傘の上の湖
しいたけ ネギ 酒のツマミ
この3つのお題での作品です。
深夜十一時。換気扇の回る音が、静かな台所のBGMだ。
まな板の上には、握り拳ほどもある立派なしいたけが三つ、鎮座している。
原木栽培のそれは、スーパーで見かけるものとは風格が違う。
カサはふっくらと厚く、軸は太く短い。裏側の白いひだは、芸術的なまでに緻密だ。
「……よし」
軸を根元で切り落とし、魚焼きグリルにアルミホイルを敷く。
そこへ、しいたけを「裏返し」にして並べた。
白いひだが上を向く、この配置こそが絶対のルールだ。
点火。
弱火でじっくりと熱を入れる。
その間に、脇役にして最高の相棒、白ネギの準備に取り掛かる。
トントントントン……。
包丁の刃がまな板を叩く軽快なリズム。
白い繊維が細かく刻まれ、爽やかな辛味を含んだ香りが鼻腔をくすぐる。
数分後。
グリルを覗き込むと、しいたけの様相が一変していた。
乾いていたはずの白いひだの上に、透明な水分がじわりと滲み出し、小さな水たまりを作っている。
「汗をかく」と呼ばれるこの現象こそ、キノコの旨味成分が凝縮された純粋なスープだ。
ここだ。今しかない。
引き出したグリルに、刻んだネギをこれでもかと山盛りに乗せる。
そして、その頂上から醤油を垂らした。
ジュワァァァ……!
醤油が熱せられたホイルとキノコに触れ、爆発的な香りを放つ。
焦げた大豆の香ばしさと、森の土の香り。
その匂いだけで、唾液腺が痛いほどに収縮する。
熱々の三つを皿に移し、冷蔵庫からキンキンに冷えた純米酒を取り出す。
これが今夜の、最高の酒のツマミだ。
箸で持ち上げると、ずっしりと重い。
こぼさないよう、慎重に口へ運ぶ。
ハフッ。
噛んだ瞬間、肉厚な弾力が歯を押し返し、次の瞬間に熱いジュースが口いっぱいに溢れ出した。
濃厚なキノコの旨味、醤油の塩気、そしてシャキシャキとしたネギの清涼感。
それらが一体となって、舌の上で暴れ回る。
「……んんっ」
熱さを堪能した直後、冷たい日本酒を流し込む。
キノコの後味を、米の甘みが優しく洗い流していく。
ため息が出た。
ただ焼いただけ。
けれど、どんな高級フレンチも敵わない「素材の暴力」がそこにあった。
私は空になった皿を見つめ、明日への活力が、静かに胃袋から湧き上がってくるのを感じた。




