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帝王ギャラガーと乱入たこ焼き屋

 あらゆる文明機器が沈黙してしまった空港内。

 混乱する人々を冷静でそれでいて鋭い捕食者の眼で見ている一人の青年。


「これでいい。後はババ様に任せよう」


 銀色の髪の青年ガレオン・ロードリアス。

 わずかに憂いを秘めたような表情の静けさというものを具現化したような男。


 異常はこの青年(ガレオン)の能力によるものだ。

 一定の範囲内の全ての機械を沈黙させる異能『原初の(プライモーディアル)沈黙(サイレンス)

 これにより現在この近辺は記録、監視が不可能。外部への連絡も取れない。

 魔術的な異能力であり魔術による防護が施されていない機械は確実に機能停止させられてしまう。

 主に一家(ファミリー)は彼のこの能力を「狩り」の場を外界から遮断して邪魔を入れないようにするために用いる。


 手際よく目的を果たした息子に無表情のまま肯くギャラガー。

 そして一家の大黒柱は傍らの母親を見下ろした。


「邪魔者を追い払ってくれ、ママ」


「はいよォ~」


 妖しく両眼を輝かせる老婆。

 意識を集中して異能を発動させる。

 目に見えない力の波動が波紋のようにゼノヴィクタを中心として周囲に広がっていく。


 周囲の人々が痙攣したかと思うと立ったままガクッと項垂れた。


「ヒヒッ、いい子だねぇ。そのままおとなしくお家に帰って今日のことは忘れちまいな」


 ニヤリと笑うゼノヴィクタ。

 すると……人々は幽鬼のようにフラフラとその場から立ち去っていく。

 とにかくこの場から遠ざかるように、皆がばらばらに背を向けて。


 これもまた魔術的な異能力であり、一定以上の魔力を持つ者には効果を表さない。


「おやまぁ、アタシの精神感応波(サイコウェーブ)が効いてないヤツがターゲットの他にもいるじゃないか。……ギャラガー、他にも超人(オーバード)がいるよ」


「当然だ。あの老獪で狡猾な蛇沼ゼンマが我々に対して何の備えもしていないはずはない」


 ある研究機関の調査によれば超人(オーバード)は10万人に1人という比率で存在しているらしい。

 単純計算で火倶楽には100人前後の超人(オーバード)が存在しているという事になる。

 偶然この場に超人(オーバード)が居合わせることも十分にありえるだろうが……。

 しかしこの出会いは偶然ではないだろうと確信を持ってユカリを見る総帥。


 ぞろぞろと立ち去っていく人々の中、動かずにその場に残っている者……。

 黒髪の青年、蛇沼シズクと。


「え~、ちょっと、何? 何が起こってるの? なんかゾンビものの映画みたいになっちゃってるけど……」


 虚ろな目でどこかへ歩いていく人々を薄気味悪そうに眺めているユカリ。


「巻き込んでしまったようだな。謝罪しよう。速やかにこの場から立ち去り、見たことは忘れてもらえればありがたい」


 詫びると言いながらもギャラガーの言葉には有無を言わさぬ圧がある。

 丁寧な物腰ながらこれ以上この場に留まるのなら痛い目を見ることになるとオーラが物語っている。


「御丁寧にどうもです~。でもお気遣い無く。私は巻き込まれたワケじゃないので」


「ほう」


 感心したような声を出すギャラガー。

 その隣のゼノヴィクタはニヤリと笑った。


「シズマさんは私の大事な人なので~……」


 人懐っこい笑顔を浮べたユカリ。

 だけどその目は細く開いていて、鋭い光を放っている。

 隣にいるシズクも初めて見るユカリの様子に戦慄して僅かに息を飲んでいた。


 これが……本気のときのユカリなのだ。


「おいたする気でしたら思いもよらないお怪我をする事になっちゃうかもしれませんよ~? ……総帥様」


「……ふふっ」


 ユカリの威圧にギャラガーが笑った。

 嘲りの笑みではなかった。


「ふははははッッ!! 実にいい……小気味良い。痛快だ。弱者の遠吠えは耳障りだが、強者の啖呵は良いものだな……黒騎士(オルドザイン)ユリアーゼ」


 哄笑してから横を向き、スタスタと歩き始めるギャラガー。

 ゼノヴィクタも彼に付いて同じ方向へ歩いていく。


「滑走路で()るとしよう。お前たちも自分たちが暮らす土地の空の玄関口が無残な姿になるのは望む所ではあるまい」


「……………」


 悠然と歩いていく財団総帥。

 その背を追ってユカリたちも外へ向かう。


 ギャラガー・C・ロードリアス。

 ロードリアス財団の総帥にして一族最強の男。

 その異名は……『帝王(カイザー)

 世界最強の超人(オーバード)との呼び声も高い。


 ─────────────────────────────────────────


 広大な滑走路にやや強めの風が吹き抜けていく。

 人影は無く周囲は静まり返っている。

 動く事のない無数の巨大な鋼鉄の機体はまるで人が滅び去ってしまった世界を現しているようで物悲しく不気味であった。


「お金なんて必要ないでしょ? 何でこんな暗殺者の真似事なんてしているの?」


 前を歩くギャラガーの背に呼び掛けるユカリ。


「どのような名剣でも使わなければ錆び付くものだ。我らは常に強敵を欲している。自分たちの最強を証明するためにもな」


 研鑽と最強の証明……ギャラガーは自分たちが戦う理由をそれだと告げる。

 ハイドライドやキリヲのように「楽しいからギリギリの命のやり取りがしたい」という輩にも困ったものだが……。


(こっちはこっちでめんどくさいな……。超人(オーバード)界の意識高い系っていうのかな? こういうのは)


 渋い顔をするユカリであった。


 ……………


 滑走路のど真ん中に荷運び用のコンテナを置いて、そこにエトワールが座ってファッション雑誌を広げている。


「……お、来た来た。ハロー、こんちは、美少女デ~ス」


 読んでいた雑誌をポイと投げ捨ててニヤッと笑って手を振るエトワール。


(あ~、あん時の子だ! ロードリアスだったのね。そりゃ桁外れの魔力してるわけだわ)


 以前の休みの日にエトワールと偶然に遭遇していた事を思い出すユカリ。

 そしてエトワールもその時の事を思い出している。


(ユリアーゼが来てる! カッケーですねぇ……元黒騎士(オルドザイン)!)


