表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/94

白銀の蛹

雪 雪かき トンネル 蝶


この4つのお題での作品です。



 朝、目覚めると、窓の外から色が消えていた。




 一晩で降り積もった雪は、この古い平屋を屋根ごと飲み込み、世界を無音の白で塗り潰している。




 時計の針は正午を回っているというのに、室内は海底のように薄暗い。




 「……やるか」



 重い防寒着を着込み、スコップを手に取る。




 玄関の引き戸をこじ開けると、そこには絶望的なまでの「壁」が立ちはだかっていた。




 ザクッ、ザクッ。




 雪かき、という生易しいものではない。




 雪を捨てる場所すらないため、僕はただひたすらに、雪の壁をくり抜き、自分の身体が通るだけの道を掘り進める。




 全身から湯気が立ち上り、汗が眉毛で凍りつく。




 三メートルほど掘り進んだだろうか。




 僕は今、直径一メートルほどの、不安定なトンネルの中にいた。




 四方を圧雪された白に囲まれた、狭苦しい回廊。音も匂いもしない、死後の世界のような静寂。




 (あと、どれくらいだ)




 痺れる腕でスコップを突き立てた、その時だった。




 崩れ落ちた雪の塊の中に、鮮烈な青色が混じっているのが見えた。




 ゴミだろうか。




 顔を近づけ、ライトで照らす。




 「……え?」



 息を呑んだ。




 それは、掌ほどの大きさの、瑠璃色の蝶だった。




 精巧なガラス細工のように、雪の結晶の中に閉じ込められ、時を止めている。




 触角の一本、鱗粉の輝きに至るまで、完璧な姿でそこで眠っていた。




 こんな真冬の、しかも雪の地層の奥底に、なぜ。




 無意識に、手袋を外した指先を伸ばす。




 体温を持った指が、冷たい翅に触れた。




 ふわり。




 錯覚だろうか。蝶の翅が、微かに震えた気がした。




 次の瞬間、瑠璃色の身体がさらさらと崩れ、青い光の粒子となってトンネルの奥――まだ掘られていない壁の向こう側へと吸い込まれていった。




 まるで、「出口はこっちだ」と導くように。




 僕は憑かれたようにスコップを振るった。




 重さはもう感じない。光の跡を追いかけ、無心で白壁を突き崩す。




 ドサッ。




 最後の一振りが、厚い壁を貫通した。




 穴の向こうから、暴力的なまでの陽光が射し込んでくる。




 目を細めながら這い出すと、そこには見渡す限りの銀世界が広がっていた。




 空は高く、痛いほどに青い。




 蝶の姿はもう、どこにもない。




 けれど、頬を撫でる風には、微かに春の匂いが混じっていた気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