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灰の王と、種火の守人

燃える炎と灯火


こ、のお題での作品です。



 その山には、二種類の火の神が住むと言われていた。




 一つは、山頂の火口に棲む「荒ぶる炎」。




 もう一つは、麓の森の奥深くに隠れた「静かなる灯火」。




 若き鍛冶師のグレンは、誰よりも優れた剣を打つため、最強の火を求めて山を登った。



彼の心は野心に燃え、その瞳は灼熱を映してぎらついていた。




 山頂に辿り着いた彼を待っていたのは、世界を焼き尽くさんばかりの紅蓮の渦だった。




 ゴォォォォ……と空気を震わせる轟音。




近づくだけで肌が焦げ、呼吸すらままならない圧倒的な熱量。




 それは、触れるもの全てを灰に変える、破壊の化身だった。




 『力を欲するか、小さき者よ』




 炎が形を成し、巨大な龍の姿となってグレンを見下ろした。




 『我を身に宿せば、どんな鉄も泥のように溶かし、国をも滅ぼす魔剣が打てよう。だが、代償として貴様の命も燃え尽きる。刹那の栄光のために、全てを灰にする覚悟はあるか?』




 グレンは魅入られたように頷きかけ――そして、踏みとどまった。




 足元を見たからだ。そこには、彼以前にここを訪れ、この炎に挑んで焼け焦げた、無数の先人たちの槌が転がっていた。




 (違う。俺が打ちたいのは、俺自身を滅ぼす剣じゃない)




 グレンは踵を返し、逃げるように山を降りた。




 背後で、荒ぶる炎が「臆病者」と嘲笑う轟音が響いた。



                

 心身ともに凍えたグレンが、麓の森を彷徨っていると、小さな洞窟の奥に、頼りない光を見つけた。




 そこには、苔むした岩の窪みで、今にも消えそうな小さな灯火が揺れていた。




 風が吹けば消えてしまいそうな、掌サイズの火。




 けれど、不思議なことに、近づくと芯から冷え切った体が、ゆっくりと解凍されていくのを感じた。




 『……寒いのですか?』




 声は聞こえない。けれど、じんわりとした温かい意志が、直接心に届いた。




 その灯火は、何も語らない。何も要求しない。




 ただ、暗闇を照らし、冷えた者を温めるためだけに、静かにそこに在った。




 グレンはその場に座り込んだ。




 山頂の炎のような派手さはない。鉄を溶かす温度もない。




 しかし、この火は決して周囲を傷つけず、長く、穏やかに燃え続けていた。




 「……ああ、そうか」



 グレンは気づいた。




 熱狂的な情熱は、爆発的な力を生むが、自分も周囲も焼き尽くしてしまう。




 本当に必要なのは、日常を照らし、冷えた心を温め、長く仕事を続けるための、この静かな持続熱なのだと。




 グレンは懐から、冷え切った小さな鉄の塊を取り出した。




 灯火にかざす。



 

 鉄はすぐには赤くならない。



けれど、時間をかけて、ゆっくりと、確実に熱を帯びていく。




 彼はその場所で、小さな小刀を打った。




 国を滅ぼす魔剣ではない。



けれど、誰かの生活を支え、長く使われるであろう、丈夫で優しい刃だった。



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