「……何だ」


 タクミが呆れる。


「休めよ」


「見たことがない」


「そりゃ遺跡だからな」


「だから見る」


「子供かよ」


 返事はない。


 完全に夢中だった。


 リサが小さく笑う。


「放っとこう」


「どうせ聞かないよ」


 キャサリンも壁へ目を向ける。


「でも、不思議だね」


「何が?」


「ここまで来る途中」


「人が暮らしてたような跡なんて、一つもなかった」


 ステファンが頷く。


「道もなかった」


「そう」


 キャサリンは崩れた柱を見る。


「なのに、これだけ大きな建物がある」


 タクミも笑うのをやめた。


 広間を見渡す。


「……昔は誰か住んでたってことか」


「だろうな」


 ローヴァンが答えた。


「いつ?」


「知らん」


「誰が?」


「知らん」


「何でいなくなった?」


「知らん」


 タクミが頭を抱える。


「何も分かんねぇ!」


「だから面白い」


 ローヴァンは壁から目を離さなかった。


 外では。


 ドシャアアアアアアッ!!


 雨が降り続けている。


 雷が鳴る。


 ゴロゴロ……


 五人はしばらく遺跡の中で雨が弱まるのを待った。


 十分。


 二十分。


 雨は変わらない。


「止まねぇな」


 タクミが寝転がる。


「寝るか」


「寝るな」


「何でだよ」


「何がいるか分からん」


「雨宿りくらいさせろよ……」


 その時だった。


 キャサリンが顔を上げた。


「……待って」


 ローヴァンも振り返る。


「どうした」


「音」


 全員が黙る。


 雨。


 雷。


 風。


 それ以外。


 ビチッ。


 タクミが眉をひそめる。


「何だ?」


 ビチッ。


 ビチビチッ。


 リサが入口を見る。


「……虫?」


 ビチビチビチッ。


 音が大きくなる。


 近付いている。


 ビチビチビチビチビチビチ――!!


 タクミが立ち上がった。


「おい」


「何か飛んで来てねぇか?」


 全員が遺跡の入口を見る。


 豪雨。


 何も見えない。


 だが。


 その向こう。


 黒い影が見えた。


 小さい。


 いや。


 違う。


 遠いだけだ。


 どんどん大きくなる。


 リサの顔が引きつる。


「……嘘でしょ」


 ローヴァンが目を細める。


 雨を切り裂き。


 巨大な何かが飛んでくる。


 ビチビチビチビチビチビチッ!!


 羽音。


 黒い甲殻。


 頭から伸びた巨大な角。


 巨大なカブトムシだった。


 昨夜見たものと同じ。


 人の倍ほどある巨体。


 タクミが叫ぶ。


「いやいやいや!」


「その大きさで飛ぶのは反則だろ!」


 リサが後ずさる。


「こっち来てる!」


 ローヴァンは静かに呟いた。


「飛ぶのか」


「そこに驚くな!」


 次の瞬間。


 カブトムシが羽を畳んだ。


 頭を下げる。


 巨大な角が。


 真っ直ぐ遺跡へ向いた。


「避けろ!」


 ドゴォォォォォン――!!


 石が弾け飛んだ。


 遺跡全体が揺れる。


「うわぁっ!」


 タクミが転がる。


 土煙。


 砕けた石。


 雨。


 その中から。


 巨大なカブトムシがゆっくりと姿を現した。


 黒い甲殻には。


 傷一つない。


 ローヴァンは剣を抜く。


「硬そうだな」


 タクミも大剣を構えた。


「俺がやる」


「待て」


「何だよ」


 ローヴァンはカブトムシを見ていた。


「俺が試す」


 一歩。


 踏み込む。


 カブトムシが角を下げた。


 地面を蹴る。


 巨体が突っ込んでくる。


 ローヴァンも走った。


 すれ違う。


 一閃。


 キィィィン――!!


 甲高い音が遺跡へ響いた。


 ローヴァンの剣が。


 弾かれた。


「……」


 ローヴァンが足を止める。


 カブトムシも振り返った。


 黒い甲殻。


 そこには。


 薄い傷が一本。


 それだけだった。


 タクミの笑顔が消える。


「……マジかよ」


 蜘蛛とは違う。


 ローヴァンは剣を握り直した。


 そして。


 わずかに笑った。


「面白い」


 巨大なカブトムシが。


 再び角を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。