首を振る影
洗濯物 スイカ 扇風機
この3つのお題での作品です。
ジジ、ジジジ……。
縁側の板張りで、首の折れかけた扇風機が、苦しそうな音を立てて回っている。
その羽が送り出すのは、涼しさというよりは、庭の草いきれを含んだ生温かい空気の塊だった。
「……今年も、暑いな」
独り言は、誰の耳にも届くことなく、湿った大気に吸い込まれて消えた。
目の前の丸いちゃぶ台には、大皿に盛られた二切れのスイカが置かれている。
井戸水で冷やしたばかりのそれは、表面にびっしりと汗をかき、鮮烈な赤色でこの古びた家の色彩を切り裂いていた。
僕はその一つを手に取り、無造作にかぶりつく。
シャリッという音と共に、過剰な甘みが口いっぱいに広がった。種を庭先へプッと吹き飛ばすと、それは乾いた土の上で小さく跳ねて静止した。
もう一切れのスイカは、手付かずのまま残っている。
時間の経過とともに、その鋭角な先端から赤い果汁が滲み出し、皿の底に小さな海を作っていた。
ふと、視線を庭に向ける。
物干し竿に吊るされた洗濯物が、気まぐれな風に煽られて、バタバタと音を立てていた。
眩しいほどに白い、麻のワンピース。
陽光を透かして膨らむそのシルエットは、まるで目に見えない誰かが、今まさにそれを纏って踊っているかのように見える。
(ああ、そうか。君はまだ、そこにいたのか)
扇風機が「カチッ」と音を立てて折り返し、首を右へと振った。
風が、僕の頬を撫で、そして通り過ぎていく。
その風の行き先には、誰も座っていない座布団が、ぽつんと置かれているだけだ。
けれど、扇風機は律儀に、その無人の空間へ向けて風を送り続けている。
まるで、そこにある「不在の熱」を冷まそうとするかのように。
「……食わないなら、俺が貰うぞ」
僕は強がりを口にして、溶けかけた二切れ目に手を伸ばした。
ぬるくなった果肉は、最初の一切れよりも、どこか塩辛い味がした。
庭では、蝉たちが命を削るように鳴き続けている。
白いワンピースだけが、主を失ったまま、いつまでも夏の空に手を伸ばしていた。




