白塗りの晩餐
おもち みぞれ ピエロ
この3つのお題での作品です。
バシャ、バシャ、と窓ガラスが重い音を立てて鳴いている。
雪になりきれない雨粒が、半透明のシャーベットとなって街を覆い尽くす夜。
六畳一間のアパートは、冷蔵庫の中のように底冷えしていた。
私は、電気ストーブの前で膝を抱えている。
派手な水玉模様のダボついた衣装。
顔には、ドーランで塗り固められた白と、大きく裂けたように描かれた赤い口紅。
道化師の姿のまま、私は小刻みに震えていた。
今日の大道芸は散々だった。
観客はまばらで、投げ銭を入れる帽子には、みぞれの水たまりと数枚の硬貨が残っただけだ。
(……腹が、減った)
化粧を落とす気力さえない。
私は、かじかむ指で冷蔵庫を開け、奥底に眠っていたパックの切り餅を取り出した。
カチコチに硬い、冷たい白の直方体。
それはまるで、今の私の心臓のようだった。
ストーブの上の焼き網に、それを乗せる。
ジィィィ……。
ニクロム線が赤く灯り、静かな加熱が始まる。
私はじっとそれを見つめる。
窓の外の氷雨の音と、ストーブの微かな唸り音だけが、部屋の時間を刻んでいる。
やがて、変化が訪れた。
無機質だった餅の表面に、薄茶色の焦げ目が浮かび上がる。
香ばしい匂いが、湿った部屋の空気を塗り替えていく。
穀物が焼ける、原初的な安らぎの匂いだ。
プクッ。
餅の側面が、内側からの圧力に耐えきれずに膨れ上がった。
白い皮膚が薄く伸び、中の熱気が逃げ場を求めて暴れている。
固形だったものが、熱によって柔軟な生き物へと変貌していく。
(もう、いいだろう)
私は火傷を覚悟で、膨らんだ餅に指を伸ばした。
アチッ。
指先に走る鋭い熱。
私は構わず、それを引き千切る。
ビョーンと、驚くほど長く、白く、それは伸びた。
立ち昇る湯気が、私の白塗りの顔にかかる。
ハフッ、ハフッ、と息を吐きながら、熱の塊を口に放り込んだ。
熱い。
上顎の皮がめくれるほどの熱量が、口の中で暴れ回る。
噛みしめると、カリッとした焦げ目の食感の後に、とろりと濃厚な粘り気が舌に絡みついた。
穀物の甘み。
飲み込むと、熱い塊が食道を滑り落ち、胃袋にどスンと収まる。
その瞬間、身体の中心に種火が灯ったようだった。
二口、三口。
私は夢中で白い餅を貪った。
冷え切っていた指先に、血液が巡り始めるのを感じる。
ふと、窓ガラスに映った自分の姿と目が合った。
そこには、白塗りの道化師がいた。
涙のマークを描いた悲しい顔のピエロ。
けれど、その口の周りには餅の粉がつき、頬は熱さで上気し、赤い口紅が餅の粘り気で少し歪んでいた。
その滑稽な顔を見つめていると、腹の底から、不意に笑いがこみ上げてきた。
「……ふっ、はは」
乾いた笑い声が、狭い部屋に響く。
それは演技でも、自嘲でもない。
ただ、温かいものを食べて満たされた、一人の男の素直な反応だった。
窓の外では、相変わらずみぞれが叩きつけている。
だが、もう寒くはなかった。
私は指についた餅を舐め取り、ようやく、洗面所へと腰を上げた。
この張り付いた笑顔の仮面を洗い流して、ただの人間に戻るために。




