灰の王冠
ぶつかり合う2つの野望と迫りくる絶対的な壁
このお題での作品です。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
大気の底が抜けたような重低音が、足元の石畳を激しく振動させている。
だが、今の二人にとって、それは遠い世界のBGMに過ぎなかった。
「……引かぬか、セリス」
「引けません、ガラン。貴様を通せば、王国の歴史は終わる」
王城の最上層、天空のテラス。
風にバタつく革命軍の赤いマントと、純白の騎士団のマントが、まるで二匹の龍のように絡み合っている。
ガランが握る大剣は、無骨な鉄塊だ。
貴族たちから奪い取った怒りの象徴。
対するセリスの細剣は、白銀の芸術品。
連綿と続く伝統と誇りの結晶。
二つの野望が、火花を散らして軋み合う。
その視界の端。水平線の向こうから、世界の終わりが迫っていた。
『壁』だ。
先刻噴火した聖なる山が吐き出した、高さ数百メートルに及ぶ火砕流。
それは生き物のようにうねり、森を、村を、そして城下町を、無慈悲な灰色の波となって飲み込みながら迫っていた。
逃げ場はない。
あと十分、いや数分で、この城もまた灰の棺桶となる。
常人であれば、剣を捨てて祈るか、無様に泣き叫ぶ時間だ。
だが、二人は動かない。
互いの瞳の中にある、自分と同じ「狂気」だけを見据えていた。
(今ここで死ぬとしても、俺が勝てば、俺の革命は成る)
(今ここで世界が終わるとしても、私が勝てば、王国の正義は守られる)
「行くぞ」
ガランが吠えた。
同時に、セリスが疾走する。
キィンッ!
鉄と銀が衝突し、甲高い音が熱風に混じる。
一合、二合。
大剣が風を唸らせて振り下ろされれば、細剣が水のようにそれを受け流し、喉元へと切っ先を走らせる。
肌を焼くような熱気が、頬を撫でた。
灰の匂いが、鼻腔を埋め尽くす。
壁が、すぐそこまで来ている。
眼下の城壁が崩壊する音が聞こえた。
だが、二人の集中力は極限まで研ぎ澄まされ、その瞬間、時間は泥のように遅延した。
ガランは見た。セリスの完璧な構えに生じた、ほんのわずかな焦りを。
セリスは見た。ガランの豪腕が振り上げられる瞬間の、致命的な隙を。
二人は同時に踏み込んだ。
熱波が、テラスの石柱を粉砕する。
視界の全てが、絶望的な灰色に染まる。
その闇の先で、二つの金属音だけが、世界の断末魔よりも鋭く響き渡った。
ドガアアアアアアン!!
直後、絶対的な『壁』が全てを飲み込んだ。
野望も、正義も、歴史も。
すべては等しく、灰へと還る。
だが、その灰塵の嵐が通り過ぎた後の静寂の中には、確かに二つの魂が燃え尽きた、熱い残り香だけが漂っていた。
誰にも知られることのない、王冠なき戴冠式が、そこで終わったのだ。




