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来た、見た、勝った

 その大事件の報は隠蔽され世に流れることはなかった。


 場所は某国首都。

 ロードリアス財団本部ビル。

 ある日、突然やってきたその男を見て初めは誰もが冗談だと思った。

 さもなくば何かのイベントの一環なのであろうと……。


 男は遥か遠くの大国の随分昔の軍服で現れたからだ。

 軍刀を刷いてマントを靡かせたカーキ色の軍服の男。


「ここの首領に会いたい」


 男は受付の職人にそう言った。

 受付の女性も流石のプロだ。顔色を変えずに「普通ではない」相手に冷静に対応する。

 ただ、そうしながらも彼女は警備室に繋がるボタンをカウンターの下で押していた。


「失礼ですが、お約束は……」


「ないな。ないと会えないのか?」


 軍装の男がそう言うと受付は肯く。


「はい。難しいかと思われます」


「ならば約束を取り付けてくれ。待つとしよう……時間ならある」


 問い合わせますので少しお待ちを、と言われロビーの長椅子に腰を下ろし足を組む軍服の男。

 間もなくロビーに二人の黒服がやってくる。

 二人とも体格がよく研ぎ澄まされた雰囲気を身に纏っている。

 警備部の超人(オーバード)だ。


 だが、二人は軍服の男に近付く前に足を止めて愕然とする。

 そしてそこから前に進むことなく通信機を手に取った。


「……駄目です。自分たちでは対処できません。S級以上の方を派遣願います。複数で……」


 ……………。


 そうして十五分の後。

 ロビーに降り立つスーツ姿の偉丈夫……財団総帥ギャラガー・ロードリアス。

 彼はカツンカツンと靴音を鳴らして真っ直ぐに座っている軍服の男の所へ行く。


 距離が狭まるほどに感じる。


 ……戦神がいる。いや鬼神か?

 この世に在るべきではないものがそこにいる。


「お待たせしたな。私がここの長、ギャラガーだ」


「会えてうれしく思う、ギャラガー」


 手の中で弄んでいた軍帽をそのままにゼクウは立ち上がる。


「俺の名はゼクウ。東から来た」


 名乗って軽く礼をしてから再び帽子を頭に置く。

 僅かに目を細めるギャラガー。


「私に用があるそうだな」


「ああ、大した用事ではない……死合いを所望する」


 殺し合いをしよう、と異国の昔の軍服に身を包んだ男が要求する。

 本当に大した用事ではなさそうな口ぶりでだ。


「最強を掲げているのだ。俺のような者が現れるのは想定内だろう?」


 口の端を僅かに上げるゼクウ。

 目を閉じたギャラガーが深く長い息を吐き出す。


「それ程の高みに至っても尚、武の業からは逃れられんか」


「武など効率の良い暴力の事であろうが。初めからそんなに高尚なものでもあるまいよ」


 歩き出すギャラガーの後ろに軽く笑ってから追従するゼクウであった。


 同時にロビーに姿を見せたゼノヴィクタ・ロードリアスとガレオン・ロードリアス……そしてその他に二人、一族の超人(オーバード)

 ゼノヴィクタは若い姿でガレオンは大弓を手にしている。

 他の二人も臨戦態勢で武装している。


「お……正解だな。それでいい」


 姿を見せた新手に表情のないゼクウ。

 財団は使える上位の超人(オーバード)を全てぶつけてくる気らしい。

 一対一だなどと綺麗ごとは言わずにただ勝つために手を尽くす……その姿勢は非常に自分好みだ。


(わざわざ出向いた甲斐があったか?)


