プロローグ
四角形。それは、世の中のありとあらゆる場所に使われる図形の王である。建築物、家具、今あなたが覗き込んでいる画面、文字、ありとあらゆる所に四角形は生きているのだ。四角形の存在しない世の中など有り得ないのだ。
そんな四角形の中でも別格の威圧感を放つ存在、正方形。美しい直角、1ミリのズレも許されない4つの辺、まさに至高。
もし、まるで正方形のような完璧な男がいたら、俺は男ながらに惚れてしまうだろう。しかし、この世界にそんな完璧な人間など存在しない。
だが、この物語はフィクションである。現実ではない。舞台は異世界である。ならば、その正方形のような究極の人間が存在していても良いではないか。
世界で最も完璧な者に与えられる称号、“究極の正方形”。
この世界なら、人類は皆、“究極の正方形”を目指して良いのだ!
――――――
僕は四宮ハヤテ。ごく普通の中学生である。成績はそこそこ、運動は少し苦手だが、走るのだけは得意だった。おかげで「俊足の四宮」なんてあだ名を付けられてしまった。四宮は今年の春で3年生になる。生徒会の書記として青春を謳歌するのだ。
僕には、将来、地元の市長になりたいという夢がある。生徒会選挙に出たのも夢に近づくためである。僕は日々努力を続けた。
しかし、その努力が実る事はなかった。
目の前が暗い。何も見えない。
僕は車に跳ねられて死んだ。
僕には好きな人がいた。名前はサラサという。彼女には一度振られてしまったが、もう一度、想いを伝えたかった。
ああ、もう一度生き返れたら、どれほど幸せだろうか!神様、僕を生き返らせてくれ⋯!!
しかし、そんな想いが届くわけもない。
目の前が暗い。そうだ。僕は死んだのだ。
現実を見よう。僕は死んだ。これが現実だ。もう諦めよう。
僕は絶望した。
でも、この感覚はなんだ。まだ、死んでいないかのような⋯。
体が⋯動かせる。
僕はゆっくりと起き上がろうとしてみた。何やら重い布のようなものに覆われている。僕はそれを退かして上半身を起こした。
目の前に広がる光景は、日本ではなかった。
「どこだ⋯ここは。僕はどこに、いや何故飛ばされたんだ?」
目の前には西洋風の建物が連なっていた。
人もいる。ここはおそらくヨーロッパ。なぜ僕はこんなところに?僕は死んでいなかったのか?もしかすると僕は車に跳ねられてしまったが奇跡の生還を果たしたのかもしれない。今はポジティブに考えよう。僕は生きている!
しかし僕は英語を会話できるほど使いこなせない。まあ良い。なんとか伝えるんだ。そこにいる老人に話しかけてみよう。
「⋯すみません。いや、エクス⋯キューズ⋯⋯ミー、ここはどこですか?」
「ここは見ての通りの住宅街だが、君は迷子かい?」
なぜだ?僕の言葉が通じる。ここは日本なのか?なら良かった。帰れる。僕は生き返ったのかもしれない。もしかしたら、そもそも死んでいなかったかもしれない。とりあえずここがどこか聞いてみよう。
「いえ、具体的に地名を教えて欲しいです。ここは何県ですか?」
「何ケン?ケンってなんだ。地名なら、ここはセクメーアの城下町だ。」
どういう事だ?ここは日本ではないのか?ならなぜ言葉が通じている?
「すみません、変な事言って。ありがとうございました。」
状況が理解できない。
老人は少し戸惑った様子で僕を見ていた。
しかし、あまりにも不思議な事が多すぎる。ここはどこなのか。聞いた事のない国名だ。建物の雰囲気や通行人の顔立ちを見るに、ヨーロッパの国なのは間違いなさそうだ。ではなぜ日本語が通じたのか。なぜ話すことが出来たのか。
いや、今考えるべきはそれではない。なぜ僕はここにいる。なぜ、車に跳ねられて生きている。
死んでなかったのか?
いや、僕は死んだ。絶対に死んだ。車に跳ねられた感触を確かに覚えている。
僕は死んだのだ。
⋯⋯異世界転移?
まさか、僕はラノベの主人公じゃないんだぞ。現実を見ろ。
しかし、これは、僕が異世界に転生したと考えれば全て説明がつく。
今はもっと情報を集めよう。それしかない。僕だけで解決できる問題ではない。
そういや、僕の見た目は何も変わっていない。服装も、生前に着ていた制服のままだ。
僕は、顔に触れ、とある重大な事実に気がついたのだ。
顔が⋯四角い?
どこかに鏡はないのか!?
そのとき、僕が後ろの家の窓を見ると同時に、綺麗な四角形の形をした顔が映し出された。
僕はショックで気絶した。
⋯ここはどこだ?また死んだのか?いや、今回はただの気絶だ。誰かが運んでくれたのか?
「王様、目が覚めました!」
「本当か!?すぐに行く!」
誰だ?王様?この国の王か?
「私はこの国の王、ウィシュバースだ。君の名前を教えてくれ。」
前世の名前で良いのだろうか。
「四宮⋯ハヤテです。」
「やはり、あなたがシノミヤ一族の末裔であったか!」
どういうことだ?四宮は日本の名前だ。なぜ知っている?
「ずっと、ずっと探していた⋯!」
「あの⋯シノミヤ一族って何ですか?」
「自覚がないかもしれぬが、あなたは異世界からの使者だ。この世界とは別の次元の世界、異世界。そこで命を落としたシノミヤの一族の人間は、この世界に突如として現れるのだ。しかし、シノミヤ一族の人間が現れるのは50年ぶりだ。何か、良からぬ事が起こるかもしれぬ。」
隣にいた侍女らしき女性が話し出す。
「この世界には、四角魔術という、世界最強の魔術があります。貴方様は顔が四角く整っておられる。」
おいおいそれは悪口か?
「四角い顔を持つ人間は、その顔の四角が正方形に近い者ほど究極の人間“究極の正方形”となるかもしれない逸材だと言われています。さらに貴方様はシノミヤ一族です。」
「なら、僕にはその、四角魔術とやらが使えるのですか?」
「今のあなたからは魔力をほとんど感じません。けれど、修行を積めば必ず魔力は増えます。そして、四角魔術を使えるようになり、いずれ、“究極の正方形”となるかもしれません。」
「ちなみに、“究極の正方形”になる条件とか、なにかあるのですか?」
「300年に一度現れ、一国を滅ぼすと言われる、伝説の白龍の討伐です。しかし、毎回撃退、もしくは敗北し、一国が滅亡してしまう結果に終わり、もう1万年以上討伐できていないんです。」
「討伐できた人はいるのですか?」
「討伐できた者はこの世界に3人だけ。そのうち一人は長寿の種族なので、白龍討伐を目標にするならまずはその方にお会いするべきかと。冒険者ギルドに行けば何か情報を得られるかもしれません!」
「そういや、今年で前回の白龍災害から298年、シノミヤハヤテ殿、あなたは、神がこの世界に送った白龍討伐の希望の光なのかもしれぬ。」
白龍討伐⋯。討伐できた者は3人だけ。おそらく過酷な旅になるのだろう。だからといって、この世界で他にすることはない。この世界では、前世の夢も叶えられない。
でも、僕はこの世界での新たな夢を見つけた。なってやろうじゃないか。その究極の人間に。
サラサちゃん、見てて。僕は必ず、“究極の正方形”になってやる。