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綿毛の筏

人生 川 フカフカ枕 結婚 堕落

この5のお題での作品です。



 重力が、平日よりも三倍ほど強く作用しているに違いない。




 午前十時の陽光がレースのカーテンを透かし、部屋の埃をキラキラと照らし出している。




 本来なら、洗濯機を回し、遅めの朝食を摂っている時間だ。




 だが、僕の後頭部は、フカフカ枕という名の魔物に捕食されたまま、ミリ単位たりとも動くことができない。




 「……ねえ、起きないの」



 隣から、半分夢に溶けたような声がした。




 妻だ。




 彼女もまた、羽毛布団という繭にくるまり、顔だけを出して僕を見ている。



その目はとろんと濁り、髪は爆発し、頬には枕の跡がついている。




 数年前、白いドレスに身を包み、聖女のように微笑んでいた女性と同一人物とは到底思えない。




 けれど、これが結婚の正体だった。




 永遠の愛を誓うことよりも、休日の朝に二人して泥のように眠り、社会的な義務を放棄することのほうが、よほど深い絆を必要とする。




 「……あと、五分」



 「うそつき。さっきもそう言った」



 妻はふふっと力なく笑い、再び瞼を閉じた。




 その瞬間、彼女の身体から「やる気」というエネルギーが完全に抜け落ち、堕落の底へと沈んでいく気配がした。




 その引力に、僕も抗えない。




 遠くで、ゴォォォ……という音が響いている。




 近くの幹線道路を走る大型トラックの音か、それとも風の音か。




 意識が混濁する中で、それは巨大な川のせせらぎのように聞こえた。




 (ああ、そうだ。僕たちは流されているんだ)




 人生とは、必死にオールを漕いで上流を目指すことだと思っていた。




 けれど、こうして二人、柔らかい寝具の筏にしがみつき、ただ流されるままに漂う時間も、悪くはない。




 「……おやすみ」



 僕は再び、フカフカの深淵へと頭を預けた。




 この甘美な遭難から救助されるのは、きっと空腹が限界に達する昼過ぎになるだろう。



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