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曇天のろ過装置

鈍色 ワンルーム ドリップコーヒー


この3つのお題での作品です。



 窓の外は、誰かが絵の具を零したような鈍色だった。




 予報通りの曇天。




 分厚い雲が蓋をしているせいで、正午だというのに部屋の中は夕暮れのように薄暗い。




 私はベッドから這い出し、ワンルームの狭いキッチンへと向かった。




 「……これじゃ、洗濯も無理か」




 予定していた外出も、掃除も、すべてが億劫になる。




 けれど、この薄暗い閉塞感は、嫌いじゃなかった。




 世界から切り離された潜水艦の中にいるようで、妙に落ち着くのだ。




 私は電気ケトルのスイッチを押し、棚からお気に入りの豆を取り出した。




 今日は時間をかけて、ドリップコーヒーを淹れよう。




 ガリガリ、ガリガリ。




 手挽きのミルを回す音が、静寂な部屋に響く。




 砕かれた豆から、ナッツのような香ばしさが弾け、狭い空間を一瞬で支配する。




 ワンルームの良さはここにある。



香りが逃げ場を失い、私を全身ごと包み込んでくれるからだ。




 沸いたお湯を、細口のポットに移す。




 粉の中央に、一滴ずつ置くように注ぐ。




 モコモコモコ……。




 お湯を含んだ粉が、生き物のように呼吸をし、大きく膨らんでいく。




 立ち上る湯気。




 焦げたような、それでいて甘い、深煎りの香り。




 ポタ、ポタ、ポタ。




 サーバーに黒い雫が落ちる音が、時計の秒針の代わりだ。




 私はそのリズムを聞きながら、ぼんやりと鈍色の空を見つめた。



 

 ペーパーフィルターを通るお湯のように、私の心の中に溜まった澱も、ゆっくりとろ過されていく気がした。




 焦りや、不安や、寂しさ。




 そういった不純物が取り除かれ、純粋な「休息」だけが抽出されていく。




 「よし」



 最後の一滴が落ちるのを見届け、マグカップに注ぐ。




 湯気の向こうで、黒い水面が艶やかに光っている。




 一口啜る。




 熱い液体が喉を通り、胃の中に温かい重しを作る。




 ふぅ、と息を吐くと、身体の力が抜けて椅子に深く沈み込んだ。




 窓の外は相変わらずの曇り空だ。




 けれど、手の中にある温もりと香りがあれば、この灰色の休日も悪くない。




 私は読みかけの本を開き、もう一口、黒い安らぎを喉に流し込んだ。



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