表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/93

豪傑たちの宴

 火倶楽市中心部、繁華街の一角にある巨大な東洋風の店舗。

 赤を基調とした建物には要所に東洋の龍の意匠があしらわれている。

『紅龍飯店』それがこの店の名だ

 最大で二百数十人を収容できるこのレストランの入り口には「本日は貸し切りになっております」という札が掛けられていた。


 ……………。


 煌びやかな広いフロアにまばらな人影。

 全員が一つの卓を囲んでいるわけではなく離れてポツンと座っている者もいる。

 そこに入ってきたのはスタジャンのポケットに両手を突っ込んだ猫背の男。

 薄く短めの口髭で擦れた雰囲気の気だるげな中年だ。


「うぉ~い、来たぜぇ。今日は食うぞ~俺は~。腹減らして来たからよ~」


 三好(ミヨシ)ショウセイ……かつては強大な軍事国家のヴェーダー帝国の精鋭超人(オーバード)集団『黒騎士団(オルドザイン)』の総長を務めていた凄腕の剣客。

 ……現在は定職に就いていない。


「珍しいじゃねえかよサボり魔。今日はどういう風の吹き回しだ?」


 入ってきたショウセイにそう声を掛けたのは座っている椅子の前足を浮かせて足を組んでいた行儀の悪い巨漢。

 身長は190以上。全身を筋肉で覆っている男だ。

 黒灰色の髪を乱雑にオールバックにしており、眉毛が太く目つきは鋭い。顔立ちは野性的で精悍だ。

 着込んでいる黒いレザーのジャケットは肩から先が無く筋肉に覆われ傷だらけの太い腕が剥き出し。


 彼の名は緒仁原(オニハラ)トウガ。

 超人(オーバード)の武道家。

 自らが創設した武術の流派『天凱流(テンガイリュウ)』の開祖である。


「うるせ~な~、オメーは何だ? 学級委員長かぁ? 皆勤賞の賞状でも狙ってやがんのかよ……こっちにゃ色々とやる事があんだよ~」


「ウソぶっこきやがれ、このバカヤロが。お前のはただだらしねえってだけだろうがよ。ちったぁ俺みてえに義理堅くてで仲間思いなナイスガイを見習いやがれ」


 明らかにトウガはショウセイを挑発している。


 座っているトウガに剣呑な視線を向けるショウセイ。

 座ったまま不敵な笑みを浮かべてショウセイを見上げるトウガ。

 両者の視線がぶつかりあって空気がピリピリと張り詰めていく。

 二人が放つオーラで周囲の光景が歪んで見えている。


 一触即発の雰囲気になり掛けているというのに周囲の他数名はそれを気にする様子もない。

 その中には険悪な空気になっていく二人の方を見ようともしない黒いセーラー服の娘……久遠寺キリヲもいた。


「……こぉーらっ!」


 トウガが後頭部を、ショウセイが尻を……それぞれ背後から軽くぺしんと叩かれた。


 叩いたのは翡翠の色をした髪の睫毛の長い美貌の少女。

 先日キリヲとジンパチの修練の様子をこっそり覗いていた娘。

 本日は黒いパーティードレス姿だ。


 彼女の名はアムリタ・アトカーシア。

 世に『アトカーシアの魔女』という通り名で半ば伝説のように語られている存在だ。

 成人しているかしていないか微妙な見た目ながら彼女は大魔術師であり、また自らが創設した『神秘武闘(エーテリアルアーツ)』を使う武術家でもある。


「どうして貴方達はすぐにそうなっちゃうのよ。もうちょっと仲良くしてよね……。私が『紫桜会(シオウカイ)』を立ち上げたのは喧嘩相手をマッチングさせるためじゃないのよ」