 鋭く細められたゼクウの目が冷たい輝きを放つ。


 ………………。


 この日……。


 突然現れた正体不明の魔人ゼクウによってロードリアスの一族は複数の死者を出し本部は壊滅的な打撃を受けた。


 だがその情報は秘匿され国外どころか都市の外にすら出ていない。


 ───────────────────────────────────


 そして現在ネフティス・ロイヤルホテルの一室。


緑の聖域(グリューネ・オアーゼ)』の主催アルゴレア教授は数十年来の盟友を迎えていた。


「達者で戻ってくれてうれしいよ、友よ」


「俺としては自分が達者でなくなるような相手を期待していたんだがな。中々希望の通りにはいかんものよ」


 マドロスパイプをゆったりと吹かしながらゼクウの話を聞いている教授。

 どこどこの国のどこどこの自然公園にいって景色が綺麗だった、という話と同列に語られる『財団本部に一人で乗り込んで総帥含め主要な一族を血祭りにあげてきた』という凄惨かつ驚愕すべき土産話

 だが教授の感情は特に動いた様子もない。


「相変わらず苦酸っぱいな……このコーヒーというヤツは。どうにも好かん。緑茶をくれ」


 カップを卓上へ戻して軽く首を横に振ったゼクウ。


「そうだったな。気が利かんで申し訳ない」


 戸棚を開いて急須と茶葉入れを出してくる教授。


「後、君が戻ったら食べるだろうと思ってキナコのモチも用意してある」


「素晴らしい……!」


 手を叩いたゼクウ。

 この男は甘党なのだ。それも自分の郷里のものである和菓子を好んで食べる。


「昔はこんなものは女子供の食べ物だと思っていたのだがな。ある時に薦められて口にしてからはすっかり夢中だ。こんな素晴らしいものを食わず嫌いしていたとは……人生を随分と無駄に過ごしてしまったものだ」


 ははは、と黄粉餅の小皿を前に上機嫌に笑うゼクウであった。


 ─────────────────────────────────────


 今日は約束していたエトワールとのデートの日だ。


 本日のプランを練るためにユカリはネットで必死に若い娘さんお薦めスポットを検索しまくった。


「従兄弟がね~……ペンギンが好きだっつーんですよね」


 一緒にやってきた水族館。

 ユカリの腕を丸で自分のものだと言わんばかりに抱えて歩いているエトワール。


 二人の目の前ではプールに面したペンギンコーナーがある。

 佇んだり泳いだり思い思いに過ごしているペンギンたち。

 円らな瞳が愛らしい。何を考えているのかはイマイチよくわからない。


「そういえば、前にぶっ飛ばした時にオチる直前にそんな事言ってたかな」


 管制塔の上で倒したガレオン・ロードリアスを思い出しながら言うユカリ。

 恐るべき射手であった銀髪の美形。


「うひひ、言ってました? アイツまーまー強かったでしょ。腐っても財団総帥の息子ですからねー」


「腐ってないし滅茶苦茶強かったよ……。距離を詰めるまでに何度泣きそうになったやら」


 激戦の記憶が蘇ってきてトホホ顔で嘆息しているユカリ。

 まさかその相手がほんの数日前に父親や他の親族たちと一緒に血の海に沈められて生と死の境を彷徨っているとは夢にも思わないユカリだ。


 ……そして、その親族たちを襲った惨劇を知りながらエトワールが自分とのデートに興じているという事も知るはずもない。

 知りながら、というか想像していながらというのが正しいか。

 現時点ではまだ顛末までは聞かされていない。

 ただ……あの男(ゼクウ)が行った。

 それは即ち……()()()()()だ。


 結果は聞くまでもない。


 そしてそう仕向けたのは自分だ。


(ゴメンねぇ~伯父ピー、ババ様、ガレ兄も。アンタらの事は別に好きでも嫌いでも何でもないんだけどさ~……。もーちょいで全部終わるんで、それまで邪魔をされたくねーんですよね~)


 自分がこの一件に関わっているとの報が本部に入れば間違いなく事態の収拾に一族が出向いてくる事だろう。

 高確率で伯父が自ら乗り込んでくるはずだ。


 不測の事態(イレギュラー)は御免こうむりたい。

 例え一族が乗り込んできたとしてもゼクウであれば物の数ではないだろう。


 しかしだ……。


ゼクウ(アイツ)はイマイチ信用できねー……。アイツほんとにこの世界終わらす気あんのかな……あたしにはどーにもそうは思えねーんですよね)


