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橋の上のオアシス
水苔 歩道橋
この2のお題での作品です。
国道を跨ぐ古い歩道橋。
錆びついた手すりは、夏の日差しに焼かれ、触れれば火傷しそうなほど熱を帯びている。
眼下を走る車の排気ガスと、乾いたアスファルトの匂いが、ここが生命にとって不毛の地であることを主張していた。
けれど、階段の踊り場、排水溝が詰まったコンクリートの隅に、それはあった。
誰かが落とした胞子が根付いたのか、あるいは風が運んだ奇跡か。
わずかな土埃と、昨夜の雨水を吸い込んで、水苔が鮮やかな緑のドームを作っている。
僕はしゃがみ込み、その小さな森に指を這わせる。
じゅわり。
指先に伝わるのは、この乾ききった都市で唯一の、ひやりとした潤いだった。
排気ガスの風が吹き抜ける空中で、ここだけが、静かな雨上がりの森の時間を刻んでいる。
僕は立ち上がり、その緑の小宇宙を跨いで歩き出した。
背中には、まだ指先に残る湿った感触が、微かな涼しさとなって張り付いていた。