 呆れた様子で嘆息する翡翠の髪の娘。


 そう今日の集まり……現在この店を貸し切りにしているのは彼女の主催する紫桜会(シオウカイ)である。

 紫桜会は十人そこそこの小さな集団だ。

 しかしメンバー全員が超人(オーバード)。それもその中でも上澄みの猛者ばかり。

 それぞれが得意とする戦闘法で頂点を極めた武の達人だ。


「俺らは皆こんなもんだろがよ~」


「まぁな。手が出てからがコミュニケーション本番てモンよ。死合いはいいぜえ? これほど相手のことがよくわかる手も他にねえ」


 こんな時ばかり足並みを揃えてアムリタに反論する男二人。

 そんな二人を見るアムリタがふわっと柔らかく微笑んだ。

 慈しむような春の陽だまりのような……そんな微笑だ。


 その顔を見るとショウセイもトウガも毒気を抜かれたようにばつが悪いといった顔で目を逸らした。


「あ~……。わかったわかった大人しくしとくぜ~。苦手なんだよ~、アンタのその『ハイハイ全部わかってますからね』みたいな表情(カオ)はよ~」


 両手を軽く上げて「降参」のような仕草をしてから近くの椅子にドスンと腰を下ろすショウセイ。

 トウガもそれに倣って黙る。


 そこへまた一人、フロアに入ってきた者がいた。

 ロングコートを着た赤いショートヘアのツリ目の気が強そうな美女……御門製薬のラボにいた女、リュアンサだ。

 リュアンサ・リューグ・アトカーシア……通称、魔女の伴侶。

分析(アナライズ)』の魔眼を持ち相手の全てを見透かしてしまう魔道医師にして科学者。


「リュアンサ……!」


「おォっす、アタシの可愛いお姫様。心身ともに健康そのものだな」


 笑顔で抱き着いてくるアムリタの頭を優しく撫でるリュアンサ。

 その間にも彼女は魔眼でアムリタの内部の走査(サーチ)を終えている。


「……よォ、博士(センセー)よ~。アンタ、リゼルグを治療したらしいじゃねえかよ~。何で教えてくれねーんだ。アイツを火倶楽に連れてきたのは俺だって知ってるだろ~?」


 早速手酌で酒を飲んでいたショウセイがリュアンサを見て不満げにそう言った。

 そんな彼をギロリと睨んで鼻を鳴らすリュアンサ。


「アァん? 知るかバァカ! 何でアタシが依頼主(クライアント)でもねーテメーに自分の仕事の内容をベラベラご説明しなきゃなんねんだよ。アタシの患者(クランケ)がテメーのオトモダチだか手下だか知んねーけどそんなに気になるんなら自分でしっかり管理しとけ、このボケナスが!!」


「……ぐあっ。相変わらず口悪すぎだろが」


 マシンガンのように放たれる悪口雑言を浴びて流石のショウセイも顔を顰めている。


「俺んトコにはよ~。アイツは死んだから死体は処理したって連絡が来てたんだよな~。その連絡寄越したのは俺を騙すような奴じゃねえからそもそもそいつが偽情報(ガセネタ)掴まされたって事になる……。ガイアードカグラの内部によくわかんねえ勢力とつるんでいる奴がいんな~。お陰でどこ連れてかれちまったもんだか、リゼルグ(ヤロー)連絡がつきゃしねえ~」


