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深夜二時のエメラルド

カップ麺 深夜 ネギ


この3つのお題での作品です。



 コーッ、という電気ケトルのくぐもった沸騰音が、冷蔵庫のモーター音しかしない台所に響いている。




 午前二時十五分。




 世界から取り残されたような、深い夜の底。

 私はあくびを噛み殺し、戸棚から取り出した発泡スチロールの容器を眺めた。




 スーパーの特売で買い溜めした、なんてことのない醤油味のカップ麺。




 夕食を食べ損ねてソファで寝落ちした胃袋が、情けない音を立てて何かを寄越せと要求している。




 ペリペリと蓋を開け、粉末スープを振り入れる。




 茶色い粉が舞い、チープで食欲をそそるジャンクな匂いが漂った。




 (……なんだか、わびしいな)




 ケトルから熱湯を注ぎかけた手を、ふと止める。




 私は踵を返し、冷蔵庫のドアを開けた。




 冷たい光の中、野菜室の片隅でラップに包まれていたもの――半分残った長ネギの青い部分を取り出す。




 静寂の中で、まな板の上にネギを置く。




 包丁を握り、小気味よいリズムで刃を落としていく。




 トントン、トントン。




 真夜中の台所に、その乾いた音が不思議なほど心地よく響いた。




 切り口から溢れ出す、ツンとした刺激的で青い香り。




 私は、刻みたてのネギを、乾いた麺の上に無造作に放り込んだ。




 茶色一色だった世界に、鮮やかなエメラルドグリーンが散りばめられる。




 今度こそ、熱湯を注ぐ。




 シュワァァッ……。




 お湯がネギに触れた瞬間、香りが爆発した。




 粉末スープの化学的な匂いに、ネギの持つ大地の生命力が混ざり合い、とてつもなく芳醇な湯気となって顔を包み込む。




 蓋をして、三分。




 私はただ、じっとその時を待った。




 誰もいない台所。たった一人の時間。




 ネギを刻むという、ほんの数十秒の「一手間」。



それが、ただの夜食を、私だけのための「晩餐」に変えてくれたような気がした。




 時間が来る前に、待ちきれず蓋を剥がす。




 モワッと立ち昇る白い湯気の向こうで、熱湯を吸って少ししんなりとしたネギが、黄金色のスープの上に浮いている。




 割り箸を割り、麺と一緒にネギを多めに掬い上げた。




 フーフーと息を吹きかけ、一気にすする。




 ズズッ。




 「……はぁ」




 思わず、熱い吐息が漏れた。




 美味い。




 舌に絡みつく油揚げ麺のジャンクな旨味を、ネギのシャキシャキとした食感と辛味が、爽やかに引き締める。




 飲み込むと、食道を温かい塊が滑り落ち、胃袋の底でポッと小さな火が灯るのを感じた。




 私は夢中で麺をすすり、スープを飲んだ。




 一日の疲れ、将来の不安、昼間に上司に言われた嫌味。




 そんなものは、この温かいプラスチックの小宇宙の前では、何の力も持たなかった。




 最後の一滴までスープを飲み干し、私は大きく息を吐いた。




 額に微かな汗が滲んでいる。




 窓の外を見ると、相変わらず夜はどこまでも暗く、深い。




 けれど、もう冷たさは感じなかった。




 私は空になった容器をシンクのゴミ箱に入れ、満足感と共に寝室へと向かった。




 明日もまた、なんとか生きていけそうだ。




 口の中に残る、かすかなネギの余韻を噛み締めながら、私は再び深い眠りへと落ちていった。



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