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雨上がり


  ドシャ、ドシャ、と窓を叩く大粒の雨音で目が覚める。



 カーテンを開けると、空は鉛色に沈み、視界は雨粒でぼやけている。



 この荒れ狂う天候を嫌がっているのか、テーブルの上にある観葉植物は下を向いて縮こまっていた。


 (ああ、なんだか気が滅入るな……)


 俺はため息をつき、小さなサボテンに目をやった。



 それは、以前、友人が引越し祝いにくれた、小さなサボテンだった。


貰ったばかりの頃は、掌に乗るほどの大きさだった。


今だに掌程のサイズで成長しているのかはわからないが、静かに息づいている。



 俺は、なんとなく気分が晴れないまま、一日を過ごした。


窓の外は相変わらず激しい雨が降り続いていたが、夕方になると、雨音はいつの間にか遠くなっていた。


そして、気がつくと完全に止んでいた。



 空はまだ曇ったままだが、雲の切れ間から、わずかに光が差し込むこともない。



 だが、雨が止んだことで、空気が少しだけ澄んだような気がした。



 窓を開けると、ひんやりとした風が部屋の中に流れ込んでくる。



 俺は、彼に目をやった。



 サボテンは、雨に濡れることなく、凛とした姿でそこにいる。



 俺は、水の入った霧吹きを用意し、それをサボテンに与えようとした。



 しかし、その手は途中で止まった。



 (……水やり、しなくていいか)



 サボテンは、もともと乾燥に強い植物だ。



 雨が降った後なら、すぐに水をやる必要はない。



 俺は、霧吹きを静かに棚へと流した。




 代わりに、窓を開け放ち、外の空気を吸い込む。



 雨上がりの匂い。


 土と草の匂いが混じり合い、どこか懐かしいような、切ないようなそんな香りがした。



 彼は、そんな俺の様子を、何も言わずに見守っている。



 その姿は、まるで、どんな状況でも、自分の力だけで立ち向かっていける、そんな強さを持っているように見えた。




 俺は、もう一度、窓の外を眺めた。


 空は相変わらず曇っている。

 

 

 それでも、雨は止んだ。



 俺の心も、いつか、この空のように、雲が晴れる日が来るのだろうか。



 俺は、何も言わないサボテンに、そっと語りかける。



「お前は、強いな……」



 言葉の代わりに、俺の胸に、暖かい光が灯った。



 サボテンは、今日もそこにいる。



 大粒の雨が降っても、水やりをされなくても、ただ、そこに。



 俺は、その姿に、静かな希望を見出した。


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