白銀の蛹
雪 雪かき トンネル 蝶
この4つのお題での作品です。
朝、目覚めると、窓の外から色が消えていた。
一晩で降り積もった雪は、この古い平屋を屋根ごと飲み込み、世界を無音の白で塗り潰している。
時計の針は正午を回っているというのに、室内は海底のように薄暗い。
「……やるか」
重い防寒着を着込み、スコップを手に取る。
玄関の引き戸をこじ開けると、そこには絶望的なまでの「壁」が立ちはだかっていた。
ザクッ、ザクッ。
雪かき、という生易しいものではない。
雪を捨てる場所すらないため、僕はただひたすらに、雪の壁をくり抜き、自分の身体が通るだけの道を掘り進める。
全身から湯気が立ち上り、汗が眉毛で凍りつく。
三メートルほど掘り進んだだろうか。
僕は今、直径一メートルほどの、不安定なトンネルの中にいた。
四方を圧雪された白に囲まれた、狭苦しい回廊。音も匂いもしない、死後の世界のような静寂。
(あと、どれくらいだ)
痺れる腕でスコップを突き立てた、その時だった。
崩れ落ちた雪の塊の中に、鮮烈な青色が混じっているのが見えた。
ゴミだろうか。
顔を近づけ、ライトで照らす。
「……え?」
息を呑んだ。
それは、掌ほどの大きさの、瑠璃色の蝶だった。
精巧なガラス細工のように、雪の結晶の中に閉じ込められ、時を止めている。
触角の一本、鱗粉の輝きに至るまで、完璧な姿でそこで眠っていた。
こんな真冬の、しかも雪の地層の奥底に、なぜ。
無意識に、手袋を外した指先を伸ばす。
体温を持った指が、冷たい翅に触れた。
ふわり。
錯覚だろうか。蝶の翅が、微かに震えた気がした。
次の瞬間、瑠璃色の身体がさらさらと崩れ、青い光の粒子となってトンネルの奥――まだ掘られていない壁の向こう側へと吸い込まれていった。
まるで、「出口はこっちだ」と導くように。
僕は憑かれたようにスコップを振るった。
重さはもう感じない。光の跡を追いかけ、無心で白壁を突き崩す。
ドサッ。
最後の一振りが、厚い壁を貫通した。
穴の向こうから、暴力的なまでの陽光が射し込んでくる。
目を細めながら這い出すと、そこには見渡す限りの銀世界が広がっていた。
空は高く、痛いほどに青い。
蝶の姿はもう、どこにもない。
けれど、頬を撫でる風には、微かに春の匂いが混じっていた気がした。




