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螺旋の残り香

捻れた階段 煙草 冬の空 おしり探偵

この4のお題での作品です。



 非常口の重い鉄扉を押し開けると、頬を刃物で撫でられたような冷気が襲ってきた。




 ビルの裏手にへばりつくように設置された、鉄製の捻れた階段。




 錆の浮いた螺旋構造は、まるで何かの遺伝子が壊死していく様を見せつけられているようで、今の僕の気分にはひどく馴染んだ。




 僕はコートの襟を立て、鉛色の冬の空を仰ぐ。




 星一つない、のっぺりとした灰色の天井が、街全体を窒息させようとしていた。




 ポケットから最後の一本を取り出し、ジッポを弾く。




 カキン、という硬質な音が、誰もいない踊り場に反響した。




 深く吸い込んだ煙草の熱が、冷え切った肺の奥底で小さな火傷を作る。




 ゆっくりと吐き出すと、白い呼気と紫煙が縒り合わさり、頼りなく空へと昇って消えた。




 (……いつまで、続くんだろうな)




 仕事のトラブル、家のローン、妻との冷戦。




 終わりの見えない問題を反芻し、手すりに肘をついて項垂れる。




 その時、視界の隅に奇妙な色が飛び込んできた。




 錆だらけの鉄柵の根元。



そこに、場違いにポップな色彩のシールがへばりついている。




 よく見れば、それは茶色のベレー帽をかぶり、顔の形がそのまま「尻」になっている紳士――おしり探偵だった。




 誰かの子どもが、退屈紛れに貼っていったのだろうか。




 風雪に晒され、端がめくれあがっているものの、そのつぶらな瞳は、煙草を吹かす疲れ切った大人を、静かに見据えていた。




 『フーム、においますね』




 脳内で、あのアニメ特有の、妙に渋い声が再生される。




 僕の指先からは、焦げた葉の匂い。




 そして、この紳士からは、どんな難事件もププッと解決してしまう、根拠のない万能感。




 「……参ったな」



 僕は短くなったフィルターを携帯灰皿に押し込み、苦笑した。




 こんな場所で、子どもたちのヒーローに見下ろされていては、弱音も吐けない。




 捻れた階段の下から、風が吹き上げてくる。




 僕は冷え切った手で頬を叩き、尻の形の紳士に小さく敬礼をして、鉄扉のノブに手をかけた。




 「解決しなきゃな」




 再び戻る暖房の効いた部屋は、きっとここよりも息苦しい。




 けれど、ポケットの中で握りしめた小さな温もりだけは、失わずにいられそうだった。




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