第二話 生後1ヶ月、運命のタップ
この度は数ある作品の中からこの作品を選んでいただきありがとうございます。
神々しいまでの兄の溺愛に包まれて、私がこの世界に生を受けてから早くも1ヶ月が経った。
私の日常は、一言で言えば「完全なるお姫様(寝たきり)」だ。
少しでも私が動こうとすれば、どこからともなくすっ飛んできたお兄様(6歳にしてすでに腹黒ストーカーの片鱗がある)が、
「ああ、ルミィ! 動いては駄目だ、心臓に障る!」
と、至れり尽くせりで私をクッションの海に埋もれさせる。
愛されているのは分かる。ものすごく分かるのだけれど。
(……いや、私このままだとマジで一生スプーンすら持てないのでは!?)
中身はアラサー女子の私、フランシスカ。いくら病弱設定とはいえ、指先一つ動かすのにも命がけな現状に、心の中の危機感はマックスだった。お兄様が完璧にお世話してくれるから餓死はしないけど、私の筋肉は完全に冬眠状態だ。
何か、何か現状を打破する手立てはないのか。
ベッドの上で天井を見つめながら、私は前世のネット小説の知識を総動員する。
(異世界転生といえば……やっぱり、あれよね。あるんでしょ? 神様、私にもそういうやつ、くれているんでしょ……!?)
ダメ元で、心の中で強く念じてみた。
『――ステータス、オープン!』
ピコーン!
私の視界に、淡いサファイアブルーの光を放つ半透明のプレートが出現した。そこに並んでいた文字は、およそ生まれたばかりの赤ん坊のものとは思えない、奇妙極まりない内容だった。
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【ステータス】
名前: フランシスカ・シャルロット・ルミナス・ド・アイゼンベルク
年齢: 0歳(生後1ヶ月)
種族: 人間(転生者)
体力(HP): 3 / 100 (※低下中:ベッドから起き上がると即死亡レベル)
魔力(MP): 999,999 / 999,999 (※人類最高峰だが、出力用の筋肉がないため1も使えない)
筋力: 0.1 (※スプーンの重さ=1)
持久力: 0.05 (※生存可能時間:お兄様の極上ケアがない場合、約3時間)
【特性・体質】
・神の嫉妬(微量): 武の神ゼクスの雑な八つ当たりの余波。生存限界レベルの超・病弱体質。スプーン一杯の重みでも心臓に負担がかかる深刻な筋肉量不足。
【加護】
・流麗なる白鳥(美の女神アミリア授与): どんなに激しい運動や泥泥のトレーニングをしても、汗は真珠のように輝き、呼吸は乱れず、常に優雅で美しい所作とみなされる。
・声帯の美調(美の女神アミリア授与): どんな声をあげても(たとえ筋トレの限界で漏れた濁声であっても)、周囲の人間には「鈴を転がすような美声」や「愛らしいハミング」に脳内変換されて聞こえる。
・美の食事効率(美の女神アミリア授与): 摂取した栄養が100%完璧なバランスで骨肉に変換される。無駄な脂肪がつかず、理想的な筋肉の形成を爆発的にサポートする。
【契約精霊】
・最高位精霊:ピピ【 未召喚 】
(※現在、魔力枯渇により弱体化中。召喚するには下のボタンをタップしてください)
[ 召喚する ]
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(ちょっと待って、ステータスの数字が色々とバグってるーー!?)
体力『3』って何!? 前世のゲームなら即瀕死の警告音が大音量で鳴り響くやつじゃない!
しかも持久力の項目をよく見たら、『お兄様の極上ケアがない場合、約3時間』って書いてあるんだけど……。
(いや、お兄様がいないと生きてけないじゃん私!!!)
実質、お兄様という名の超高性能な生命維持装置に24時間体制で守られてるってこと!?
確かにベッドの上にいればお兄様の神業ケアのおかげで安全だけど、これじゃ一生お兄様の手のひらから出られない。しかも魔力だけ『99万』ってカンスト寸前なのに、出力を支える筋力が『0.1』だから、魔法を発動した瞬間の反動で私の体の方が消し飛ぶ未来しか見えないわ。
(というかちょっと待って、加護のクセが強すぎる……!)
病弱体質という絶望的なデバフに対して、女神アミリア様から贈られたチート加護の数々。一見すると
「ただの美少女化バフ」
に見えるけれど、よく読むと
「どれだけ泥臭く限界まで筋肉を追い込んでも、周りからは超絶美少女の優雅な仕草に見える」
という、マッスルトレーニングに特化しすぎた恐ろしい実用性秘めている。
しかも一番下には、運命の[ 召喚する ]ボタンがこれ見よがしに明滅していた。
動かない右腕に渾身の力を込める。ぬううう、と脳内で唸りながら、奇跡的に持ち上がった人差し指を、目の前の光るボタンめがけて
――ぽちっと押し込んだ。
その瞬間、部屋の中にまばゆい光が溢れた。
「ふぅ……! やっと出られたぞ、この魔力スッカスカの虚無空間から!」
光の中から現れたのは、なんと私の手のひらサイズほどの、小さくて愛らしい妖精だった。
眩いハチミツ金髪に、彫刻のように整ったお人形さんのような美顔。背中には薄い翅がパタパタと羽ばたいている。
(わあ、可愛い……! コレが私の契約精霊――)
感動したのも束の間。その可愛い妖精は、空中で腕組みをすると、もの凄くキレのある動き(フィジカル)で私を見下ろし、とんでもない極太ボイス(脳内念話)で言い放った。
「おいお前! なんだその筋肉が絶滅しかけたもやしボディは! このままだと自重で心臓が止まるぞ! 今すぐインナーマッスルを鍛えろ!!」
「あうっ!?(ええっ!?)」
可愛い見た目に反して、中身がゴリゴリの体育会系だった。これが最高位の精霊ピピとの、衝撃の出会いである。
「いいか、まずは寝たままでもできる『ドローイン』だ! お腹を凹ませて体幹を――」
「――そこまでだ、その生意気な羽虫」
ピピが熱血指導を始めようとしたその時、部屋の扉が静かに、しかし凄まじい威圧感とともに開いた。
戻ってきたのは、お盆を持ったお兄様――レオだ。
お兄様の紫色の瞳が、私のベッドの 上で偉そうに滞空しているピピを捉えた瞬間、すうっと温度を失って凍りついた。
「僕のルミィの聖域に勝手に侵入し、あろうことか『もやし』などと不敬な言葉を吐くとは……。どこのどいつですか、その薄汚い虫けらは」
「あ? なんだこの生意気なガキは。俺の名前はピピ、この子の命を救う最高のコーチなんだぞ!」
お兄様の貼り付けたような完璧な笑顔の裏から、ドス黒いオーラが立ち上る。
対するピピも、手のひらサイズながらも一歩も引かずにマッスルなメンタルで睨み返している。
(ひえええ……! 生後1ヶ月の赤ちゃんのベッドの上で、凄まじい冷戦が始まっちゃったんだけどー!?)
こうして、私のマッスル令嬢への道と、お兄様のイライラ全開な日々が同時に幕を開けたのだった。
ご視聴いただきありがとうございました。本作の原作にあたる作品も、ぜひあわせてお読みいただけますと幸いです。
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