「俺一人殺したいだけで随分大袈裟な事だ」


 冷めた口調で淡々と告げるシズク。


 向こうは三人。

 もう一人は……どこだ?

 訝しむユカリが周囲の気配を探ろうとした時、彼女の耳にグオオオオンというエンジン音が聞こえてくる。


 白いライトバンが物凄い勢いでこちらへ突っ込んでくる。


「……アレ? 何でガレ兄の鎮静(サイレンス)食らって動いてる車があんの?」


妨害(ジャマ)したんだろうよ。別にそんな大した話でもないさ。能力(チカラ)の仕組みをある程度理解してればねェ」


 不思議そうなエトワールにフンと鼻を鳴らして応えるゼノヴィクタ。

 そしてユカリが露骨に狼狽している。


「ちょっとちょっと~!! 私の車で来ないでよ!! 壊したらどうすんのよ~!!!」


 連れ立って歩くと異様な集団になってしまうから車で待たせていたのだが……。

 走ってきたほうが何倍も速く着くクセにわざわざ車で乗り付けてくる。


 ユカリの近くまで猛スピードで突っ込んできた白いライトバンが乱暴に停車する。


「どォも~、イケオジでぇ~っす」


 運転席から降りて来たのはスタジャン姿の口髭の中年男……三好ショウセイ。


 ……相変わらずの胡散臭さ。

 本人はニヒルな笑みのつもりのその笑顔が完全に悪人面。

 それも遅くとも中盤までには物語から退場してそうな感じの大物感皆無の悪役の顔だ。

 ちょっと胸張って味方ですと紹介はしたくない感じのオッサンである。


(……ハイドライド・エルドギーア)


 ギャラガーの口元から笑みが消える。

 一流は一流を知るか、一目でその正体を看破する財団総帥。

 最も彼は魔力の波動で相手を識別しているので見た目はあまり注視していないのだが。


「はぁ、しんど……。あんたはん、はちゃめちゃなんは顔面だけにしときやし」


「ヒトの御自慢のフェイスをはちゃめちゃとか言うんじゃねぇよ~」


 嘆息しつつ助手席から降りて来た黒いセーラー服の少女にショウセイがニヤリと笑う。


「……やっぱり来たねェ、久遠寺ぃ~。何となくこうなる気がしてたよ、アタシゃねぇ」


 ヒヒヒッ、と老婆が不気味に笑っている。


「あての方は別にあんたはんなんてどーでもよろしおす。助太刀しとくれ言うて頭下げはるさかい来ただけどすえ」


 フフッと口の端を上げてキリヲが冷たく笑う。

 彼女は手ぶらだ。

 今日は傘を持ってきていない。

 前にユカリがぶっ壊してしまったので修繕に出しているのだが、それがまだ仕上がっていないからだ。


「こんなん、あてにとってはほんの暇つぶしどす」


「フンっ、相変わらず可愛げのない女だね」


 鼻で嗤いながら老婆は大袈裟に肩をすくめて見せる。


 そこで……。

 双方の会話が途切れた。


 互いに自己紹介など不要……と、言いたい所なのだがユカリだけはギャラガー以外の向こうの面子の名前は頭に入っていない。

 まあ名前がわかった所で詳細な攻略法があるわけでなし、どうでもいいかと思っている。


「……ちょぉーっと待ちなぁッッ!!」


 その沈黙をぶち破る雄叫び。

 ライトバンの後ろのドアが開いて飛び出してきた男……。


「あッ!! おバカ!! アンタは引っ込んでなさいって……!!!」


 出てきた黒い革ジャンのスキンヘッドに頬を引き攣らせるユカリ。

 黙って見物すると約束したから連れてきたのに……。


 ライトバンの後部座席にはルクシエルの姿もある。

 彼女を連れて行くか行かないかで店で揉めている時にたまたまジンパチが顔を出してしまったのだ。

 結果として大人しくしているという条件で二人とも連れてきたのだが……。


「俺の名前は葛城(カツラギ)ジンパチだ。無銘流(ムメイリュウ)の師範代にして姐さんの第一の舎弟よ」


 不敵に笑ってギャラガー達に向かってズカズカと大股で進んでいくジンパチ。


「ええのん? 八つ裂きにされますえ」


「……待って! 待ってッ! そいつは私とは何の関係も無い単なる地元のヤンキーだから!!」


 半眼に乾いた声で言うキリヲに慌ててジンパチを制止しようとするユカリ。

 しかし茫然としていた僅かな時間が仇となって割って入るにはもう間に合わない。


「姐さんにコナかけようとする奴ぁ、俺がヤキ入れる事になってんだよ。覚悟しやがれッッ!!」


 言うが早いか構えを取ってギャラガーに拳打を放つジンパチ。


 ロードリアスの三人は……。

 誰もリアクションを取らない。

 殴打されようとしているギャラガーも、その近くの他の二人も。誰も。


「うおりゃぁぁぁぁッッッ!!!!」


 そして、微動だにしないギャラガーのボディにジンパチの繰り出した拳が一直線に突き刺さり、周囲に鈍い打撃音が響き渡ったのだった。


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