 ブツブツ言いながらグイッとコップを傾けるショウセイ。

 周りの者たちは誰も聞いていない。


 その間にも料理は次々と運ばれてきている。

 一人で給仕をしているのは背の高いがっしりした体格の黒い拳法着の男だ。

 料理人でありながら彼もまた紫桜会のメンバーの一人。


 そうして料理が出揃った所でアムリタが給仕をしていた男も席に着かせ乾杯の音頭を取った。

 和やか……とも言えない空気であるがともかく超人(オーバード)たちの食事会が始まる。


 各々食事も進みある程度アルコールも入った所でアムリタが立ち上がる。


「それでね、今日みんなに集まってもらったのは……()()()について話し合いたくてね」


 言いながらリモコンを操作するアムリタ。

 壁面の巨大モニターに映し出されたのは……。


 両手でピースサインを出している笑顔の美女……ユカリだ。


「グェ……」


 思わず唸って食べていたものを喉に詰まらせ、慌ててそれを酒で流し込むショウセイ。

 キリヲも食事の手を止めて僅かに目を細めている。


「んん? 誰なんだこれ? 別嬪さんだな」


 ガツガツと物凄い勢いで料理を搔っ込みながら怪訝そうな顔をしているトウガ。


「彼女の名前は壬弥社(ミヤノモリ)ユカリ。この火倶楽で暮らしている超人(オーバード)よ」


「へえ~。盟主(アンタ)が話題に出すくらいだからすげー腕が立つ奴なのか?」


 トウガの言葉にアムリタはふふん、と思わせぶりに笑った。


「……そうね。すっごく強いのよ、彼女。何といっても我が紫桜会のメンバーがここ一年以内で二人も敗れてるんだから」


『!!!!!』


 フロアの空気が凍り付く。

 ほとんどの者が動きを止めている中でショウセイとキリヲの二人だけが食事を続けている。


 我関せずと言った様子で食事を続けている二人を見てトウガは何かを察したらしい。


「……負けたのか、お前ら」


「うるせ~な~。デリケートな話題だぞ。気を遣えよな~」


 呆然としている様子のトウガをジロリとショウセイが睨んだ。


 ショウセイにせよキリヲにせよ、一定の縛り(ハンデ)を己に与えた上での敗北だが二人はそれを言い訳にしたりはしない。

 ……負けは負けだ。


「ぷっ……負けたのかよお前ら!! だっはっはっはっはっはっは!! こりゃぁ面白えッッ!!!」


「おい~、こっちは面白くもなんともねんだよ~。キズを舐めあう仲間が欲しいからテメーにも今すぐ敗者の気分を教えてやろうか~?」


 鋭い視線をトウガに向けるショウセイ。

 挑発に乗るかと思った大男であるが……。


「いや、悪かったな。お前らの負けが面白いつったんじゃねえよ。そんな凄腕がまだその辺にいたってのが面白え。世界は広えな。いや、この場合は狭いのか? どっちだ?」


 素直に詫びてから腕組みして首を傾げているトウガ。


「……ほんで?」


 次に言葉を発したのは口元を布巾で拭った黒いセーラー服の少女であった。

 口元には微笑。しかし目には冷たい光を湛えて。


「あてらを晒しモンにしたいんですのん?」


「ごめんね。そういう気はないの。でも彼女の事を話す上でその話題は避けて通れないでしょう」


 キリヲに向けて手を合わせ、頭を下げるアムリタ。

 ふん、と鼻を鳴らしてキリヲがそっぽを向く。


「私は彼女を紫桜会にお迎えしたいのよ。新しい仲間が増えるの。素敵だと思わない?」


「そいつぁいいな。強え奴は大歓迎だぜ。別嬪さんだってんなら猶更だ……!!!」


 だはは、と大口開けて笑ってからガバッと酒瓶を掴んでラッパ飲みしているトウガ。


 フロアがざわつく。

 各々ユカリに付いて思った事を口にしている紫桜会の面々。

 今の所、否定的な意見はほぼ出ていないようだが……。


「やめとけよ~」


 その一言にフロアがスッと静かになった。

 声を出したのはショウセイだ。


「あら、反対? 別にキライではないのでしょう?」


 アムリタが不思議そうに尋ねる。


「好きでも嫌いでもねえよ~。そういう話をしてんじゃねえ~。無駄だからやめとけっつってんだ~。アイツは声掛けても来ねーよ~」


「どうしてそう思うの?」


 盟主の言葉にフッと皮肉気に笑うショウセイ。


「アイツにはよ~、他に大事なモンがあんだよ~。俺らみてーに戦ってなきゃ何もねーヤツらとは違う~」


「………………」


 またもフロアが静かになり……。


「ふざけんなバカ!! そんなのはお前だけだ!!!」


「一緒にすんじゃねーよこのダメ中年が!!!」


「テメーは戦っててもそうでなくても世間様に迷惑掛けてばっかだろうが!!!」


 一斉に沸き起こった非難の声の大合唱。


「お、なんだ~やんのかコノヤロ~!」


 気色ばんで立ち上がるショウセイ。


「……まあ待てよ、お前ら」


 ヌッと立ち上がった巨漢。


「誘って断られりゃそれはそれでしょうがねえ。いっちょ俺が行ってくる事にするぜ。どんなもんだか直に見てみてえしな。……元黒騎士(オルドザイン)の頂点二人を下した女か。腕が鳴るぜ」


 緒仁原トウガが一同を見回してニヤリと笑った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