七色の脳内革命
スロット 脳汁 レインボー
この3つのお題でハッピーエンドの作品です。
諭吉が三人、サンドノズルに吸い込まれて消えた。
休日のパチンコ屋。
大音量の電子音と、銀玉が弾ける金属音が渦巻くこの空間は、鉄火場というよりは墓場に近い。
僕の目の前にあるスロット台は、ただ冷酷にメダルを飲み込み続けるだけの鉄の箱だ。
(あと千円。これでダメなら、今月の小遣いはゼロだ)
脂汗が滲む手で、最後の貸出ボタンを押す。
チャララ、と乾いた音を立ててメダルが下皿に吐き出された。
これが命の欠片に見える。
祈るような気持ちなど、機械には通じない。分かっている。これは確率の暴力だ。
無心でメダルを投入し、レバーを叩く。
ガィィィン!
リールが回る。
止める。
外れる。
その単調な作業が、僕の精神をヤスリのように削っていく。
ああ、帰りたい。でも、取り返したい。
矛盾した欲望が胃の中で混ざり合い、吐き気を催す。
ラスト十枚。
諦めと共に、適当にレバーを叩いた、その時だった。
――プチュン。
唐突に、台の電源が落ちたかのように画面が暗転した。
リールが回らない。
騒がしかった周囲の音が、スッと遠のく。
時が止まったような、真空の静寂。
「……え?」
心臓が跳ねた直後、暗闇を引き裂くように、けたたましいファンファーレが轟いた。
『CONGRATULATIONS!!』
筐体のLEDが、赤、青、黄、緑、紫……と激しく明滅し、視界をレインボーに染め上げる。
確率数万分の一。最強フラグの降臨だ。
ドクン!!
その瞬間、後頭部のあたりから、熱くて痺れる液体がドバドバと溢れ出した。
脳汁だ。
エンドルフィン、ドーパミン、アドレナリン。
脳内麻薬のカクテルが全身の神経を駆け巡り、指先の末端までを快感で震わせる。
「やった……!」
先ほどまでの絶望は、一瞬で全能感へと書き換えられた。
投資? 負債? そんなものは些末なことだ。
今、この瞬間、僕は選ばれた人間になったのだ。
消化しきれないほどの上乗せ特化ゾーン。
止まらない払い出し音。
店員の呼出ランプを押す指が、誇らしげに震える。
積み上げられていくドル箱のタワーは、現代における黄金のピラミッドだ。
数時間後。
景品交換所の小窓から渡された特殊景品(大)の束は、ずしりと心地よい重みを伴っていた。
財布がパンパンに膨れ上がる。それは、失いかけていた自尊心の回復そのものだった。
自動ドアを抜けると、外は夕立が上がったばかりだった。
湿ったアスファルトの匂い。
ふと見上げると、灰色の雲の切れ間に、スロット台の演出よりもずっと淡く、美しい七色の橋が架かっていた。
「……よし」
僕は大きく伸びをした。
懐は温かい。気分は最高だ。
今日は奮発して、デパ地下で一番高い寿司とケーキを買って帰ろう。
妻の驚く顔を想像すると、再び脳の奥がじんわりと熱くなった。
ギャンブルは悪かもしれない。
けれど、この最高のご褒美があるからこそ、明日のクソみたいな日常も、また笑って生きられるのだ。




