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時間殺し

お酒 時間 


この2つのお題での作品です。

今回はリクエストがあり、芥川龍之介風の文章を意識しています。



 私は、その薄暗いカッフェの隅で、眼の前の琥珀色の液体を眺めていた。




 グラスの中には、安物のブランデーが、恰かも粘り気のある沼のように淀んでいる。




 人間は、退屈な時間を殺すために酒を飲むと云う。




 しかし、それは明白な嘘である。



あるいは、幸福な手合いの妄言に過ぎない。




 私は、グラスを傾け、その液体を舌の上で転がした。




 焼きつくようなアルコールの刺激が、喉を通り、胃の腑へと落ちていく。




 すると、どうであろう。




 忽ちにして、私の感覚は、恐ろしいほど鋭敏になったのである。




 壁に掛かった古時計の振子が、右へ、左へ、と揺れる。




 その一往復が、私には永遠の長さに感じられた。




 テーブルの上の微かな埃、給仕の欠伸、窓硝子を打つ雨の音。



それら一切が、拡大鏡で覗いたように鮮明になり、私の神経を逆撫でする。





 酒は、時間を殺しはしない。




 否、むしろ時間を死体のように防腐し、その腐臭を漂わせたまま、私の眼前に晒し続けるのである。




 私は、戦慄を覚えた。




 このグラスの中には、凝縮された「現在」という名の悪魔が潜んでいるに相違ない。




 私はその悪魔から逃れようとして、再びグラスを煽った。




 酩酊が深まるにつれ、時間は益々その歩みを遅くする。




 一分が一時間になり、一時間が永劫になる。




 私は、この永遠に続く「退屈な一瞬」という牢獄の中に、自ら鍵をかけて閉じ籠もったような心地がした。




 ボーン、ボーン……。




 古時計が、深夜の二時を打った。




 私は溜息をつき、空になったグラスの底を覗き込んだ。




 そこには、殺し損ねた時間が、まだべっとりと張り付いているようであった。



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