 ゼクウ……あの男には感じられないのだ。

 自分やスワンやウィングにあるような……内側に抱えた巨大な虚無(やみ)が。

 何もかもを終焉に導いてやるのに足るような絶望が。


 ただ圧倒的に強い。

 計画の成否を左右しているのはあの男だ。

 あの男が本気であれば計画は成功するだろうしその気がなければ失敗するだろう。

 何しろ自分含めた残り四人の超人(オーバード)が全員で襲い掛かろうがあの男を倒すのは不可能だろうから。

 だからこそ仮に土壇場でゼクウがやる気をなくしても計画を完遂できるように自分が準備を進めなければならない。


(ま、あたしは終わるのが世界でもあたしでもどっちでもいーんですけどね)


 ただ、もしも自分が先に終わるのだとしたら。

 この世から消えるのだとしたら。


 傍らの女性を見上げて笑顔を作る自分。

 それを見てやはりユカリも微笑んでくれた。


 やはり死ぬなら彼女(ユカリ)の手に掛かって逝くのがいい……そう思うエトワールであった。


 ……………。


 予約してあったお洒落なレストランで少し早めの夕食をとる。

 あまり遅くに帰す訳にはいかないというユカリなりの配慮の結果だ。

 綺麗な夜景は見れないが、夕焼けを見ながら取る食事というのも中々に乙なものである。


「おねーさんは、火倶楽(ここ)が好きですか?」


 不意に食事の手を止めてそんな事を尋ねてきたエトワール。


「うん。大好き。好きだからここで暮らしてるんだしね」


 笑顔で答えるユカリ。

 まあそれはそうだろう、とエトワールは思った。ユカリはこの世界のどこでだって好きに暮らしていける身だ。

 それをわざわざ選んでここにいるのは好きだからという事に他なるまい。


 ユカリとしては本当は皇国で暮らしたいのだが、皇国という国は他所から移住するには色々と窮屈な部分もある国なのだ。

 なので皇国ではないが皇国の匂いが強いと言える火倶楽へやってきた。


「あんまり遅くならない内に送るからね」


「え? どーしてです?」


 不思議そうに聞き返してくるエトワールに思わずユカリは動きを止めた。


()()()のデートってこっからが本番じゃないんです? あたし、今日はそのつもりで来てるんですけどぉ」


 上目遣いで少し身をよじり、しなを作ってブロンドの少女は言う。

 そんな彼女の様子に余裕のある微笑を見せるユカリ。


(おッッッッっしゃぁぁ~ッッッッッ!!!! キターッッッ!!! 来た!! 見た!! 勝ったッッ!!!! これってアレよね!!!?? そういうコトよね!!!?? もうこれこのまま行っちゃっていいって事よね!!!!!!???)


 ……しかしその頭の中では火山が噴火したり大陸が海の中に沈んだりして大変な事になっている。


 よし行こう。

 すぐ行こう。

 今すぐこの子をお姫様抱っこしてホテルの部屋に駆け込もう。

 ああでもまだ部屋借りてねーや。

 だっていきなりここまで上手くいくとか思ってなかったし。


 0,1秒にも満たない時間の中で高速でそんな思考を繰り広げるユカリ。


「……おねーさん?」


 気が付けば無意識のうちにユカリの左手がテーブルの上でエトワールの右手首を掴んでいる。

 ……結構ガッシリと。


私の左手(これ)がとんだご無礼を致しましてッッッ……!!!!!」


 右手でフォークを掴み、それを渾身の力で左手の甲に突き立てる。


「ぎゃああああ!!!! 何してやがんですか!!!!!????」


 突然手の甲をフォークで刺し貫いて激しく出血しているユカリを見て悲鳴を上げるエトワールであった。

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