青い硝子の雷管
雪起こし 瓶ラムネ
この2つのお題での作品です。
空が、裂けるような音を立てていた。
日本海から押し寄せた鉛色の雲が、低く、重く、屋根瓦を押し潰そうとしている。
ゴロゴロ、ドオン……。
腹の底に響く重低音。
「雪起こし」だ。
この雷が鳴り止む頃には、世界は厚い雪の綿帽子に閉ざされる。
私は、暖房のない縁側の藤椅子に深く腰掛け、手の中にある「異物」を見つめていた。
独特のくびれを持つ、青いガラス瓶。
夏祭りの夜店でしか見かけないはずのそれが、今は凍てつく冬の空気の中で、私の体温を奪っている。
『雪雷が鳴ったらさ、一緒に飲もうぜ』
あいつは、酔狂な男だった。
真夏の日差しの中で、汗を拭いながらそう言った時の、悪戯っぽい笑顔が脳裏に焼き付いている。
約束の相手はもういないのに、売れ残ったラムネだけが、冷蔵庫の奥でずっと出番を待っていた。
ピカッ。
庭の松の木が、青白い閃光に浮かび上がる。
来る。
私プラスチックの蓋押しを、瓶の口に当てがった。
指先がかじかんで、うまく力が入らない。
バリバリバリッ! ドオオオオオン!!
大気が悲鳴を上げ、直上で雷が炸裂する。
家全体が震えるほどの衝撃。
私はその轟音に合わせるように、掌を振り下ろした。
ポンッ。
小気味よい破裂音は、雷鳴の余韻に吸い込まれて消えた。
シュワシュワシュワ……。
瓶の中で、閉じ込められていた夏が泡となって溢れ出す。
ガラスのビー玉が落ち、行き場を求めて暴れ回る。
カラン、コロン、カラン。
その音だけが、冬の静寂の中でひどく鮮明だった。
私は、泡の消えないうちに瓶を煽った。
冷たい。
あまりにも冷たく、鋭い刺激。
口の中いっぱいに広がる人工的なレモンの香りと、強烈な炭酸が、喉を焼き切るように駆け抜けていく。
(……馬鹿野郎)
ちっとも、夏になんか戻れないじゃないか。
胃袋に落ちた液体は、熱を持つどころか、身体の芯まで凍てつかせる氷塊になった。
ただ、甘いだけだ。
どうしようもなく甘くて、懐かしい味が、鼻の奥をツンと刺激する。
飲み干した瓶を、庭に向かって透かしてみる。
歪んだ青いガラスの向こう。
いつの間にか、白いものが舞い始めていた。
ひとつ、ふたつ。
雪は次第に数を増し、黒い土を、松の葉を、音もなく白く塗り潰していく。
カラン。
瓶を傾けると、ビー玉が硝子の壁にぶつかった。
その透明な球体は、取り残された夏の瞳のように、降りしきる雪をじっと見つめている。
私は深く息を吐いた。
白い呼気が、炭酸の抜けたように消えていく。
本格的な冬が、すぐそこまで来ていた。




