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銀河鉄道の機織り機

星を紡ぐ者の始発と終着点


このお題での作品です。



 ガタン、ゴトン。



 そのリズムが止まる時が、ついに来たらしい。




 車内放送のアナウンスもなく、ただ静かに、ブレーキの摩擦音が無限の暗闇に響き渡った。




 ここは終着駅、「静寂」。




 時間も空間も、これ以上先には進めない、宇宙のどん詰まりだ。




 「……やれやれ。随分と遠くまで来たものだ」



 ボックス席から立ち上がったのは、ボロボロのローブを纏った老人だ。




 その指先は、長年の酷使によって銀色に硬化し、擦り切れている。




 彼は星紡ぎの職人。




 網棚から愛用のトランクを下ろすと、それは羽毛のように軽かった。




 中身はもう、空っぽだからだ。




 彼は窓ガラスに映る自分の顔を見つめ、ふと、始発駅のことを思い出した。



 

 駅名は「混沌カオス」だった。




 世界には上も下もなく、ただ熱くて重たい泥のようなエネルギーが渦巻いていただけ。




 若かった彼は、その泥をトランクが弾け飛ぶほど詰め込み、走り出したばかりの列車に飛び乗ったのだ。



 

 『さあ、仕事の時間だ!』



 彼は車内で、泥を指先で丁寧に撚り合わせた。




 不純物を取り除き、圧力をかけ、熱を込める。




 すると、泥は一本の眩い「光の毛糸」へと変わった。




 彼はそれを丸め、窓の外へ放り投げた。




 闇の中でボンッ! と最初の爆発が起き、青白い巨星が産声を上げた。




 それからの旅は、忙しくも幸福だった。




 ガタン、ゴトン、というリズムに合わせて糸を紡ぐ。




 プレアデスを編み、オリオンのベルトを結び、天の川という雄大な織物を夜空に広げていった。




 時々、手元が狂って糸が絡まると、そこは光を吸い込むブラックホールになった。





 「おっと、失敗」と彼は舌を出したが、それもまた宇宙のアクセントになった。




 彼が列車で通った軌跡は、そのまま「銀河」という名の道になったのだ。



  

 プシュー。




 ドアが開く音で、老人は我に返った。




 終着駅のホームに降り立つ。




 そこは本当に何もなかった。



空気さえもなく、絶対零度の風が吹いているだけ。




 「さて、トランクは空だ。これ以上、新しい星は作れない」



 老人は振り返った。




 彼が走ってきたレールに沿って、数え切れないほどの星々が宝石のように輝いている。




 あれがある限り、夜は怖くない。




 けれど、この終着駅だけは、あまりにも暗い。




 これでは、いつかここまで辿り着く未来の旅人たちが、足元をすくわれてしまうだろう。




 「……仕方ない。最後の仕上げといくか」



 老人は静かに微笑み、自らの胸に手を当てた。




 シュルリ。




 ローブの解ける音がした。




 いや、解けたのは服ではない。彼の身体そのものだ。




 彼は、彼自身が、最高純度の「光の糸」でできていたのだ。




 老人の輪郭が崩れ、一本の太く、温かい光の束となって空へ昇っていく。




 足が解け、指先が解け、最後に笑顔が解けて、光の粒になる。




 その瞬間、終着駅の真上に、動かない星が一つ、ポゥと灯った。




 それは派手さはないが、どんな嵐の中でも決して揺らがない、優しい道標の光。




 星を紡ぐ者は、旅の終わりに、自らが星となった。




 始発から終着までを繋ぐ、永遠のアンカーとして。




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